02

「怖い目、合わせてごめんな」

不思議そうに俺を見つめる彼女から目を反らしながらボソリと話す。
あの時は彼女を助けたいがために、何も考えず中に入ったけど、よく考えてみれば、さっきの出来事の原因は俺で、俺が彼女を巻き込んでしまったのだ。俺が周りをちゃんと見てたら、もっと早く気が付いていたら、あんな怖い目に合わせることなんてなかったんちゃうか、と。ああ、いつも彼女を見てるのにあの時なんで俺は教室を離れてたんや!俺のアホ!

そんなことを部活をしながら考えていると「白石は恋する乙女やねぇ、むぞらしか」と顔を緩めながら千歳が言ってきた。男に可愛いなんて言われても、なんも嬉しないわとため息をつく。そんな俺を見ながら千歳はまだ顔を緩ませている。ほんまなんやねんと違う方向をむくと、他のメンバーも俺を見てた。はぁ?と周りを見回す。

「あの白石も恋したらこんな風になんねんなぁ、意外やわ」

「けど、そんな蔵りんも私は好きやわぁ!」

「小春、浮気か!」

「いつもの部長と違ってキモいっすわ」

「まぁまぁ、財前そう言ったるなって」

「白石はんも普通の男の子ってことですな」

「なーなー、こいっておいしいん?」

「金ちゃん、恋は食べものじゃなか」

ワイワイと騒ぎながら周りによってきた皆に苦笑いを返す。何見てんねん、気持ち悪いなぁ。

「そうお前ら白石を茶化したんな。悩んでるときはな、そーっとしとったるのが一番や。な、白石?」

俺の肩を叩きながら笑顔で言ってきたオサムちゃん。オサムちゃんが一番楽しんでる気がするんやけど。
大きく息を吐き出し、もう一度周りを見回すと満面の笑みで俺を見てるメンバーがいて、思わず「やかましいわ、アホ」と俺も笑ってしまったのだった。



「白石くん」

彼女に謝ってからどのくらい経ったのだろうか。数分か、それとももっと経ったのかいまいち覚えていない。手を握ったまま立ち止まっていた俺に彼女が名前を呼んだ。

「どうして白石くんが謝るの?」

笑いながら彼女は言った。

「今日のことを謝っているのだとしたら、それは白石くんのせいじゃない。彼女たちが白石くんのことが好きなだけで、私がはっきりとしなかったから勘違いさせてしまったんだと思う。白石くんは何も悪いことしてない」「けど、もっと早く俺が気づいてたら」

「十分早かったよ。本当だったらずっと誰も来ることなくあのままのはずやし。来てくれただけでも奇跡!」

「・・・そうか」

「それに颯爽と現れて助けてくれたし、ヒーローみたいだった」

ありがとうとはにかむ彼女。そんな顔を見ていると、そう思ってくれてるんやったらそれでええかなと思い始める。さっきまで心に重く雲がかっていたものが少し晴れた気がする。ホッと胸をなでおろしながら笑顔の彼女に顔を緩ませると、もっと彼女の表情が緩くなった。ああ、ほんまに...

「田内さん」

「ん?」

「なんていうか、改めてやけど、」

俺と付き合ってください

言ってから、なんか照れくさくなって彼女から視線を一瞬反らす。なんかアカンな、こんな照れんと言って、かっこよく決めたるつもりやったけど、こんなんじゃ格好がつかへんわ。前の時よりもめっちゃ緊張する。きっと前言うた時とはまた俺の気持ちが違う、彼女をもっと好きになってしまってるから。繋がっている手がじっとりと汗ばんできた。たぶん大丈夫なはず、さっきもっと俺のこと知りたいって言ってたし、大丈夫、いや、けどあれは彼女ではなくて、友だちに戻ってって意味やったら・・・、いや、大丈夫なはず。ぐるぐると頭の中で不安が駆け巡る。大丈夫や、いや、けど・・・。

握っていた小さな手に少し力が入り、チラッと彼女の方を見る。

「私こそ、今更やけど、よろしくお願いします」

照れながら言った彼女を思わず抱きしめてしまったのは言うまでもない。



ああ、このまま家に持って帰って食べてしまいたい!


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