「柳せんぱ―――――――――――い」

休み時間に入って間もなく教室に元気な声が響いた。声の主は私の隣の席に飛び込むようにやってきた。

「柳先輩聞いてくださいよ!俺が再テスト受けることになったってどこからか聞いた真田副部長が教室までやってきてわざわざ説教師に来たんすよ!再テストって言ってもまだ1回目なんスよ!何回も受けてならまだわかるんスけど、1回目で怒られるって意味が分からないんスけど!理不尽と思わないッスか!」

やってきた彼にいつものように静かに視線を柳くんが向けると、彼は矢継ぎ早に話し始めた。少し怒っているようにも見えるがただ今聞こえてきた内容からすると、どう考えても彼が怒る理由がわからない。さっき聞こえた名前からして恐らく同じ学年のテニス部の真田くんのことだろう。わざわざ教室まで言いに行ったのは行き過ぎかもしれないが、だがどう考えても彼の方が怒られる理由があるように思うし、というかまだ1回目の再テストっていつも何回受けているのだろうとか、今聞いた内容だけでも色々と考えてしまう内容だった。

矢継ぎ早に話す彼の話をいつものごとく静かに聞いていた柳くんは、彼が話し終わったのを確認すると一度頷いて口を開いた。彼は走ってきてそのままの勢いで話していたため今は息を切らしている。

「赤也、それはお前が悪い」

柳くんがその一言を言うと「ハア―――?!なんでッスか?!」とあり得ないとでもいうかのような驚愕な表情をし、前のめりになっていた。

「俺が再テストなんていつものことじゃないッスか!」

「こら、いつものこととか言うんじゃない」

柳くんは後輩の言葉に少し眉を下げる。

「弦一郎も俺もお前に赤点なんて取ってほしいとは思っていないんだ。お前はテニスが好きだから、その時間が削られるのが嫌だと思うし、再テストする時間があればテニスがしたいだろう?そうではないのか?」

「・・・そうっスけど」

「だが、お前は頭がいいとは一概には言えないからできる限り俺や弦一郎、柳生など皆協力してお前が再テストを受けないで済むように極力合間にテスト勉強の手伝いをしている。弦一郎もお前のために注意したのに、その弦一郎に対してお前はそのようなことを言うとは。まあ、弦一郎も少し行き過ぎなところはあるが、お前を心配しての行動だろう。その心配している弦一郎をお前は」

柳くんが息継ぎをせず淡々と話す。それを聞いていた彼はみるみる元気がなくなっていき、最後には他人の私でもわかるほど頭が垂れていた。

「お前がそのような態度ならこれからは俺も協力できないな」

そう言って柳くんは大きく息を吐き出した。その言葉を聞いた彼は勢いよく頭をあげた。

「そ、そ、それは困りますよ!柳先輩が俺の唯一の頼みなんスから!柳先輩に見捨てられたら俺どうこの学校で生きていけばいいんスかあ」

今にも泣きだしそうなくらい柳くんにすがりついた彼を見て、柳くんは再度大きくため息を吐きだした。

「わかってくれればいいんだ、赤也。俺もお前を見捨てたくはない。お前はバカだが、素直でいい奴だからな。だからまあ、弦一郎の親心もわかってやってくれ」

「・・・ッス」

彼は柳くんの言葉に小さく声を出して頷いた。
今何気にバカだからといったが、それはいいのだろうか。色々思うところがあるが、何も言わないところを見るといいということなのだろう。 ...いいのか?

「また部活の時でも再テストの範囲を見せにきてくれたらいい。その時は、俺がテスト勉強に付き合ってやろう。だから、弦一郎のことはこれ以上言うな。それでいいな?」

「ハイッ!」

彼は柳くんの言葉に目をキラキラ輝かせて返事をした。怒ったり、落ち込んだり、喜んだり、短い時間でコロコロと表情の変わる人だなぁ。

「もう予鈴が鳴るぞ、教室へ戻れ」

「柳先輩、ありがとうございました!また来るッス!」

そう言って、きた時と同じように元気よく返事をし、走り去って行ってしまった彼の背中を教室の扉が閉まるまで見届ける。なんとまあ嵐のような子だったなあと、次の授業の支度を終えて、ふう、と一息ついた。

「可愛いバカだろう、赤也は」

隣から聞こえてきた声に、えっ?と顔を向けると柳くんが私の方に視線を向けていた。

「部活の後輩なんだが、テニスはできるが、勉強の方が心配でな」

少し眉を下げて、苦笑いをこぼしながら話す柳くん。

ああ、これは――



盗み聞きしていたのばれてます、よね?