「みょうじ、すまないが消しゴムを貸してもらえるか」

授業開始直前、隣の席の柳くんに話しかけられた。

「いいよ」

筆箱に2つ入っていたうちの1つの消しゴムを柳くんに手渡す。しかし、なんでも完璧と思われる柳くんが消しゴムを忘れるということってあるんだなと思ったが、そんなこともあるよねと特に気にすることなく、すぐに始まった授業に私の意識は移った。

「みょうじありがとう。大変助かった」

その日の授業が終わり、放課後柳くんに話しかけられ、消しゴムが私の手元に返ってきた。

「ううん、どういたしまして。けど、柳くんも消しゴムを忘れることあるんだね」

「あ、ああ。忘れたというよりも俺の場合はなくなったという方が正しい」

「なくなった?」

消しゴムがなくなる?どういうことだろう?と考える。どこかに忘れてきたとか、落として見つからないとか?けど、俺の場合ってどういうことだろう。

「そうだ、他の人よりも消しゴムを消費する速さが早いため、すぐに使い切ってしまう。いつも2、3個消しゴムを持ってきているのだが、足して入れておくのを忘れてしまうことがある」

「え、そういうこと?」

まさかの返事に柳くんを見たまま固まる。なくなるってそういうこと?柳くんがよく消しゴムを使うから、その日のうちに消しゴムがなくなってしまうってこと?いやいや、それおかしいでしょ。いくらなんでも一日で消しゴムを2、3個使うとか...。しかし、柳くんの表情は冗談を言っているようではなく、いつも通り冷静なままであり、むしろ私の顔を見て少し首をかしげていた。本気か、うん、本気で言ってる。

「そうなんだ、へー、大変だね」

「ああ」

「またなくなったら言ってね」

「ああ、助かる」

ではまた明日、と机の横に置いてあったテニスバックを持って柳くんは教室を出ていった。