02 . 千石と初めて話したのは、ん〜そうね、中学一年の時の曇った日の下駄箱だったような気がする。 それまで名前は聞いたことはあったけれども、同じクラスではなかったし、話したこともないし、興味も特になく、関わることなんてこれから先もないと思っていた。思い返してみると、とても不思議だ。 あの日は部活がいつもより遅く終わった日で、いつも通り部活の皆と一緒に帰るはずだった。それなのに教室に忘れ物をしてしまったことに帰りに気づいて、皆と別れた私は教室に忘れ物を取りに行った。無事に忘れ物を取り、靴を履き替え、下駄箱を出ようとした時、ふと目の端にオレンジ色の頭が見えた。そんな頭をしているのはこの学校にただ一人しかいなくて、彼も部活を終えて帰るのだろうとただそう思って、私も外に向かって歩き始めた。けれど、彼が立っている位置まで後数歩ってところで何故か私の足が止まった。 「ん?どうかしたの?」 立ち止まり、彼を見ていると、私の存在に気付いた彼は振り向き、ニコッと笑いながら問うた。 「いや、別に」 太陽みたいな頭だなと思って、とそういうと彼はよく言われると返事を返した。 「けど、」 今日は曇ってるね 彼は私の言葉に目を大きく開いた。 「・・ああ、天気の事?そうだね、天気がよかったら、」 「ううん、千石君が」 私の言葉がその時の天気だと思った彼は笑ってごまかしたようだけれども、私が言いなおすと、それまでの笑顔が止まって、苦笑いに変わった。 「そう見える?」 「なんとなく」 「そっか、気をつけていたつもりなんだけどなー」 苦笑いしながら明るく返した彼に、ふーんといつものテンションで返す。 「けど、たまには曇ってもいいんじゃない。明るいばかりじゃ太陽だって疲れるよ」 彼を見ながら言うと、苦笑いをしていた彼の表情が固まった。そんな驚かすつもりはなかったのだけれど、私の言葉が意外だったのか目をパチパチと瞬きをさせていた。その後、 「そうかもね」 と睫毛を下げ、少し寂しそうに笑った彼を見て、止めていた足を進める。 ―ありがとう 後ろから小さな声で聞こえた声は少し笑っているように聞こえた。 . まぁ、そんな感じで初めて話して、その後なんか色々と変なところで出くわして話すようになったんだけど、 「なつちゃん、これ」 「え、ああ、ってちょっと」 「前のお返し」 そう言って、右2つ離れた席から投げてきたものを受け取る。受け取ったものを見て、思わず顔をしかめた。 「水・・」 あいつ、私のこと絶対女だと思ってないな。女の子に水あげる男子なんて千石しか見たことも聞いたこともない。 まぁ、水好きだからいいけどさ。 . |