三十四華



父の本家はあの時、あの組織と連中のせいで全焼したが、全員が亡くなった訳ではなかった。

ユイは父親に連れられ、本家には何度か足を運んだ事もある。


家を片付け、一段落着いた頃。サクヤの家の者数名が血相変えて家に乗り込み、ユイや、アヤの顔を見て涙ぐむ者もいたし、力強く抱擁して来る者もいた。サクヤの不在に訝し気に顔をしかめる強面の男達だが、ルカリオからこれまでの経緯を説明すると驚愕で口が空く者、信じられるかと叫ぶ者、俯く者もいたし、顔を顰め涙を流す者達それぞれだった。

それもそうだ。彼らはサクヤが小さな時から世話をしてきた者もいるし、仕えて来た者達、少なからず短くない接点を持った人間達だった。

アヤを抱き上げる本家の男達。大体の事情を前々からサクヤから聞いて知っていた強面の顔に傷がある大男は、顔を真っ赤にしながら涙を我慢して、ワカナの両手をギュッと包んだ。貴女だけでも、無事で良かった、と。

ガシガシとユイは頭を撫でられ、良く生きてたな、辛かったな、などという大人達と、自分と同年代の子供達が数人。

それは本家に行った時、多少なりとも出来たユイの友達と呼べる子供だった。



「………よぉ」

「…久しぶり、まさか、こんな事になるなんて」



名は、カイと言う。

本家に遊びに行って最初に出来た友達だった。

緩く使用人の着物を着た彼は、ボロボロだった。背中が小さく、頼りない。ユイは悟ってしまった。自分と同じ目をしていることに。



「……誰か、亡くしたのか」

「……母、を」



そうか。

と小さな声で、それしか出なかった。

無駄な慰めはいらない。

同じだ。こいつも、俺も。

あの時の組織の襲撃は、本家には関係のないものだったのかも知れない。原因は、狙いはワカナで、その時邪魔だったサクヤがたまたま、本家にいたから。たまたま、そこに居合わせた本家の使用人達が被害に会った。

ユイは喉が急激に乾いていくのを感じた。



「ーーー、すま、」

「謝んないで」

「、なん、」

「ユイのせいじゃないし、ましてやサクヤ様やワカナ様のせいでもない。俺達はサクヤ様とそのお父様に恩があって、ずっと仕えて来たんだ。むしろ…こっちなんだよ」

「なに、が」

「大事な時に駆けつけられなくて、ごめんな」



ユイは、言葉がでなくて、飲み込んだ。

下を向いて、目眩のような、頭痛のような感覚をやり過ごした。

何で、こいつが謝る?

ユイには理解できなかった。



「まだ向こうにヤスがいるから。俺、行ってくるね」

「………」


ヤス。

確か、俺に何かと突っかかって来るガキ(同年代)だったか。


「ユイ」

「………んだよ」

「変な気、起こすんじゃないよ?」


それだけ言って、父親と焼け跡の本家に戻ってしまった。

その後、強面の顔に傷がある大男は言った。

本家は全焼したが、他に用意された小さな仮住まいがあるらしい。皆そこに移住すると。身寄りのない者、宛のない者、古くからいる者達はそちらに。他、本家に身を置いて日が浅い者達、数少ない女達はポケモンセンターで暫く寝泊りをするそうだった。あんな悲惨なものを目にして、海魅家に身を置くことが怖くなったらしい。

それも当たり前か。

大男は言った。

前々から若が、サクヤから聞き及んでいると。

ワカナの身体のこと。特異な体質なこと。今やその身体は癌で浸されて、こんなにも動けるようなステージではないこと。いつ死んでもおかしくないこと。

それならと、ワカナ達まとめて新しい仮住まいに移住してはいかがかと提案をしてきた。そんな年幼い子供だけに看病と、看取っていくのはあまりにも酷だと。



「いや…いい」

「しかし、」

「いい、大丈夫だ」



ユイ君は頑なに首を振ろうとはしなかった。

幾度説得してもユイの考えは変わらなく、ワカナもいくら本家の人間とはいえ、そこまで自分の世話を他人にさせたくはない。

丁寧に断りを入れて、本家の人間達は、戻っていった。





三十四華


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