04 「なつちゃん」 休みの日、特にすることもなく、町をぶらぶらしていると、後ろから声をかけられた。振り向くとそこにいたのはよく廊下で見かける明るい頭だった。 「何々、今1人?」 その時はそんなにも親しくなかったにも関わらず、まるでよく話す仲であるかのように話しかけてきた彼に、「はぁそうだけど」と気の抜けた返事を返すことしかできなかった。じゃあさ、一緒に遊ぼうよと言ってきた彼に思わず顔をしかめる。 『なんで?』 「だって、1人なんでしょ?」 『千石は?』 「俺も一人だよ。」 『はぁ、そう』 別にいいと言えばいいんだけれども、若干気が引けるというのが本音だ。なんでかって?そりゃそうでしょ。数回しか話したことのない相手が偶々町で会って遊ぼうって困るにきまっている。まぁ、特に行かなければいけないところがあるわけでもないし、いいんだけど、彼と何をして一緒に過ごすのかって話だよ。別に嫌なんじゃない、どうしたらいいのか困るんだ。第一、特に親しくないのに彼と一緒に過ごしているところを他の人に見られてどうこう言われるのもめんどくさい。だって千石の頭目立つじゃん。軽いって噂は聞くけど、前少し話した限りはただ軽いだけではなさそうだ。けど、彼が女の子たちに人気があって、結構なプレイボーイだっていうのは恐らく事実ではあるだろうし、今まで目立たないように過ごしてきた私にとっては変な噂を立てられては困るものである。まぁ、つまり、めんどくさい。 「あ、今嫌だと思ってるでしょ」 笑いながら言った彼に苦笑いを返す。 嫌ではないんだよ、めんどくさいの。 「ちょっとブラブラするだけ、ね?」 そう言われ、苦笑いを溢しながら、小さく頷いた。 先を歩く彼の後ろを少し間隔を空けて、ついていく。 「なつちゃんはどこか行く予定だったの?」 『いや、暇だから歩いていただけだけど』 「そうなんだ、俺も今日は部活が休みで特にすることがなくてね、空いている女の子いないかなって思ってさ」 『はぁ』 私でいいのか、と返したいところだが、それは言わないでおくことにする。 本当にどこかの店に入ることもなく、ただ街をぶらぶらと歩いていた。 「・・・なつちゃんはさ、何も言わないよね」 歩いていて、いきなり言われた言葉に首を傾げる。何が?と問えば、俺が軟派なことを言ってもさ、何も返さないよねと。 『何、何か言われたいわけ?』 そう返せば、そうじゃないんだけどさ、と少し笑いながら彼は言った。 「いや、よく何言ってるの?とか、軽〜い!とか、色々と言われるからさ、なんていうかいつもと違う反応でびっくりするっていうか、反応に困るっていうか、ね」 『・・へー』 どう返せば普通の反応なのか、よくわからないけれども、私の反応が彼を困らせるらしい。このまま一緒にいるのも疲れさせちゃうかもなと思って、どうにかしてうまいこと言った方がいいのかなとか考えていたら、前から小さく声が聞こえてきた。 けど、こういうのも新鮮で悪くないね 声の方に目を向けると、彼が正面に顔を向けたままふんわりとほくそ笑んでいた。 どういう意味よ、と返しておいたけれども、表情からして悪い意味ではないのだろう。彼に見えないように、下を向いて少しだけ笑っておいた。 「なんかさ、女の子といる感じがしないんだよね」 『はぁ?それ、女の私を目の前にして言うの?』 「いい意味でだよ、いい意味で」 『あっそ、私も千石といると、男といる感じがしないかな』 「なにそれ、嫌み?」 『そっちが先に言ったんでしょ』 「そうだけどさ・・・」 『けど―』 ―私もそういうのは嫌いじゃないよ 「・・え、今なんて言った?」 『なんでもない』 . |