凶悪



「……あの、二人とも、」

「アヤさんは黙っててください」

「黙ってろ」

「(誰かァァァァ)」



一つ確認したい。

ここは、自分の家ですよね?

何故か自分の右側にはレッドが居て左側にはヒカリちゃんがいる。地球上この上無い程似た者同士の二人(いろんな意味で)はまるで兄妹じゃないのかと疑いたくなる程だ。

無表情、怪力、普段は物静か、何か欲望がある時に瞳の奥に宿る怪しい輝き、バトルはべらぼうに強い(コンテストとバトルも)、目付きは半端ない………似てる所を上げればキリがない程二人は性別を除き同一人物なんじゃないかと思いたくなる。

唯一違うのは………………………………なんだろな。常識はレベル5くらいヒカリちゃんの方が勝っているとか。

何故か自分を挟んでの睨み合いは無言で続けられている。血のように燃える紅い瞳と闇のように無音を奏でる漆黒の瞳が、ギラギラと嫌な光を宿し自分の頭の上でずーーーっと睨み合っているのだ。逃げる事は許さないと言うように自分に無言の圧力をかける二人。何だこれは何かの拷問か何かか?

例えその殺気籠った眼差しは自分に向いていなかろうと、その、二人の全身から惜しみ無く放出される悪の波動に似たような何かが自分をさっきから押さえ付けるのだ。息が詰まる、苦しい事この上無い。



「………ですって。レッドさん」

「否、それはお前だろう」

「悪の波動?私がそんなものを放つと思ってるんですか、ポケモンじゃあるまいし」

「ポケモンなら、人間でも俺でも無い。大丈夫か」



頭、と自分の人差し指で自分の頭を指差し、心なしか紅い目が歪んだ気がする。漆黒の瞳はスッと細められ、口元をぐにゃりと弧を 描い た。



「(ひぃっ……!)」

「…今日は、少女さん私とサブバトルする予定なんです」


“だから邪魔”


「…奇遇だな。俺も今日カントーのタマムシに連れていけと少女に言われてるんだが」


“帰れ”


「(KYAAAAAAAAA!!!!!!)」



いつも皮肉っぽい事を言う顔で言葉に成されない言葉を心と耳で拾った。

今まで、レッドに、ヒカリちゃんに口答えや対等に立つ人間は居ないに等しいと思っていたが違った。同種である彼らは違う。同種は嫌いなのか受け付けないのか、お互いが気に入らない為二人はバチバチであった。



「………しつこい女は、嫌われるぞ」

「………しつこい男も、嫌われると思いますがね。貴方なんか特に」

「否だ。自分の事を言ってるのか?……燃えろ」

「貴方の耳は風穴空いてるみたいですね。……くたばれ」



レッドに肩ごと抱き寄せられ、ヒカリちゃんに腕を捕まれ、自分を中心に置いて眉間いっぱいに皺を寄せた二人は互いのボールをいつの間にか握りしめていた。


(ヘルプミー!!)



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