割れた
「…………」
「…………」
本気で、死ぬんじゃないだろうか。
チラと時計を見ればただいまの時刻、4;44分。四四四、死死死。なんて不吉な時間、そして数字。ラッキーセブンじゃなくてこれアンラッキーフォーでしょ。
そして半場現実逃避仕掛けていた意識と視線を目の前に引っ張って来れば足が二つ。
ボクはフローリングの上に小さく縮こまり正座していて、目の前には仁王立ちをして帽子の下から覗くその真っ赤な瞳から絶対零度の視線を送られていた。
そして30分前からこの沈黙状態だ。
足が痛いなぁとかそんな事言うよりもその視線で死にそうな自分をどうしようどうしようと考えていた。赤い視線は今も自分を射抜いている。何も会話が無いから尚恐ろしい。
「…………」
「………あの、」
「燃えろ」
「何で!!?」
「煩い。お前に発言権は無い」
「(魔王!!)」
仁王立ちしたレッドさん、いや魔王は腕を組み更に冷たく重い視線を突き刺す。何だか重力みたいな何かが頭の上から降りかかるこの感覚。これが威圧感かと遠ざかりそうな思考で納得した。
いつもはこんな事言わないし、無口だけど優しい(と思っている)レッドさんがボクの発言権を惜しみも無く切り捨てたという事は相当怒っている。そう、怒ってる…!!
その赤い目が本当に恐ろしい。暫く合わせていたらポクリと死んでしまいそうだ。呪いか何かで。この人は呪い殺す術を持っているに違いない!
帽子を深く被ったその黒い綺麗な髪の奥にある深い深い真紅の瞳。輝きは強い。強すぎる否これは不機嫌だから怒っているから、バトルとは違ったギラつき。
その赤目を細め更に体が縛られる感覚にビクッと肩が揺れた。怖い!怖すぎる!!
「……いつから、その格好だ」
「え、……一昨日の夜くらいから、だったかな」
「…………」
「(うわぁぁぁぁ目が!目が怖いよぉおおお)」
レッドさんが何で怒ってるのかさっぱりわからないボクは只意味もなく謝る事しか出来ない。
一昨日から、と言った瞬間に更に不機嫌さと冷たい視線が二割増した。レッドさんが言うこの格好、とはボクの今の身に纏っているものだ。一昨日から家を出る事も無かったので風呂から上がると膝上までのちょっと短い短パンと少し大きめの黒のタンクトップを身に付け、いつもと違ったかなりラフな格好で好き勝手していた。ソファーに座り足を組み、塩せんべいをボリボリとかじりながらお茶を片手にテレビを見て……そんな時間を送っていたら突然レッドさんが家に不法侵入(本人は鍵が掛かったドアの境界線なんて気にしない。)して来てボクを見た瞬間、滅多に見開かない瞳が微かに見開かれたのを覚えている。
……そしたらボクは正座してレッドさんは仁王立ちして……こんな状態だ。
「…………」
「ご、ごめんなさ、い……」
「、…………」
「(ひぃぃぃどうしよう何がどうしてレッドさんこんなに怒ってるんだろうボク何かしたかいやもしかしたら知らない内に何か)」
「…………はぁ」
「っ!」
小さく身を屈めて頭を垂れると何故だかレッドさんから息が詰まる音がした。無言の末に静かな(けれど怖すぎる)溜め息が彼から漏れて背中に汗が流れ落ちる。ビクーと震え上がる肩にバサリと何かが落ちてきた。
レッドさんの着ていたジャケットだ。
ボクは目を白黒させながら恐る恐る顔を上げるとまだ不機嫌そうな(かろうじて)顔のレッドさんが自分を見下ろしていた。
「…………あ、あの」
「………着ろ。それじゃなくても、上着」
「え、でも」
「着ろ」
「……はい」
肩に掛けられたジャケットを彼に返そうとすれば視線で止められた。……あ、もしかしたら薄着過ぎる格好だったから心配、してくれたのかも知れない(あのレッドさんが…!?)
だからボクは素直にそれに従ってもうちょい厚着をしようと立ち上がった。
「えっと、有難うレッドさん。そうだよね、いくらなんでも風邪引きますよね」
「………」
ポン、と頭に置かれた掌を見て良かった、もうレッドさん怒ってない!と安心して笑顔を作る。着替えて来まーすと自室に行こうとする前にあぁそうだ、とくるりとレッドさんに振り返る。
そういえばレッドさんに言う事があったんだっけ?
無表情だけど何だ、と微かに首を捻るレッドさんにボクはまた笑顔で昨日の事を話し出す。
「レッドさん!昨日ワタルさんが来たんですけど…」
「バリーンッ!!!」
「湯呑みがぁああああ!!!!??」
ワタルさんが、と名前を出した瞬間にボクがさっき飲んでいた湯呑みに口を付けていたレッドさんが、素手で湯呑みを破壊した。
そしてまた不機嫌に急降下する、彼!!
(いろんなとこが見えそうだったから、生まれて初めて目の付けように困っただけだ)