02
「田内さん!」
見つけ出した時の彼女は一瞬俺を見たけど、すぐに俺から視線を反らした。
昼休みがしばらく経ったころ、田内さんが教室にいないことに気が付き、しばらく経っても戻ってこないことを不思議に思った。彼女の友だちに聞くと、隣の子に声をかけられた後資料室に行ったとのことだった。そうか、と思っていたが、なかなか帰ってこおへんなと思っていた時に気が付いた。次の授業、その資料使えへんやん。前の授業の最後に先生が話していたのと違うことに俺は気が付いた。どういうことやろと思ったと同時に嫌な予感がした俺は、彼女に話しかけた隣のクラスの子に聞きに行くと、その子も人伝に言われたようだ。なんかこれ予感的中ちゃう?と急いで資料室に行くと、廊下に話し声が少し聞こえてきた。詳しい内容は聞こえてこないが、1人で行ったはずの彼女の声ではなさそうだ。
資料室の扉を開くと、彼女の前に数人の女の子がいた。何を話していたのかはわからないが、雰囲気からしていい話ではなさそうだ。
「なあ、何してんの?」
俺の方を見て固まっていた彼女たちに話しかける。
「何してんの?って聞いてるんやけど」
「白石くん、」
「田内さんが資料室に行ったって聞いたから来てんけど、なんやええ雰囲気ではなさそうやな?」
「これは、その」
「俺の彼女に何か用?」
いつもより低い俺の声に彼女たちは泣きそうになっている。
「俺が聞いたあかんようなことなん?なぁ、何か言えや」
その言葉に一人の女の子が泣き始めた。
「ごめん、ごめんなさい。これは、違うの」
「違うって何?」
「だって、田内さんが」
白石くんにはっきりと言わないから―
その言葉に事の経過がなんとなくわかった。田内さんに視線を移すと、まだ視線を床に向けていた。再び彼女たちに視線を戻す。
「それは俺らの問題やん。別に君らには関係ないやろ。それに俺は別にかまへんねん。別れられるよりはましやから。わかったら、もう出ていってくれへんかな。田内さん震えてんやん」
そういうと、彼女たちは悔しそうに一人は泣きながら出ていった。
「田内さん?」
彼女たちが出ていった後、田内さんにゆっくりと近づくが、彼女は下を向いたまま何も返してくれない。彼女の前まで行き立ち止まる。
「ごめんな、怖かったよな」
そっと頭を撫でる。すると、頭を少し横に振られた。
「俺のせいでごめんな?もうちょっと来れたらよかったんやけど」
また首を振られる。
「・・・大丈夫?」
小さく頷く。何も言わず固まっている彼女の背中にそっと腕を回し抱きしめた。彼女は抵抗することもなく、じっとしている。体は少し震えがまだ続いていた。
「田内さん」
好きやで
耳もとで小さく呟く。するとビクッと小さく体が揺れ、緊張しているのが伝わった。
「もし、田内さんが俺のこと好きじゃなくても、俺は君が好き。話せんでも付き合っているというだけでも、俺は幸せやねん」
背中を撫でながら話す。そりゃ、もちろん話したり、一緒にいられた一番やけど、別れてまったく繋がりがなくなる方が耐えられへん。ただ、付き合っているという関係だけでも、俺は嬉しく感じてる。
「ごめんな、離してあげられんで。けど、好きやねん」
そう伝えると、彼女の手が俺の胸にそっと触れる。
「ごめん」
「え?」
「私は、彼女たちほど白石くんのことは好きじゃないと思う」
・・・ああ、これは断られるか、と俺の体が一瞬固まる。
「だけど、別れたいかといわれると白石くんに言うことができなくて、その」
そこで言葉詰まった彼女の次の言葉を待つ。
「どんどん白石くんのことを知りたいって思ってしまって・・・、ごめん、はっきり言えなくて」
別れようって言えたら白石くんにそんな思いさせないのにね、とギュッと服を掴まれた。
―ああ、あかん。
そう思う前に、俺は彼女の額に唇を当てていた。その行動に俺の方を見た彼女に苦笑いを返す。「ごめん、可愛かったからつい」と返すと、真っ赤になって唇をキュッとかみしめていた。あかん、照れてる、可愛い。思わず口角が上がる。
「めっちゃ可愛い。キスしたい」
照れて止まっている彼女を見て、思わず言ってしまった。その言葉にさらに真っ赤になった彼女の返事を待たず、俺はそっと彼女の唇に俺のを合わせた。
優しく数回彼女にキスした後、唇から話すと彼女は何とも言えないほど照れているのか固まっていて、その姿が微笑ましくてクスッと笑う。すると彼女は急にしゃがみ込んでしまった。
ええ?!もしかして泣いてる?!
焦った俺も彼女前でしゃがんで「ごめん、びっくりしたよな」と何回も謝った。それでも何も反応がなくて、どうしようと慌てていると、彼女が顔を上げた。彼女の表情をみて、思わず笑みがこぼれる。今まで見たことのないような笑顔がだったからだ。嫌だったのではなかったと思ったのと同時に、彼女も嬉しかったのかと安心した。あかん、やっぱり田内さん好きやわ。そっと彼女の腕を引き、抱き寄せた。
「ねえ、白石くん」
「ん?」
「その、当たってるん、だけど」
「・・ああ、これも・・愛や」
その時俺の相棒が半立ちしていたことに気が付いた彼女にそんな言葉しか返せなかった。
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