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「あんたがはっきり言わないから!」
耳に響く声に思わず体がビクッと震えた。
白石くんと距離を置き始めてから1週間近く経った。まったく話さないというわけではなくて、挨拶ぐらいはするけれど、前のようにお昼を一緒に食べたり、時々帰りに一緒に帰ったりすることはなかった。何事もなく平穏に、というわけにはいかず、私たちの行動を見て、周りは別れたのかと噂がたったのか、白石くんや私に聞いてくる人たちはいたけれど、彼はっきりと別れたとは答えなかったようだ。
そんなある日、ほとんど話したことのない隣のクラスの子に声をかけられた。昼からの授業で使う資料を取りに来てほしいと先生からの言伝があったとのことだ。どうして私なのだろうと思いながら、重い足取りで資料室へ向かう。滅多に使うことのない資料室に入るが、言われたものがどこにあるのかわからず、周りを見渡す。
しばらくして再び扉が開いた。振り向くと3人ぐらいの女の子がいて、目が合った。この子たちも先生に言われて取りに来たのだろうかと視線を外すと、後ろから話しかけられた。え、と振り返ると、その子たちは私を見ていて近づいてきた。なんだろうと思っていると、後数歩というところで立ち止まった。
「田内さんさ、まだ白石くんと付き合ってるの?」
「え?」
「最近2人ともよそよそしいから別れたのかなと思ってたら、白石くんに聞いたら別れてないって言ってたから」
「ああ、うん」
確かに別れたとははっきり言えない。けど、このままにしておくのもダメだよなぁと思っていて、一度白石くんと話をしようと思っていた。
「付き合ってるのにどうしてあんなよそよそしくなったわけ?気まずくなるようなことがあったの?」
「そういうわけじゃ」
「じゃあなんで?別れてないわけ?」
少しずつ口調がきつくなってきている女の子に一瞬固まる。この子もしかして・・・。
「白石くんに聞いた時、別れてないって悲しそうに言ってた。田内さんさ、白石くんに別れたくないって引き留めてるんじゃないの?」
「・・・え?そんなこと言って」
「じゃあなんで付き合ってるのに悲しそうにしてるの?!」
私だったらそんな顔させないのに!
部屋に響いた声にビクッと体が震える。この子白石くんのことが好きなんだ、態度でわかってしまった。睨むように私を見た彼女に思わず視線を下に落とす。きっと彼女は私よりも白石くんのことを思っているのに、私と彼が付き合っている。納得いかないのはわかる。そう思うと今の私の状況が後ろめたく言い返す言葉が出てこない。
「ねえ、どうして?なんで白石くんとまだ付き合ってるわけ?」
「まだ悲しませたいの?」
「何か言ったら?!」
きっと私の今までの態度が招いたのだろうな、そう思った。
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