三十九華
「んー」
みんなどこに行ったのだろう。
退屈だ。
退屈だ。
お父さんは帰ってこない。
黒いウサギさんも、大きなネコさんも、羽が生えたフワフワしてるのもどこか一緒にでかけているのかな。
お母さんまでどこかに行ったきり帰ってこない。
いつ帰って来るのだろう。
約束したのになぁ。
最近、知らない人達がよく家に来る。
最近、トゲトゲも悲しそうな顔をする。とても忙しそうで、どこか遠くを見ている。でも寂しい時は一緒に居てくれる。遊んでくれる。
……最近、兄は遊んでくれる以前にお話すらしてくれない。
なにか、モヤモヤしてるのかな。
うがっーってなってる?
どこか痛いのはわかる。
だってほら、あんなにも辛そう。
今にも泣きそうだよ。
何がそんなに痛いのだろう。
どこがそんなに痛いのだろう。
この前、凄い大きな声で……泣いてた?
痛いのかなぁ。
痛いのかなぁ。
痛いよね。
兄が泣くなんて見たこともない。
こっそりと、見てみる。
苦しそうな兄の背中をゆっくり擦るトゲトゲ。
昨日の昨日の昨日の昨日。
そしてそれは今も兄は悩んで、痛くて…かなしい。
悲しい?
あ、そうか悲しそうなんだ。
何でかはわからないけど、あんなにも痛そうで悲しそうなら、
アヤにも、何か出来るといいのに。
どうしたら元気になれるんだろう。
どうしたら痛いの取れるんだろう。
どうすれば、お話できるんだろう。
どうしたら、前みたいに笑ってくれるんだろう。
こんな時、お父さんとお母さんならすぐにどうにかしてくれるんだろうなぁ。
「むー」
なんで、アヤには何も話してくれないんだろう。
今日も兄の部屋に。
何かアヤにもできること、ないかな。
ちょっと…いや結構イジワルだけど、
本当は優しいところ知ってるよ。
お父さんがそこら辺で寝てれば、何も言わないで毛布をかけてくれるし。
いつも遅くまで本を読むお父さんに、おにぎり作り置きしたり。
お母さんの為に、"健康にいい食事作り"の本をこっそり読んだり。
体調が悪くても、自分のことを心配させないように、いつもの兄を演じていたり。
アヤにもたくさんたくさん、怒った後も
実は「強く言い過ぎた」って気にしてるのを知ってるし。
トゲトゲが言っていたし。
いつも遊んでいる時にアヤが怪我しないか、すごく遠くの方から見ててくれてるのを知ってる。
作ってくれたご飯が美味しくて零しながら食べているアヤを見て、可笑しそうに、よく見なきゃわからないくらい小さく微笑していたのを。
知ってる。
何かしなきゃ。
何かしなきゃ。
「にー」
だから、アヤは"いつも通り"兄に笑いかけた。
自分だけは変わらないと。
変わったりしないと。
居なくなったりしないと。
「遊ぼー」
それしか、小さな自分は術が無かったから。
三十九華