月一度の強敵



「ううううう……」

「……………少女?」



家に入ってまず驚いた。

少女がフローリングの床に踞り、腹を押さえて呻いていた日には。しかも顔を青くさせて口元まで手で被っている。気分が悪いのは一目見れば明らかで、少しばかりギョッとしたレッドが早足で近よる。

目線を合わせるようにしゃがみ込み、顔を覗き込めばやはりその顔は青い。喋る事も億劫なのか、小さな手に被われた口元からは呻き声さえ聞こえる。気分は頗る宜しくはないのだろう。口元に手を置く動作は迫る嘔吐を我慢しているのか耐えているのか。今にも戻しそうだ。眉間に皺を寄せたレッドは気休め程度に背中を擦る事にした。



「…どうした?」

「うううう…」

「少女?」

「超…痛い…めっちゃ痛いぃぃ…死ぬ…」

「気持ち悪いのか?」

「うううう…」

「…唸ってばかりじゃわからない」

「うううう…出血死する…」

「………!!?」



途端、レッドのいつも棲ました目が開かれる。
踞まり呻いてばかりでわからないが、今少女の口から出血死、と。…確かに。よく鼻を立たせれば僅かに血の匂いがする。怪我をしているのか?

サッと表情が変わったレッドが戸惑いなく少女の衣服をめくり上げようとした。



「…………せーりつー…」

「……………は?」

「せいりつう、お腹痛いぃぃ…」

「…………」

「死ぬぅぅぅ…」

「………………はぁ、」



ポツリ、と零れるように言われたその単語にレッドの焦りが徐々に、いや急激に消えていく。
生理痛。そうか、生理痛か。

衣服に手をかけていた手を引っ込め、自らの黒い髪をかき上げた。「お前な…、」と安堵とも呆れともわからない深いため息が溢れる。未だに腹を押さえて死ぬだの出血死するだの呻く少女を、レッドはソファーに座らせてまず薬を飲ませる事にした。



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