私の視線の先にはいつも彼がいて、彼の視線の先には何が映っているのだろう。


「ボケーッとしてんな、そんな間があるならできることしろ」

「この時はこうした方が...」

「この前の資料だ、次の会議で使うから目通しておけ」


彼がすること、言うこと、一同一句に周りの女の子たちは目を奪われ、騒ぎ立てる。彼女たちが彼に恋をしているのは一瞬にしてわかることで、この学園一度は彼に夢を見るのではないだろうかと思う。


「あんたたちまたその話?」

「いいじゃん、いいじゃん!どれだけ話しても跡部様の雄姿は尽きないんだから」

「そうそう」

あっそう、と彼女たちの話を左から右に聞き流す。
この学園はいつも彼の話が飛び交う。それもいつも同じ話ではなく、毎日彼に関する話は違っていて、どれほどこの学園の関心を誘っているのか目に見えそうなほどである。

「あ、跡部様!」

彼女たちの声が上がり、名前の主の方へ目を向ける。
相変わらず、彼が通る廊下は騒がしく、どこにいるのか一瞬にしてわかる。

「本当にあんた興味ないよね」

「あ、うん」

「なんで、なんで?あ、もしかして、他に好きな人がいるから?」

誰誰?と騒ぎ始めた彼女たちを、はいはいと交わし、チャイムが鳴るのを待った。
いつも同じ話題で飽きないのだろうかと思うのだけど、同じような話でも騒げるのはこの年代の人なら皆そうか、と色々と考えて思い、考えるのをやめた。



放課後、廊下を一人歩く。部活の後忘れ物をし、教室まで忘れ物を取りに行き、来た廊下を戻る。日は落ちてきていて、さっきまで校舎を照らしていた太陽は色を変え、オレンジ色の光が空一面に広がっていた。
廊下を歩いていると廊下の先で一人の生徒が曲がってきたのが見える。その生徒が誰だかわかると、彼から視線を反らし、視線を下に向ける。だんだん近づいてくるその気配にただ黙って通り過ぎるしかないと思ったのだが、すれ違う一瞬視線を上げ、彼を見る。すると、一瞬だけだが彼と視線が合い、また反らした。
ふとすれ違う瞬間にかおる香。ああ、いつもと同じ香だと思った後、一瞬頭の上に重さがかかり、またすぐになくなった。何が起こったのかわからず、振り向く。振り向いた先にはやはり彼の背中しか見えなかった。


You take my breath away



その時思ったのだ、私もやっぱり彼に焦がれている一人なのだと




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