二十六華


「たのもぉぉおおおおッッ!!!!」

「ダセェ!その掛け声で殴り込むのダセェ!古過ぎてダセェ!」

「煩ぇぇぇ!!ダセェもクソもあるか!ワカナァァア!居たら返事しろ!白玉あんみつあげるから!!」

「あんたさっきのキメは何処にやったんだ!無駄にキメてたクセに!!」

「そんなんリセットだリセェェェッット!!無駄にカッコ良くキメると「親父…」みたいなノリになんだろ!?ここまで来て冷静で居られるかあいつに手ぇ出したからにはハラワタ引きずり出して生きててすいません産まれてきてすいませんでしたって思うくらいの地獄を見せてやんだよォォォ!!」

「アヤの名前が入ってないけどどうなってんだ」

「忘れるわけねぇだろ!!てめぇアヤちゃんと人質ポジション代わってこい!助けねぇけどな!助けねぇけど!」

「二回も言うな!!やっぱりあんた嫌いだ!」

「っていうかドラ息子!おまっ、何で着いて来てんだ帰れぇぇぇ!さっさと帰れ!ガキは寝る時間なんだよォォォ!!」

「うるせぇクソジジィイイイッ!!着いて来いっつったのはアンタだろーがぁああ!!」

「着いて来いとは言ってねーよ行くか?としか言ってねーよ何で着いて来てんの?お呼びじゃねェんだよオオオオオオ!!!何で断んねぇんだテメェは!!帰れェェェ今すぐ帰れェェェ!!」

「アンタ本当に言ってる事滅茶苦茶だな!!」



ガタンガタンと騒がしい音(口喧嘩)を立て、海底洞窟内の研究所を荒らしまくる大人と子供。研究員達が集うのは家から真っ直ぐの離れにある海底洞窟だと尻尾を簡単に掴んだが、そこまで移動するのに骨が折れたようだ。(何せ二人共水タイプを持っていないため)

ずぶ濡れになりながらもレントラーとルカリオの手助けを借りながら、洞窟内へと侵入すると同時。サクヤは真っ先に遭遇した研究員と思わしき男性の顔面に踵を埋め込んだ。メキョ、と鼻の骨が折れたのは気にしない事にして。

鼻血を吹き出して静かにダウンした男を洞窟の隅に蹴って転がす。ここまで普通に扱いがゴミ同然である。

そんな父親をユイは尻目に、グルリと洞窟内を見回した。薄暗い事には変わりはないが、今までここに出入りしていたかのような形跡がある。所々に吊るしてある照明がその証拠だ。先が暗くてよく見えないが、その奥から沢山の人の気配がした。きっと、母はそのまた更に奥だろう。



「アヤ探して見付けたら先に帰るからな俺は」

「ん?おお、…オメェ、マジで行くのか」

「ったりめーだ!じゃなきゃこんなジメジメした所になんか…」

「そしたらワカナも連れてけ」



は?とユイは訝しげに振り返る。そこにはケラケラと笑う父親が。



「アヤ見っけたら、ワカナも連れて先に外に出てろ。後で先に出るように言っとくからよォ」

「…?アンタは?」

「俺かい?俺ァ…あれだ。ちょいと根元を叩いてくらぁ。どうせワカナ連れ出しても、また奴らはしつこく尻追いかけ回して来るんだ。だったら二度と追って来ねェように再起不能にしてやる」

「…………」



ああこの父親、やっぱり人を簡単に殺す事が出来るのか。

ユイが今から向かおうとしている先には人の気配はあまり感じない。その多くはワカナがいるであろう方向へと多く集中している。

きっと、邪魔するのであればその人間ポケモン関係なく全てを切って捨てる気だ。

相手は違法な研究を繰り返し、数多の人間を材料に使う犯罪集団だ。そんな奴らは生きる価値すらあるのかどうかも疑わしい。ワカナも現在その実験道具。サクヤが怒るのも致し方無い。…だが、人殺しなんて勿論良い気はしない。



「よーし、じゃあなァ〜ユイちゃん。アヤは任せんぜぇ。

――――危険だと判断したら、必ず逃げろよ」



この時、自分も一緒に着いていくか、それとも無理にでも止めておけば良かったと。


一生後悔する事になる。



二十六華繚乱

みるもがしがな

みるもがしがな

はてのゆうらん

うきよにしずらんで




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