彼と私の間を吹き抜ける風はとても静かで、だけど強くて、この距離を縮めることは出来そうにもない。

「おい」

何か用か、と窓際で佇んでいた彼は立ち尽くしていた私に気付き声をかけられた。

「いえ、たまたま通りがかっただけです」

「そうか」

そういって再び背を向けた彼の後ろ姿は何か寂しさを帯びている。近くに行こうかと思ったのだが、何故か近寄りがたくて一歩を踏み出すことができない。私が気が弱いのか、それとも彼が拒否しているのかはわからないが、これ以上ここにいては行けないように感じた。

「お疲れさまでした」

背中に向かって小さく呟き、そこから離れる。
彼に何があったのかわからないけれど、恐らく彼は誰にも話さずに抱え込み、それを乗り越えて行くのだろう。


Why not?


あえて触れないことも優しさである



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