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「田内さんも忘れ物なんてすんねんなぁ」

前の席に腕をついて身体を預け、目を細めて微笑む白石君にゆっくりと近づきながら席に向かう。

『そんなことないよ。しょっちゅう忘れる』

苦笑いをしながら答えると、そうなんやとやんわりと笑われた。
白石君が手をついていたのは私の前の席でどうしたんやろと少し不思議に思ったが、そんなことよりも私の意識は忘れものにいっていて、机の前に着くとしゃがみこみ、中を覗き込む。あ、あった。電子辞書を忘れたら宿題をする時面倒くさいんだよね、と探し物があったことに肩を撫で下ろす。身体を上げ、机を挟んで白石君と向い合せになる。

再び目が合う。

夕日に当てられほんのりと赤く染まる彼はいつも廊下ですれ違って見るのと同じようにやっぱり綺麗な顔をしていて、少しだけ見とれてしまった。こんなに近くでまじまじと彼を見たことなんてなくて、友人たちが騒ぐだけあるなぁと少し納得。だけど、私は彼と話したことも関わったことも今まで一度もなくて、廊下ですれ違う程度しかない。だから、まぁ、なんていうのだろうか、思うことはかっこいいなということだけだった。

『白石君はなんで教室におるん?』

なんも考えずにそう尋ねた。話したかったというわけではなくて、この沈黙がなんだか嫌で、場を繋ぐために尋ねただけだった。

「・・や、なんとなくや」

そう少しバツの悪そうに苦笑いした彼に少し首を傾げる。
外の部活である彼が放課後教室に戻ってるなんて変な話もあるものだ。まぁ、初めて話す私に言いにくいことでもあるのかもしれない。そっか、と返し、その場を離れようと思った。

彼と関わることなんてこれが最初で最後かもしれない。けど、まぁ、そんなものだろう。私は私の仲間がいて、白石君には白石君の仲間がいる。ただ、そこに繋がりがなかっただけだ。

じゃあまたね、とまたなんてあるのかと思いながら、彼に背を向けて、ドアへ向かう。チラッと見えた時計は6:40を指していた。赤い光も少しずつ暗くなっていっている。

「田内さん」

数歩歩いた所で白石君に少し大きめの声で話しかけられ、振り向く。

「俺と、付き合ってくれへんか」

大きく目を見開き彼を見つめる。
目尻を下げ、照れくさそうにはにかむ彼の頬が少しいつもより赤く見えたのは、夕日のせいか、それとも彼の熱のせいだったのだろうか。


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