彼は英雄にはなれなかった



ガタンゴトン、

ガタンゴトン、



「ごめんね、ゼクロム。部屋が狭くて窮屈だね」


走る玩具のリニアモーターカーを眺めながらNは傍らに居るゼクロムへと語りかける。

この広い部屋は一人で住むには大きすぎる、けれど様々な玩具が敷き詰められた空間だ。使い込まれたバスケットボール、ぬいぐるみ、積み木、ガラガラや飛行機のシャンデリなど、どれもこれも皆が幼児の子供が好む玩具。それらがこの空間にびっしりと詰まっていた。

そして色とりどりのものが有る中、ゼクロムは身を低くしながら興味深くそれらを眺める。ゼクロムの巨体は流石に広い空間と言えども、身を縮めなければ収まりきれなく辛うじて身動ぎしか出来ない状態だ。だがそんな事は気にしていないのかそれよりも、見慣れない玩具に興味を示しているようだ。

クルクルクルクル、

一定のテンポで回り続ける飛行機のシャンデリにゼクロムは面白げに目を細めた。



「あれが気になる?」

『   』

「そっか、気に入ったんだね」



ゼクロムの反応にNは優しげに微笑んだ。トモダチと自分と同じ空間で同じ共感が得られたと言うそれが嬉しく、バスン、とNがバスケットゴールにボールをシュートすればゼクロムは興味の対象をバスケットボールに移動する。

それは何だ、と言うように、



「あの小さな輪っかにボールを入れるんだ」



慣れるまでに少し時間が掛かったけどね。

Nはそう笑った。

首を傾げて落ちたボールを指先でちょいちょいと小突くゼクロムは転がって行くボールを目で追う。Nは独りでに動くモーターカーを動かし、また積み木を意味もなく積んでみる。遠くの方へと残ったモーターカーを走らせるとまたバスン、と転がったボールをゴールネットへとシュートした。

バスン、

バスン、

バスン、


バスン、



「ね、楽しいよ、ゼクロム」



やる?と転がって戻ってきたバスケットボールをゼクロムに向ける。ゼクロムはそれを暫し眺めていると、不意に視線をNにとって反対側にある数々のぬいぐるみへと向けた。



「ぬいぐるみ?可愛いでしょ。今度ゼクロム、君のも作ってくれるようにお願いしてみようかなぁ」



バスン、とまたボールをネットへとシュートした。

それを見たゼクロムが急に念力で数ある内のぬいぐるみを一つ浮かせると、それを勢い良くゴールネットへと突っ込んだ。ふん、と得意気に目を細めるゼクロムに、目を見開いたまま驚いたNはぱっと笑顔になる。



「凄いよゼクロム!」



流石僕のトモダチだ!

そう歓喜を上げるNはゼクロムへと笑いかけた。



「あー楽しいな…ずっとこの時間が続けば良いのにね。ね、ゼクロム」

『  』

「うん、そうだね。それも僕が英雄になれば全て叶うんだよ。だから証明するんだ、どちらが英雄に相応しいか。僕かホワイト、どちらが相応しいか…ね。

早く来ないかな、――ホワイト」



ゴトン、とゴールに引っ掛かった人形の首が床に転がった。





(には彼はなれなかった)




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