ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲
2024年 バレンタイン企画








「ということでレッドにチョコレートあげようと思うんだけど」

「ほお。くれるのか」

「うん、あげるあげる。あたぼうよ!して今日は2月14日!バレンタインデー!…………流石のレッドでもなんの日かくらいわかるよね…?」

「チョコレートの中に自分の体の一部を溶かして好きな男に直接喰わせ体内に根を張る呪いの儀式だろ」

「なんそれ!!?」

「バレンタインデーだろ?」

「いや、そうなんだけどなんかボクの知ってるバレンタインとは全然違うっていうか……」



朝早くから少女は張り切っていた。

今日は2月14日。好きな人やお世話になっている人にお菓子……多くはチョコレートを贈る日。バレンタインデーである。

普段レッドから物理的にも金銭的にも精神面でも助けて貰っている少女からしてみればまたとない日であった。これは日頃の感謝を伝えるべくチョコレートの1個や2個…いやそんなんじゃ足りない。チョコレートケーキ5ホールくらい食べて欲しい。ご飯作るのはちょっと苦手だがお菓子となれば別だ。お菓子は少女の得意分野だった。腕が唸るぜ。少女は思いつく限り材料を用意してお菓子のレシピをついでに買って鼻息荒くして腕まくりをしていた。可愛らしいエプロンじゃなくて何故か渋い割烹着を着ているのはポケモンセンターで借りれるエプロンが今それしかなかったからだ。まあ別にいいけど。

そんな少女はレッドだけじゃなくポケモン達の分のお菓子もついでに作るつもりである。勿論日頃助けて貰ってるのはレッドだけじゃない。彼とその自分のポケモン達にも助けられてきたから今こそ感謝を伝える時。……思い返せばみんなに心配と迷惑しかかけていない気がして少女はちょっとへこんだ。



「何作ろうかなぁ」



なんか怖いこと言うレッドはさておき。

ポケモンコンテストに出るポケモンと言えば、コーディネーターと言えばポフィンだ。少女はポフィンを作ることに命かけてると言っても過言では無い。………いやそれはちょっと言いすぎたかも知れないが、まあ少女とてポフィンの出来にはかなり舌と目を光らせているのだ。なんたってポフィンの質でポケモンの質が決まると言っても過言ではないからだ。

とりあえずポケモン達にはポフィンのチョコレートアレンジしたものでも作ってあげよう。



「とりあえずピカチュウさん達にはポフィンバレンタインver.!作るからね」

「ピカー!」

「マリマリー」



部屋の隅で観戦しているポケモン達は「やったー!!」とはしゃいでいる。
オシャマリとチュリネは台所の端っこの方に大人しく座って至近距離で調理を眺めており、少女がバレンタインだからと適当に二匹をリボンで飾り付けしたらべらぼうに可愛くなった。可愛いは正義だ。(きちんと写真に収めた)
少女は髪を結んでよし、とふんすと鼻息荒くチョコレートを刻んで湯煎し始める。食にはがめついピカチュウさんのことだから気合いをいれるのだ。そのピカチュウはソファに座るレッドの横で板チョコをバリバリと頬張っていた。



「何作るんだ」

「まずはチョコレートケーキかなぁ。とりあえず作れるものは作ってお菓子パーティーしようかな」

「………お前、菓子を作る才能はあるのに何で飯を作るのはイマイチなんだ」

「……アレンジしようとして余計なものまで入れちゃうからかな…」



スポンジは予め買ってきている。時短の為だ。
チョコレートを湯煎している間に隣の鍋にはポフィンの準備を進める。生クリームも作らないといけないしちょっと一人では大変だ。完成までに何時間かかることやら。
因みにレッドはゲロ甘じゃないものなら大抵の甘いものは普通に食べれる。というか何でも食べる。チョコレートとかダメそうな見た目をしているのに全然平気そうに食べているから、あげたものは好き嫌いなく食べてくれるし食事も共有して楽しんでくれるから有難いことだ。

いつの間にか少女の隣で調理工程を眺めるレッドはじっと湯煎しているチョコレートを何が楽しいのか凝視している。



「そういえばレッドは今までバレンタインの時になんか貰って……たよねさすがに」

「………昔な。ジム戦してる時に出待ちで」

「まあそうだよね…貰うよねさすがに…」

「捨てたけどな」

「捨てたの!!!??」

「当たり前だろ。顔も知らない女から貰った手作りの食べ物なんて何入ってるか分かんないだぞ。食えるか」

「そ……ソウデスカ…そういうものなの…」

「市販のものはグリーンの鞄に忍ばせておいた。何を勘違いしたのかわからんがかなり喜んでたぞあいつ」

「可哀想に…」

「………面白そうだな。俺も手伝う」

「え」



お菓子作りをしたことがないレッドは興味を持ったらしい。「これ、かき混ぜればいいのか」とボールに入った生クリームを指差せば少女は流れで頷いてしまったが、少女が慌てて座って待ってるように頼めば「一緒に作る」と。

面白そうだと思ったらしい。まあ、一緒に作って楽しめるならそれもそれでいい思い出だ。少女はもう一着都合よく借りた割烹着をレッドに着せた。

全く似合わなかった。



「(ううん……イケメンは何でも似合うって思ってたけど、実はそうでもないんだなぁ)」



そう思ったのは秘密である。

でも、こうして何か一緒に料理するのって楽しい。そうだ、これから先。もっと遠い先で二人で生きていくことになればこうして一緒に台所に立って料理することも当たり前になるのだ。それを想像しながら、溶けていくチョコレートを見ながら少女は笑った。


願わくばずっとずっと、一緒に。





あの時はそう信じていた。


楽しかった頃の思い出は味に例えると甘いものだとその時そう思った。





その後。


「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲完成しましたっっ!!」

「なんでそうなった」



チョコレートケーキは作った。トリュフは作った。チョコレートマフィンは作った。ポフィンは作った。机の上には数時間に及ぶ努力の決勝であるお菓子が並んでいたがその中に一際異彩を放つチョコレートの物体が輝いていた。

棒状の先端には羽の生えたモンスターボールが。その生え際にはこれまたそれなりの大きさの2つのモンスターボールが。少女監修の元いろいろ手が加えられたそれは見ようによっては卑猥なものにしか見えなかった。いや、どうやって作ったんだよソレ。



「いやそれどう見てもキン〇マ」

「違う!ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だよ!卑猥な目で見ないでよ!」



わざとやってるようにしか見えない。いやしかしこんな抜きん出た才能は本物だ。一般常人より発想は一段二段と斜め上に飛び抜けている。そうじゃなければ各地のコンテストを断トツで総ナメできないし、いろいろ世間から叩かれてはいるがそれでもトップコーディネーターとして有名なのはそういう事なのかも……しれない。

少女はそのどう見てもレッドの目からキン〇マにしか見えないそのチョコレートの先端に小さな銀のタルトストーンをピンセットでデコレーションしている。
レッドと何故かオシャマリは顔色悪くしてそのアームストロング砲を見ているが他のポケモン達は目を輝かせながら見ている。サザンドラはボールの中から『カッコイイ!なんか飛んで発射しそう!』なんて悪気のない戯言が聞こえてくるオイやめろ。



「少女……それ、もしかして俺が食うのか」



そうだとしたらちょっと。

いやだいぶ頭を抱える。食うならそれぞれ分断して召し上がりたい。



「あー…ごめんね、これはレッドのじゃなくて。ユイ兄達に」

「兄貴に、」

「レッドのはこっち!」



小さな包紙にたった今包装しましたと言わんばかりの小さなザッハトルテがそこにはあった。これまたどうやってやったのか不明だが、素晴らしい完成度を誇ったゲンガーの形を削って作ったチョコレートが乗っていて。それを受け取ったレッドは関心してしまった。良く出来てる。まるでお店で買ったかのような完成度。か

これは嬉しい。



「(こいつ本当にこういう才能はあるのに……)」

「クール便でユイ兄に送ろーっと」



ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の梱包を始める少女を見て。

レッドは「アレが自分宛じゃなくて良かった……」と深いため息をついたのだった。






HappyValentine!!




「ユイー?なんか少女ちゃんから荷物きたよ」

「あ?」



後日。

早速クール便にて妹からそれなりの大きな箱が届いた。

まあ今日はバレンタインだしな……と箱を受け取るユイを見て彼の仲間でもあり家族でもある男達は各々頷いた。「そういえばお嬢元気かな…」と顔が怖い男達はそれぞれ少女の顔を思い出して。

まあ中はアレなのだが。

小さなメッセージカードに「みんなで食べて!」と一言だけ添えられたメモ。

ユウヤに「開けてあげなよ」と笑顔のまま言われたユイはとりあえず箱を開けた。




「「「ネッ……ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲ッッッ!!!」」」

「…………」

「完成度たけーなオイ!!」

「すげぇなさすがだ!!」

「流石お嬢!!」

「痺れるぜ!!」

「お前ら他に何か言うことねぇの?」



青筋を立てて怖い顔する兄と、ゲラゲラ笑うユウヤが写真を撮りまくっていたそうな。










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