ちゅ、ちゅ、と小さなリップ音が審神者の耳を擽る。宴会が興に乗ってきたのだろうか、大広間から響く陽気な笑い声はもはや別世界のもののように感じられた。壁に凭れ掛かる審神者の膝に腰掛ける形で、歌仙は夢中で唇を食み続けている。初心な少女のように瞳は閉じられたままで、時折ふるりと震える歌仙の長い睫毛を審神者はぼんやりと眺めた。
「……抵抗、しないのかい」
顔を近付けたまま、歌仙がそっと訊ねる。
「したら止めるのか?」
「途中で止めるくらいなら初めからしないさ」
「男らしいなあ……」
それから歌仙は膝立ちになると、自身の袴紐をするりと解いた。落ちた袴を脱ぎ去りインナー一枚になる。肌に密着するインナーは歌仙の身体の線を露わにする。日々刀を振るうだけのことはある、しっかりと鍛え上げられた身体を惜しげもなく審神者の目に晒して、歌仙はそのインナーすら自ら剥ぎ取っていった。
色の白い歌仙の肌が行灯の火をぼんやりと反射して輝いて見える。思わず視線を下半身に向けた審神者は、歌仙のそこがしっかりと反応しているのを確認すると、改めてこの現状に眩暈を覚えた。この期に及んで、審神者はまだどこかで『歌仙が自分をそのような対象に見るわけがない』と信じていたのだ。
歌仙の裸体など、審神者は幾度も見たことがある。まだ駆け出しの、この本丸に二人きりだった頃から歌仙の手入れは自分の役目だった。傷を負った歌仙の肌に何度も触れた。歌仙だって審神者の身体は見慣れている筈だ。本丸の風呂は審神者も刀達も共同の大浴場だったし、最近は小狐丸達への警戒の意味も込めてなるべく歌仙と共に入浴するように心掛けていたのだから――……ああ、
「そういうことかぁ……」
審神者はぽつりと呟いた。自身の着物をすっかり脱ぎ去った歌仙は次に審神者の帯に手を伸ばしていて、審神者の声に対しても無反応である。丁寧に、しかし急いた手付きで審神者の着物が緩められていく。歌仙よりは薄く筋肉も付かぬ胸板を曝け出すと、歌仙はほうと息を吐いてそこに頬を摺り寄せる。
「主……」
熱を持った肌と肌が触れ合う。これだけ密着すればさぞ霊力の影響を受けるのだろう、歌仙は恍惚とした表情で審神者の首に腕を回した。そのまま肩口に額を押し付けると、審神者からは白く滑やかな歌仙の背中だけが見える。
「っあ、ぁ……」
びくん、と歌仙の身体が跳ねた。明らかに色の乗った声が耳元で上がって、次いで歌仙がもぞもぞと下半身を揺らし出す。頭越しにそっと窺うと、勃ち上がった自身を片手で握り締めているようだった。少しばかり驚いて、しかし審神者は何も言わずに歌仙の様子を見守る。
「は、ぁ……主……ある、じ……っ」
噛み締めた唇から零れるように、歌仙が何度も審神者の名を呼んだ。今までもそうしていたのだろうか。誰にも聞こえぬように小さく押し殺した声で、何度も審神者を求め続けていたのだろうか?
「……歌仙」
「んっ、あ、主……あぁ!」
ごめんな、と呟きかけた言葉を審神者は呑み込んだ。だらりと投げ出したままだった腕を伸ばして歌仙の腰を抱き寄せると、突然の刺激に堪え切れずに歌仙が声を上げる。そのまま声を抑える術を忘れてしまったかのように、歌仙はぐちゅぐちゅと自身を擦り上げながら審神者の耳元で咽び泣いた。
「あるじっ、主ぃっ……は、あぁ、ん……あっ!」
「歌仙、泣くなよ……どっちかにしてくれ……」
嬌声にぐずぐずと鼻を啜る音が混じるのを聞きながら、審神者はぽんぽんと歌仙の背を叩いてやる。この状況に相応しい行動ではないだろうが、他にどうしてやることもできない。それを暫く甘んじてから、歌仙は審神者の首元に額を押し付けたまま呟いた。
「自分、が……情けない……」
「どうして」
「こんな姿を、晒して……結局、君に慰められている、だけだ……」
「……そんなこと、」
それきり口を噤んでしまった審神者を、歌仙が不安げに見上げる。快感と涙でぐしゃぐしゃになった顔は普段の歌仙からは想像もつかないもので、審神者は散々迷った後、歌仙の背に腕を回すと強く懐に引き寄せた。ぺたんと審神者の膝に座り込んだ歌仙が、何やら腰にぶつかるのを感じて視線を下ろす。
「……あ」
審神者が気まずげにふいと視線を逸らした。しかし歌仙は審神者の勃ち上がったそれを凝視したまま、元から赤い頬をさらに色濃くする。反応するとは思っていなかったのだろう、戸惑いと、確かな喜びを滲ませた声で囁いた。
「ねえ、君の……」
「何も言うな」
自分でも勃つとは思っていなかったのだ。「そういう趣味はない」と小狐丸達を拒絶し続けた末の、これか。こちらこそ情けない、と審神者が小さく呻く。
「……僕を見て、かい?」
そう問うて、歌仙はとろんと蕩けるような笑みを浮かべた。赤く染まった目元から一粒だけ涙が零れる。それを拭うこともせず、歌仙は再び審神者の唇に口付けた。
「主、もう……」
熱に浮かされたように呟きながら歌仙が後孔に指を伸ばしたのを見て、審神者は流石にドキリとする。まさかそちらも常から弄っているのだろうか。しかしどうやら一本だけ指を差し込んだらしい歌仙は、ぐっと眉間に皺を寄せて苦しげな表情を浮かべる。
「っ、ふ……」
尻の間で右手が乱雑に蠢いているのが窺える。快感を求める為でなく、とにかく押し広げようとするように、歌仙は自身の先走りだけを頼りに無理やり二本三本と指を増やしていく。ぐいぐいと腸内が掻き回される感覚に、歌仙の腕が微かに震えている。
「んんっ……!」
ずるり、と指を引き抜きながら歌仙が肩を揺らした。荒い息を吐きながら、それでもすぐに審神者のモノに跨って慣らしたばかりの穴に宛がう。
「ちょ、っと待て、そんな無理やり……」
「もうこれ以上、少しも待てない」
慌てて止めようとした審神者の言葉を遮って、歌仙が言った。思わず息を呑んだ審神者の頬を愛おしそうに撫でると、歌仙はゆっくりと腰を下ろしていく。先端がぐいと狭い穴を押し広げた。
「う、ぁ……あぁ……!!」
たった指三本で弄っただけのそこに、いきなり収まる筈もない。これ以上少しも緩むまいと思う程硬く閉ざされた後孔を、しかし歌仙は力任せに抉じ開けようとする。危機を感じた審神者が今度こそ歌仙を制止した。
「待てって、言ってるだろ……!いよいよ暴行らしくなってきたぞ……っ!」
「は、っ……あぁ、ん、あるじぃ……!!」
「聞こえているのか、かせ……っ!!」
ずる、と先端部が呑み込まれた衝撃に審神者は言葉を詰まらせた。快感よりは圧迫される痛みの方が大きく、また歌仙の方も慣れぬ感覚にビクビクと身体を震わせている。しかし歌仙は必死に審神者にしがみ付きながら、腸内を出入りする感覚を味わおうと緩く腰を上下させる。
「あ、ぁ……も、っとぉ……ああぁ……!!」
「歌仙……っ!」
「あるじ……っあァ!?」
ぬるぬると擦られた刺激で先走りが溢れたのだろう、湿り気を帯びた審神者のそれが、勢いに任せて歌仙の後孔に深く突き刺さった。
「ッ……!!」
歌仙が大きく目を見開く。仰け反った白い喉がこくりと一つ息を呑み込んだ。ピンと伸びた爪先が、微かに畳を引っ掻く。
「あ、あ……」
歌仙が深く、満足げな息を吐いた。途端 審神者を締め付ける腸壁がひくひくと痙攣したかと思うと、歌仙はたらりと自身から精を零す。達したのか、と審神者は驚く。今宵初めて開かれたばかりの肛門で男を呑み込んで、こう易々と快感を得ることが出来るのは、やはり審神者の力が成せる技か。小狐丸や三日月が執拗に夜伽をせがむのもこの為なのだろうか?
「……主」
「!」
歌仙が強く審神者に抱き付いた。荒い呼吸の合間に、しかし歌仙の声は微かに沈んでいる。
「歌仙……?」
「今夜だけで、いいんだ……今、この時だけでいい……僕を、」
熱い吐息が審神者の耳朶を擽った。

「僕だけを、愛してくれ……」

歌仙が再び腰を動かし始める。今度は互いに快感を探し求めるように、ゆっくりと奥まで潜り込ませて揺さぶる。拒絶しようとする力は一切籠っていないようで、本来排泄器官である歌仙のそこは次第に審神者自身を根元まで銜え込み、包み込むように刺激を始めた。自分の体内で硬度を増す審神者を感じ、歌仙はとろりと口元を緩める。
「あぁ、はっ、あ……主、あぁ、気持ちいい……っ!!」
感じているのだと、そして同じように審神者にも感じて欲しいのだと言うように、歌仙は善い、好いと繰り返す。もはや激しく腰を振り立てる歌仙に、審神者はどうしようもなく身を任せるだけだった。歌仙、と小さく名前を呼ぶと、歌仙は嬉しそうに審神者に頬を摺り寄せる。
「っふ、ぅ……ん、あっ、あるじ……あるじっ……っあぁ!!」
夢中で嬌声を上げながら、それでも審神者の名を呼び続けていた歌仙は、いよいよ極まったのだろう。ビクンと一際大きく身体を揺らすと、背中を仰け反らせて短い声を上げた。腸内がひくひくと激しく痙攣する。半開いた口の端から一筋唾液が垂れたのも気にせず、歌仙は恍惚とした表情で呟いた。
「あ、ぁ……僕の、あるじ……」
「……っ!」
甘く溶けるような呟きに下半身が疼いたと思うと、審神者は歌仙に銜え込まれたまま、どろりと達していったのだった。



いつの間にやら解散したのだろう、大広間からはもう誰の声も聞こえてはこない。シンとした庭で虫の鳴く声だけが大きく感じられる。
歌仙が身体を離して身が自由になってからも、審神者は激しい行為の倦怠感に動くことも出来ずにいた。まだ整わない二人の呼吸が、次第に冷えていく部屋に虚しく響く。
「……すまない」
堪え切れなくなったのだろうか、歌仙はそう一言呟くと、乱雑に掻き集めた己の着物を羽織って審神者の部屋を飛び出した。追わねばとは思うものの、この身体で歌仙の速さに追いつける気はしない。同じ行為を交わした筈なのに全く疲れの色を見せぬ歌仙に、審神者は諦めてぐったりと瞼を閉じた。
「なんでアイツ、あんなに元気なんだよ……」
心身ともに消耗したのだろう、行為の始末をする気力もなく、審神者は気絶するように眠りに落ちた。



「おはよう主、遅かったじゃないか」
正直な話、面食らっている。
何故だか疚しい気持ちを隠すように、普段通りを装いながら審神者が大広間へ顔を出すと、そこでは歌仙が常時と同じように皆に飯をよそってやっているところだった。責任感の強い彼が家事を放棄するとは思っていなかったが、あまりの日常風景に一瞬、昨夜は夢でも見ていたのだろうかなどと考える。しかし疲れ果てて眠りこけてしまった審神者は、今朝こっそりと風呂で身体を清めてきたばかりなのだ。ともすると、歌仙のなんとタフなことか。ほら、と差し出された茶碗を受け取りながら、審神者は彼に何と言ったらいいものか考えあぐねて思わず眉根を寄せる。
「……主」
歌仙が小さく囁いた。分かっているから、と言うように目配せするのを見て、審神者もとりあえず何事もなかったかのように自分の席に着く。全員に配給が終わったようで、大広間に「いただきます」の声が溢れた。
ふっくらと炊かれた米に味噌汁、煮物、お浸し。間違いなく歌仙のつくった朝食だ。審神者が全く料理ができないと知れた初日から、審神者は毎日この料理を食べてきたのだ。
「……」
一口一口噛み締めるように味わいながら、審神者は離れて座る歌仙の後姿をじっと眺めていた。


朝食の片付けが済むと、刀達は各々振り当てられた内番に向かう。何しろ数十名が生活するこの本丸で、仕事はそれこそ尽きることなくあるのだ。大量の洗濯物を干すために、短刀達は総出で庭を駆け回っている。そうして人が出払いがらんとした広間で審神者が一人待っていると、一度自室に戻った歌仙が普段の着物に着替えて帰ってきた。
「別にわざわざ着替えなくてもよかっただろう」
「最期の時くらい、きちんと正装しておきたくてね」
「なんだよ最期の時って?」
審神者が眉間に皺を寄せる。歌仙は昨夜とは打って変わって落ち着いた様子で、微かに口元に笑みを浮かべた。
「刀解される時には、という意味だよ」
「……なんで俺が、お前を刀解しなくちゃいけないんだ」
「僕のしたことは主に対する反逆行為だ。刀解されて然るべきだろう」
「……歌仙、お前、本気で言っているのか?」
澄ました口調で言う歌仙に、思わず頭が熱くなる。
「本気で俺に、お前を刀解しろと言っているのか?俺が初めて呼び下ろした刀で、今日まで近侍を務め続けてきたお前を?」
怒りを含んだ審神者の声にも、歌仙は少しも狼狽えず頷いて見せる。
「その通りだ。近侍にはへし切長谷部を推しておくよ。彼なら僕の代わりに君を守る務めを果たしてくれるだろう」
僕よりも立派にね。最後の一言だけ僅かに声を落として、歌仙が呟いた。それから懐から和紙を取り出すと言う。
「辞世の句ももう考えてあるんだ」
「くそ、こんな所で文系らしさアピールしてくるんじゃねえ!」
誰よりも実力行使だったくせに。審神者は話を打ち切るように立ち上がると、背筋を正して座る歌仙を見下ろす。歌仙の全てを達観したかのような余裕が、酷く腹立たしかった。
「馬鹿げたことを言うな。刀解なんてしないからな、絶対にだ」
「……まあ、君はそう言うだろうと思ってはいたよ」
「お前、お前なあ……全く気付かなかったんだからな、お前が俺をそういう目で見ていたなんて!」
何をどう責めていいものか分からず審神者が声を上げる。歌仙はふっと笑って、それから微かに眉を寄せた。
「そりゃあ、隠していたからね。言っただろう、僕は君の優秀な初期刀であるつもりだったんだ」
「それで一生、俺に気付かれなくてもか」
「……君の傍に居られるのなら、それで本望だと思ったよ」
審神者は暫く呆然として、それから小さく呟いた。
「……お前の前で、俺はさぞ無防備だったろうな」
そして、無神経だったことだろう。歌仙に誰よりも長く、そして近く触れ合ってきたのは自分だ。そして審神者となったあの日から今日まで、自分の隣に居たのはいつだって歌仙だった。しかし、歌仙が自分をどのような目で見ているかなんて、今更考えもしなかったのだ。
「……信頼していたからだ、お前のことを。お前も同じように、俺を信頼してくれていると思っていた」
歌仙が初めて顔を歪めた。苦しそうに俯く歌仙を見下ろしながら審神者は続ける。
「……今でも、そう思っている」

「……!」
「歌仙、信頼しているから『歌仙なら俺の困るようなことを言わない』と思っていたわけじゃないんだよ。信頼しているから、『歌仙になら何を言われても困らない』と思っていただけなんだ」
勿論驚きはした。しかし愛おしそうに自分の名を呼ぶ歌仙を、顔を歪めて涙を流す歌仙を見て、今まで築き上げてきたものの何を失うことがあろうか。胸が痛んだとしたならば、それは歌仙の想いに早く気付いてやることの出来なかった己に対する後悔である。
「言ってくれればよかったんだ、お前だって。こんな文系らしからぬ強硬手段に出る前に」
「だって、衆道の気はないと、言っていたじゃないか」
「……まあ、それはそうなんだけど」
審神者は苦笑しながら頬を掻く。歌仙が小狐丸達のように己に忠実な性格でないことくらい分かってはいる。これはただの自分の願望だ。歌仙の気持ちを知りたいという、審神者の勝手な願いだ。
「……僕は、まだ、君の近侍でいられるのかい?」
歌仙が小さな声で訊ねた。言葉は微かに震えている。審神者は改めて歌仙の前に腰を下ろすと、腕を伸ばしてぽんぽんと彼の背中を叩いた。その拍子に、ぽた、と数滴 畳に滴が落ちる。
「頼りにしてるって言っただろ、歌仙」
それから審神者は歌仙が握りしめる和紙を奪い取ると、書かれた歌を詠まずにぐしゃぐしゃに丸めた。
「こんな下らない歌を詠む暇があったら、俺に恋歌でも詠んでおくんだな」
「……君、返歌できないくせに」
「覚えるよ、時間はかかるだろうけど……それくらい待てるだろ」
ふふ、と歌仙が肩を揺らした。折角着替えた着物に皺が寄るのも気にせず、審神者の胸に寄り掛かる。

「待つさ……今までだって、ずっと待ってきたんだからね」



「ぬしさま〜……」
「おう、お帰り小狐丸」
帰還した途端にしょんぼりと審神者の背中に張り付いた小狐丸は、構ってほしい大型犬のようにすりすりと審神者に頭を擦り付ける。どうやら随分疲労しているようで、審神者がわしわしと頭を撫でてやると自慢の毛並みが乱れるのも気にせず頬を緩めた。審神者の霊力が彼らの活力になると知ってからは、審神者はこうして刀達と触れ合うことを拒まぬようになっていた。出陣の度に撫でろと強請ってくるのは短刀達と、小狐丸含むほんの数人程度であったが。
「うう……」
小狐丸が小さく唸る。誉を獲得し損ねた小狐丸を慰めるのが審神者のこのところの日課であった。もはや当初の夜伽の約束を覚えているのかいないのか、彼は誉を獲るためにとにかく躍起になっているのであるが、隊長である歌仙がそれを容易には許さないのである。
「ぬしさま、見ていてくだされ!明日こそは!この小狐が誉を勝ち取ってみせましょうぞ!」
尻尾があればブンブンと振っているだろう様子でそう宣言すると、小狐丸は審神者の部屋を去っていく。やる気を取り戻したらしい、手合せにでも向かうのだろうか。審神者は襖の向うに向かって声を掛けた。
「……だ、そうだが」
「それは困ったね」
小狐丸より先に報告のため訪れていた歌仙が、苦笑を携えて部屋の奥から現れた。小狐丸とて誉を獲れぬ苛立ちを歌仙に向けるようなことはしないが、それでも帰還の度にふくれっ面で歌仙を睨み付けているので、思わず隠してしまったのである。ひらひらと目の前に舞った桜を一片払って、歌仙が審神者の隣に腰を下ろす。
「明日は君の床に呼んでもらえないかもしれないね」
「なんだ、最近益々調子いいくせに」
「お陰様で」
どちらからともなく唇を寄せる。ふわりと頭上から花弁が溢れた。審神者の力を吸ったのか、歌仙の気分が高揚したのか。唇を離した歌仙はうっとりと頬を緩めている。
「明日も頑張ってくれないと俺が困るんだがな」
「ん……なら、今夜も……」
「上手いシステムだなぁ……」
思わず呟いてから、審神者は歌仙を腕の中に引き寄せた。霊力どころか精力まで奪われているような気がしないでもないのは、恐らく単純に歌仙が文系らしからぬ体力の持ち主であるが故なのだろう。それでも腕の中のこの男が愛しくて、審神者は歌仙を緩く抱きしめながら囁いた。
「お前を選んでよかったよ、歌仙」
恐悦至極、と呟く歌仙の声が蕩けるように幸せそうなので、それだけで充分なのだ。


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