‐Long Story‐


09

※嫌な場面あり。

見たくない人はすぐにお戻りください。




**************



「くそっ、」

今俺は校内のあらゆるところに行っては戻り、駆けまわっている。

なんで、なつちゃんなんだよ。



事を知ったのは、放課後。なつちゃんの友だちが俺に言った言葉だった。

「あれ?千石、なつと一緒にいたんじゃないの?」

「え?いや、今先生に呼ばれてて、戻ってきたばっかりだけど」

「え」

俺の言葉に彼女は眼をパチパチとした。

「え、けど、さっきなつ、千石に呼び出しくらちゃって行ってくるって」

「俺、そんなことしてないけど」

「「・・・」」

2人して目を合わせ固まる。
なつちゃんが俺に呼ばれて?彼女の机を見ると、まだ鞄は掛けてある。どういう・・・

ハッと頭の中に嫌なことが過る。
その瞬間、俺は教室を飛び出した。

「どうか当たんないで」

違う事を祈りながら、駆け抜けた。



もしかしたらなつちゃん、呼び出されたのかもしれない。

呼び出しと言っても、告白とかいいものではなく、所謂因縁というものである。俺となんだかんだ仲のいいなつちゃんは今まで何回か俺のファンの子に因縁を付けられることがあった。まあ、軽く陰口ぐらいだったけど。俺となつちゃんはそんな仲ではないし、なつちゃんも別に気にしていなくて、放っておいた。呼び出しの手紙もあったみたいだけど、放っておいたから、特に何もなかった。

けど、今回なつちゃんがその場所に行ったとしたら・・・

当たっていないことを願って、校内を駆けった。




「あんた何様」

校舎裏の人通りの少ない所に近づいた時、人声が聞こえてきた。

「何様って別に・・・ただの友達だけど」

「は?何言ってるの?あんなに千石君に近づいて友だち?ありえなーい」

「狙ってんのバレバレ」

「は?だから何言って」

「あんたがいるから、千石君は彼女作らないのよ!」

「は?」

「あんたが付きまとうから、千石君は彼女を作りたくても作れないの!わかってるの?」

「はぁ」

そろーっと覗きこむと、なつちゃんは3人の女の子に囲まれていた。うっわ、当たっちゃったよ。
すぐに助けに行きたいのは山々だけれど、ここで俺が出て行ったらややこしいことになるし、それになつちゃんだって嬉しくないはず。なんでかって?だって、相手は俺のファンだよ?俺が出ていってなつちゃん庇ったら、逆に怒らせる可能性があるし、なつちゃんが更に恨まれるだろ?それに、なつちゃんだって俺にこんな場面見せたくないと思っているはず。自分のファンが仲のいい子にこんなことをしているって思ったら悲しむだろ?別に俺は色んな子がいることを知っているから構わないんだけど、彼女はそういうところを気にかけるだろうから、俺が姿を現すのは本当に最後、彼女が危険になりそうになった時だ。

「ちょっと、聞いてるの?」

「さっきから気の抜けた返事ばっかりして」

「はぁ」

「バカにしてるの?!」

ちょっとちょっとなつちゃん。君の態度に彼女たち怒っちゃってるじゃん。気持ちはわかるけどさ、もう少し反応してあげて。

「いや、別に」

「あんたのせいで千石君困ってるの!彼女が欲しくても作れないって」

「いや、別に私のせいじゃ」

「なんで私が振られるの?あんなにも優しくしてくれたのに、付き合ってって言ったら、ごめんって。意味わかんない」

「うわぁ・・」

うわぁ・・・。そういえば、あの子昨日告白してきた子じゃん。しかも聞いていたらただの逆恨み。なつちゃんほんとごめん。

「はぁ、まあそうかもね」

「は?何がそうかもね、よ!わかって言ってんの?」

「わかってるなら、明日以降千石君に近寄らないでよね」

「なんで?」

「なんでって意味わかってないじゃん!」

「だって、友だちなのに?」

「あんたはそう思ってても、千石君は困ってるの!」

「はあ」

「ほんと訳わかんない。なんで千石君こんな子と一緒にいるわけ?」

それはまあ、楽しいからであって、別に君たちに指図されるようなことじゃないんだけど。それに、

「まあ、よかった」

「え?」

「千石があんたたちみたいな裏庭に呼び出すような子と付き合ってたら私絶交してたね」

「はあ?!」

「なっ、」


なつちゃん・・・

今それ言っちゃだめー!

案の定、さっきの言葉に彼女たちは逆上して、遠目から見ても分かるほど怒り心頭のようだ。
なつちゃん、今の言葉はやばいよ。さすがの俺でもそれはわかる。

「っ、あんたいい加減に!」

女の子の一人が大きく手を振り上げた。
ちょ、待・・・


「っ、」

手が頬にあたる音が大きく響く。
その瞬間、影から飛び出し、なつちゃんの近くに駆け寄った。

「なつちゃん!」

「っ、」

「ちょ、え、」

「千石、君っ、」

「やばっ、」

俺を見た彼女の頬は真っ赤になっていて、ものすごく痛そうだ。
ほんと、何やってくれてるの!

彼女たちの方に振り返り、俺も手を振り上げた。

「千石っ」

振り上げた手は振りかざされることなく、止まった。

「やめて!私があんたに言ったこと覚えてるよね」

「っ、」

後ろから俺の手首を掴み、叫ぶなつちゃんの言葉に奥歯を噛みしめる。


「手は出しちゃ駄目なんだよ。暴力で解決しようなんて最低な考え。手を出すことはどっちが先にしろ両方共悪いし、繰り返されるだけで終わらない」

わかってるけど、わかってるけどさ。
拳を握りしめ、ゆっくりと腕を下げる。俺を見てホッと息をつく彼女の方に振り返った。

「とりあえず保健室行こう」

「氷作ってよね」

「わかってるって」

「せ、千石君」

「あの、私たち」

「赤くなってるけど大丈夫?」

「痛いに決まってるでしょ」

「こんなことするつもりじゃ」

「・・・何、さっきから」

「え」

俺の言葉に一瞬にして彼女たちは固まった。

「影でこんなことをする子の話を俺が聞くと思ってるの?」

「そんなっ」

「自分の行動を見直してから告白して」

「そうそう性格直せー」

「こらこら、なつちゃんは煽らない」

頬っぺたを真っ赤にして笑いながら言う彼女に大きく溜息を吐く。

「はい」

なつちゃんに背を向け、軽くしゃがんだ。

「保健室行くよ」

「はいはい」

よいしょっと、背中に乗った彼女の足に手を回し、立ち上がった。


「ほんと、もう、千石のせいで痛い目にあったよ」

「俺のせい?!」

「そうじゃん。いつも女の子垂らしこむ癖に彼女作んないから」

「だってさぁ」

「まあ、あんな子を彼女にしろとは言わないけどさ。せめて見境は付けなよ」

「そんなの見た目でわからないじゃん」

背中でぐちぐちという彼女の話を苦笑いをしながら聞く。
しかし、なつちゃん軽いなぁ、とかそんなことも考えながら、保健室へ向かう。


「けど、えらいえらい」

「は?」

何の話かよくわからないけれどもいきなり頭を撫でられた。

「よく耐えたね。あんな千石初めて見たし」

「そりゃー、俺も初めてだよ。あんなに怒ったの」

「へー、そうなんだ」

「俺めったに怒らないからね。けど、今日のはちょっと頭に来た」

「ちょっと?」

「いや、かなりかな」

「だよね、あの表情はちょっとじゃなかった」

「何それ。助けたのにその言い方はないんじゃないの?」

「誰のせいで呼び出されたと思ってるの?」

「・・・ごめん」

あはは、冗談だよ、と背中で笑うなつちゃん。

「はあ、けど、ね」

「うん」

「あんたのそういうところ好きだよ」

「え?」

耳元で聞こえた言葉に思わず立ち止まり、振り返る。

「そういう友だち思いな所嫌いじゃないし」

「あ、そういうこと」

「え、何。ああ、もしかして、好きって、勘違いしちゃうところだった?」

「そ、そんなわけないでしょ」

「あはは、だよね」

背中で笑う彼女に、ウッとなった。そうなんだけどさ、けど、ねえ?今のタイミングであんなこと言われたら誰でも勘違いするでしょ!

「千石」

「ん?」

ありがとう

耳元で小さく言った言葉に思わず口元が緩んだ。

「いえいえ」

一言だけだったけど、彼女の気持ちを知るにはその一言で十分だった。

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