侍従が語る




「男嫌いだった?」

「少女殿が?」

「ええ、かなりの男嫌いでした」



午後の昼時、そろそろ良い具合に腹でも減ってきたし食堂に行くかと双子は席を立った。兄のゼオンが席を立てば弟のガッシュは目を輝かせてご飯、ご飯と呟いた丁度その時、少女の侍従である男が食器を持って登場したのであった。
訝しげな顔をする双子に侍従の男…フォーはニコ、と愛想よい笑みを浮かべて席に戻るように促す。どうやら少女直々に食事を持っていくように頼まれたらしいそのフォーは、慣れた手つきで食器や料理を並べていく。食堂に行く手間が省けた、とゼオンは心の中で今はこの部屋に居ない彼女に礼を述べた。

因みに双子が食事をしている時も、ガッシュの要望で彼の故郷である天空都市の話しが聞きたい、と言う我が儘をフォーはまた愛想よい笑みを浮かべて喋り出す。どうやらこの男は会話上手らしい。故郷の天空都市おろか、日頃の城で過ごす者達の行動やあの何番地区の店の料理が美味いだとか、そんな世間話をガッシュは喜んで聞いていた。ゼオンも静かに耳を傾けながら聞いていたが、格別興味がある話しではなかった。

そんな中、何気なく話しに出されたのは少女の昔の話だ。そんな話題にゼオンも少しばかりピクリと眉を上げ、今までよりも気になる話題に反応を見せる。あのいつも眠そうな顔ばかりしている惰眠女は、小さい頃はどんなじゃじゃ馬だったのだろう、と。彼も多少ばかり興味があった。そういえばこの男は少女の小さな頃からの世話係だったな、と頭の片隅で理解した双子は続きを促す。

そして簡潔に述べられた。

「小さいお嬢は極度の男嫌いだったのです」

………と。いや、確かに少しは驚きはしたが、それよりも双子が気になったのはこの侍従である男の顔が悔し気に、悲しそうに、でも何か嬉しそうな顔をしているのが気になったのだ。何だその訳アリな顔は、とゼオンは眉をしかめる。



「昔は……それはもう可愛らしいお方で御座いました」

「………ぬぅ?」

「ですがあの方は極度の男嫌いであられた。いや、大人が嫌いというかなんというか。何度あの方の気を引こうと手を尽くした事か…」



話が反れている気がする。フォーは自分の世界に入っている気がするのだが、気のせいではないだろう。
ガッシュが首を傾げてもフォーは目もくれず、こめかみを押さえてワナワナと震えている。



「「……………」」

「唯一お嬢が男に近付く理由は菓子をあげる時だけで御座いました……」



あいつ昔はそんなんだったのか、というか餌付けされていたのか、とゼオンは口が引きつった。話を聞けばどうやら男が嫌い、というより苦手らしい。今は至って普通だが、普段そんな雰囲気も話しもしなかったからまさか異性が苦手だったとは。多少意外な彼女の話しにゼオンは興味深く聞いていた。暇な時からかってやるか、と楽しみが密かに増えた事を喜んでいたゼオン。だがこの侍従は話しに夢中でそんなゼオンの瞳に潜む悪戯に気づいていない。



「ですから昔、男世話係全員が“お嬢と仲良くする議案”を立てたのです。その議案にまず私が菓子をお嬢に差し上げ続けた結果、初めて彼女から話しかけて来た時はどんな感動が沸き上がって来たことか…!自らトコトコと!拳を握らずにはいられなかった!!お返しと言わんばかりに氷菓子を控えめにくださったあの時のかわいらしぃぃぃぃぃぃお姿と言ったらもうあぁぁぁぁああぁぁぁ」

「わかった、もう良い、もう良いから下がれ」

「無表情だったお嬢が初めて鼻で笑われた時はそれはそれは感動で胸が震え」

「聞いておらぬのだ」

「鼻で笑った顔を見て喜んでやがるぞこの男」



侍従が語る



リアル子話掲載




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