さて、種明かしをしよう。

俺がこの計画を立て始めたのは、今回の席替えが行われる3回前の席替えからだ。前々からみょうじのことが気になっており、合間を見て観察していたのだが、3回前の席替えの際俺は気が付いた。彼女は席替えでくじを引き席がわかった時、移動する予定の席に一度目を向けるのだ。その前の席がえの際は、それほど気にならなかったため気にも留めていなかったが、その時はあまり好きな席ではなかったのだろう、一度目を向けた後小さくため息をついており、もしやと思い、移動した後席を確認すると目を向けていた方向に座っていたのだ。その次の席替えの際に再度彼女が席に目を向けるのか見ていたのだが、やはり目を向けており、俺の中の推測は確信へと変わった。ということは、次の席替えの時、くじの後目を向けた方向が彼女が移動する予定の場所のはずだ。幸いその時の彼女の席は、教室の中央やや前方であったため、目を向けた時わかりやすい。今回席替えのくじを彼女が引いた後の行動に目を凝らし、俺は彼女の席の近くを確保することにしたのだ。くじを引いた後、席を交換してもらったのだが、交換の理由など適当に理由をつければどうにでもなる。彼女の隣の席が誰であるかも、皆の会話に耳を傾けて聞いていると特定も難しくはなかった。そうして彼女の席の隣を確保したのだ。
取りあえず、隣の席を確保したのはよかったが、ここからがどのように距離を詰めていくかである。彼女と俺は今まで接点がなかったといっても過言ではない。だが、距離を縮めていくには、多少不自然でも話しかけていく必要がある。前から考えてあった順に話しかけていくことにした。初めに、忘れ物をしたと話し迷惑にならない程度に彼女の物品を借りる。前々から消しゴムは2つ持っていることは確認してあったし、彼女の反応を見て俺が嫌いとか、話されるのが嫌とかそのような感じは見られないことが分かった。だが、嫌いとかではないが、興味があるかは別の話だ。興味をもってもらうために、距離を確認しながら少しずつ親しい話に変えていく。特に嫌がることもなく、話してくれる彼女は愛らしかった。だが、身長のことになると少しムキになる。俺からすれば小さすぎるとは思わないし、身長など気にしはしないが、彼女からすれば気になることだったらしい。隣の席となれば、彼女の生活リズムや癖、細かな動作がわかるようになってきた。筆記用具の置き方、興味のある教科、文字の書き方、眠たくなる前の表情、耳に髪をかける時のしぐさ、遠くから見ていた時よりも細かなところに気づく。見ていて飽きないのだ。それに彼女は人に触られることにそれほどためらいもない。手を合わせる時も頭を撫でた時も特に拒否することもなく、受け入れていた。俺としては好ましいが、誰にでもそのような感じであれば少し心配だ。この点は今後考えなければならない。
このような感じで彼女との距離を詰めていっていたのだが、そろそろタイムリミットらしい。明日席替えが行われ、席を移動する。この度は近くの席を確保できたが、次も近くの席を確保できると100%断言することはできない。だから、俺は期間は短かったが、先手を打つことにしたのだ。一か月という短い期間だ。彼女が俺を好きになるとは限らないし、そのような感触は見られない。だが、このまま席が離れると、接点がなくなる可能性がある。ならば、先に俺の気持ちを伝えておき、彼女に意識をしてもらう。さすれば、席が離れたとしても、接点を作りやすいし、彼女側も友人としてではなく俺を男として意識してもらいやすいだろう。

「ということだ」

淡々と今までの経過を話す柳くんに、何も答えることができず固まる。

「俺はお前が好きだ。付き合ってくれないか」

今までの経過を聞いた中で、再度告げられ、もう一度彼の目を見る。

「考えておく」

そう答えると、「そう返されると思っていた」と少し眉を下げつつ、苦笑した。

「では、お互い部活があるため、今日はこれまでとしよう。明日からもよろしく頼む」

そう言って立ち上がった柳くんに頷くと、おもむろに彼は私の席に手を置いた。

「これをお前にやろう」

そう話し机から手を離し、教室の扉の方に歩き始めた。机の上に置かれていたのは彼の使いかけの消しゴムだった。どういうことか、消しゴムを手に持ち考える。

「前に借りたからな、それのお返しだ」

教室から出ていく直前に振り向き、そういった彼は再び歩みを進め、出ていってしまった。
律儀だなあ、と消しゴムを見ながら一人で笑う。新品でもなく、なくなりかけでもなく、中途半端に使われた消しゴム。なんだか柳くんらしいようでらしくない。消しゴムをクルクル眺める。ふと、消しゴムに黒い線が入っていることに気が付いた。自然とついたものと一瞬思ったが、不自然な線の付き方だ。まさか、と思い、消しゴムのカバーを外す。カバーを外すと予測していたものがあり、目を見開いたが、その後この意図に気が付き、頬を赤らめる。


成程、もうこの消しゴムは必要ないということですか