「みょうじさん、放課後少し時間いいか?」

昼休みが終わる前、席に着席する際、柳くんに声をかけられた。部活前の少しの時間なら、と返すと、ああ長くはかからないと言われたため、了承した。場所は特にどこに行くというわけでもなく、授業が終了後、そのままこの席に待っていたらいいとのことらしい。まあ、そんな感じだから難しい話でもなさそうだ。しかし、わざわざ放課後時間を取ってまで話すことって何だろう?と一瞬考えたが、先生が教室に入ってきたため、考えることを止め、ノートを開く。午後の授業を淡々と終わらし、最後を知らせるチャイムが鳴った。少し待つように私に告げた柳くんは、終わってすぐに席を一瞬立って教室を出ていってしまった。私もいつも一緒に部活に向かう友だちに先に行ってもらうように告げに行く。友達に告げた後、席に戻り、ぼーっと柳くんを待つ。しばらくすると騒がしかった教室も皆帰ったか、部活へ向かったのか少し人が減ってきて、話し声はぼそぼそと聞こえてくる程度になってきた。

「待たせてすまないな」

どこかへ行っていた柳くんが戻ってくる。同じく席についた柳くんに大丈夫と返す。

「で、どうしたの?」

わざわざ放課後話すような用事なのだ、いつもとは違う話なのだろう。私の言葉に一瞬視線を別の所に向け考えるようなしぐさを見せる。少し話しにくい内容なのだろうか。だが、すぐに彼は視線を私に戻した。

「みょうじさんは、好きな人はいるのだろうか」

「え?」

思いもよらぬ質問に柳くんを見つめたまま瞬きを繰り返す。

「え?」

「いや、今までの反応からするといるという可能性は低いのだが、だがこういう事象は俺の予測を反することがある。いるのであれば、難しいかもしれないが、いやだが難しいだけであり可能性がないわけではなく諦めるというわけではない。だが、いないというのであれば、これからの俺の可能性がいる場合と比べ限りなく高くなり」
「ちょっと待って何言ってるかわからない」

私が反応しきれずに固まっていると、柳くんが一人淡々とよくわからないことを話し始めた。急に話し始めたことに私の動きの遅い頭はついていくことができず、取りあえず柳くん一人だけわかっているという状況をやめてもらう。

「ああ、すまない。はあ...俺も似合わず緊張しているようだ」

深呼吸のように大きく静かに息を吐き出した柳くんは再びゆっくりと口を開いた。

「俺は君に好意を抱いている。俺と付き合ってもらえないだろうか」

今度は先程とは異なりはっきりと伝えられる。付き合う、柳くんと、私が?一つひとつの言葉を整理し、頭の中を落ち着かせていく。私の反応を待っていた柳くんが少し眉を下げた。

「このまま席が離れてしまうと、次のチャンスを逃してしまいそうな気がしたからな。折角、隣の席になり話す機会ができたんだ、このまま席が離れてしまうのは忍びない」

ああ、そうかそういえば明日は席替えの日だ。柳くんの話すことで何となく言いたいことがわかってきた。

「次の席替えで確実にまた近くの席になれるとは限らないからな。席を変わってもらえるとは限らないしな」

ああ、成程。妙に冷静に、彼の話していることを考えていると、あれ?

「...柳くん」

「ん?」

「それっていつから?」

「...ふ、何時からだろうな」

柳くんは私の言葉に一瞬薄く開眼したが、すぐにいつもの表情に変わり、口角をあげた。


そうか、恐らくこれは大分前から仕組まれていたんだ。