02


放課後、すぐに家に帰らず、特に何にもない教室へ向かった。

謙也になんかあるんか?と問われたが、いや、まぁ忘れもんやとだけ返して、騒がしい奴らを散らした。

時々、部活後教室へ向かう。特に用事はあらへんねんけど、行く理由っちゅーのはある。それはまあ、なんちゅーか、俺の些細な乙女心っちゅーやつや。

ガラガラと音を立てて教室へ入る。誰もいない教室は物音1つ聞こえなくて、俺の足音だけが響く。俺の席は廊下側の列の後ろから2番目や。せやけど、今俺の向かってるのはそこやなくて、窓際から2列目の前から3番目の席。・・・そう、最近俺がよく見る席や。
席の前に着き、人差指でツツーッと机の表面を触る。彼女はこの席からどんなことを考えて座ってるんやろ、どんな景色を見てるんやろ。我ながら女々しいと思う。せやけど、彼女と話したことのない俺には彼女に直接問うことなんてできへんくて、色んな事を想像ししては少し心が騒ぐねん。ああ、彼女に触れる机とか椅子が羨ましいとか、見つめられる黒板が羨ましいとか、少し物に対して嫉妬。俺アホやな、けど、羨ましい。俺なんて遠くから眺めることしかできへんのに。

そんなことを思いながら机に少し触れていたら、少しだけ疾しい気持ちになってきた。この机、いつも彼女が触ってねんなとか思ったら、なんちゅーか・・・ちょっとだけムラムラしてきてん。ちょっとだけや、ちょっとだけ。彼女が触っているものに触れることで、間接的に彼女に触れている気がして、な、うん、ちょっと、うん、ムラッとな。ゆっくりと彼女の机に身体を近づける。・・・んっ。腰に当たった机に少しだけ顔を歪める。あかん、俺何してんねん。けど、そう、あかんのは分かってんねんけど、押す力というのは弱められへんくて、少しだけ擦りつける。・・・あかん、俺の頭の中、妄想しすぎて可笑しなっとる。けど、彼女のものに間接的に触れてると思ったら、あかんねん。・・俺に触って、

もうアカンと思って、勢いよく身体を離す。さすがにアカンやろと、離した身体を落ちつけていると、がらりと音を立ててドアが開いた。危機一髪と思ってドアの方に顔を向けたが、その瞬間息がとまるかと思った。

そう、想い人がおったんや。

ごくりと静かに息を飲み込む。気づかれたんやろか、と彼女の反応を待つ。けど、彼女も俺を見たまま固まっていた。・・・気づいてへん?気づかれてへんことに密かに肩を撫で下ろした。あんなところ見られたら、引かれるに決まってる。よかった、と思っていたが、それもつかの間、あることに気が付いた。

今、俺、彼女と2人っきりやん。

今の状況に気が付き、胸が騒がしくなった。あかん、しかも今見つめ合ってる。あかん、死ぬ、俺死んでまう。とりあえず、この状況を何とか切り抜けらな俺アカン。息がつまりそうになるのを必死で耐え、声を出す。初めて交わした言葉は俺にとっては忘れられへん言葉になるやろう。ハッと身体を揺らし、返された声に心が高なる。初めてっ、話したっ。あかん、あかん嬉しすぎる。ニヤけそうになる顔を必死で抑える。近づいてきた彼女は何時も遠くから見る表情よりも表情豊かで、ああ、めっちゃかわええ。
机を挟んで俺の前に来た彼女は机の前にしゃがみこみ、机の中を覗き込んだ。何忘れたんやろ、少し気になりながら彼女を見ていたのだが、その後俺の頭は爆発した。・・・アカン、ここでこれはあかんやろ。一歩だけ後ろに後ずさる。あかん、俺落ち着け。突如出てきた妄想にムラムラが止まらへん。アカン、気づかれたら俺ただの変態や。腰を引きながらも、視線は彼女からはずせへんかった。

物を見つけたのか、肩を下ろし立ち上がった彼女と再び目が合う。
・・・気づかれてへんやろか。誤魔化しながら、目を細めて彼女に微笑みかける。・・ああ、かわええ。

俺が何故ここにいるのかと問うてきた彼女の言葉にサーっと背筋が凍りそうになった。・・・さすがに、本当のことは本人に言えれへんやろ。誤魔化すように苦笑いをしながら返事を返すと、少し不思議そうに首を傾けながらも、そう、と返事した彼女。かわええなぁ・・・。いつもより近くで見る表情に頭がボケそうになる。細かい表情の変化を見逃がさへんように見つめる。

特に会話することなく時間が刻々と過ぎていき、

『じゃあ、またね』

少し気まずそうに微笑んだ彼女は俺に背を向けた。っ、あかん、俺、こんなチャンスやのに、何しとんねん。けど・・・っ。何を話したらええかなんて、思いつかへんくて、彼女の背中を見ながら小さく手が伸びたり、引っ込んだり。ああ、アカン、何を・・・っ。けど、今度いつこんなチャンスがあるかなんてわからへん、けど、何を。思いつかへん言葉にさらに焦る心。あ、もう、帰ってまう。そう思って発した言葉は、俺自身びっくりして、めっちゃ恥ずかしかった。
せやけど、誤魔化すとか、訂正するなんて考えられへんかった。恐らく俺が考えている以上に俺は照れてるんやろう。けど、思ってん。

「俺の、彼女になって」

君が欲しいと心から思ってん。

いきなり何をと彼女は驚いているんやろう。何も言わず固まっている彼女に恥ずかしさを隠しながら笑いかける。

「明日からよろしくしてな?」

真っ赤になった彼女は口を押さえて、何も言うことなく廊下に飛び出て走っていってもうた。

オッケーなんやろか。少し不安になったけど、逃したらへんと同時に思って、明日の彼女の反応が楽しみに思いながら、俺も彼女が走って行った廊下をゆっくりと歩いて帰ることにした。


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