「みょうじさんの手は小さいな」
何事かと思い、隣の柳くんの方に目を向けると、ほら、と自身の手を広げて私の方に向けてきた。
「ほらって。そりゃ当たり前じゃん。柳くんと私は身長全然違うし、むしろ柳くんの手が私と同じだったらびっくりするよ」
そう答えると、はは、確かにそうだなと苦笑いを返された。
「だが、俺と比べなくともみょうじさんの手は小さい方ではないか?」
「そうだよ。小さいけど何」
「・・・小さいこと、それほど気にしているのか」
珍しく気を遣うように問うてきた柳くんにムッと口を噤む。いつもズバズバと聞いてくるから珍しいとは思ったが、そんなことより意外だとでも言いそうな表情をしているため、少し腹が立った。
「柳くんみたいな背の高い人にはわからないだろうけど、小さい人は大きくなりたいものだよ」
「そういうものなのか、それはすまない。気に障ったのであれば謝る」
眉を下げて、申し訳なさそうにされる。言い過ぎたかなと思い、大きく息を吐き出す。こんなことでちょっと腹が立って大人気なかったな。
「だが、前も言ったと思うが、俺はみょうじさんはそのくらいの方が可愛いと思うぞ」
「大きい人は皆そう言うよね。小さい人の気持ちを考えずに」
「いや、すまない、すまない」
何度も拗ねたように愚痴を叩く私に柳くんは手を口元に持って行き、少し笑みを浮かべている。もういいや、と溜息を吐く。
「手を出してくれないか」
口元から手を外した柳くんは、私の方に手のひらを向けて差し出してきた。もういいや、と思い、同じように手を出す。きっと手の大きさを比べたいのだろう。私の予想通り、柳くんは私の手の平に、自身の手を合わせた。
「やはり、第一関節、いや第二関節近く違うな」
「そうだとは思っていた」
「ふむ、だが悪くはないな」
「ん?どういうこと?」
「なるほど、思っていた以上に、ということだな」
「柳くん?」
「それに」
私の質問に答えず、一人勝手に納得し、独り言のように話を進めている柳くんに首を傾げる。その瞬間、手の平に感じていた感触が動き、指の間をスライドするように感触がすり抜けた。
「こうしてしまえば、大きさなどわからないだろう」
いつも授業を受けながら考え事をしている時と同じ表情をしている柳くんを見つめたまま私は固まった。視線だけ一瞬、柳くんと交互に繋がれている手に向ける。再び、柳くんに向けた。
「・・・え?」
何が起こったのか一瞬わからず、柳くんと手を交互に見つめる。繰り返していると柳くんと目が合い、私の反応に気が付いた柳くんは静かに頬を緩め、目じりが下がった。
「さあ、後10秒で本鈴が鳴るな」
柳くんは手を離し、体の向きを正した。私はといえば、本鈴が鳴るまで柳くんの方を向いたまま、固まっていた。繋いでいた手を見つめる。離れる時、すり抜けていった感触がまだ残っている。
ああもう、柳くんずるいな!
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