二十五華


アヤは、無事だろうか?

それだけ思いながら宙に視線を巡らし、口を閉じる。ジャラ、と音を立てる手足の鎖に身体中に刺さる針が気だるい。感覚が麻痺したのかそうでないのか知らないが、痛くはない。ただジンジンと電気のような微弱な痺れが針から漏れている。



ジャラ、ジャラ、ジャラ



「………………」



身動きするだけで鎖が擦り鳴るのは耳に煩い。どうせこんなもの付けたって逃げや出来ないのに。

連れて来られたのは渦巻き島より少し離れた海底洞窟だ。リフトに乗って地上を往き来するのか、先程からリフトの上下する機械の音が洞窟内を響き渡っている。きっと今自分が居るのはその一番下の最下層だとは思うが、外の光が入って来ないのはつらい。決して明るいとは言えない人工的な光に、ジメジメした湿気が気分を重くする。



「(………どうしましょうか)」



それにしても、一刻も早くこの場所から逃げ出す算段を立てなくてはならない。

都合良く利用される上にアヤは用済みとして処分されるであろう事は既にわかっている。

そうなる前に何とかここから逃げる準備を、若しくはサクヤにこの場所を教える事が一番ベストなのだが。とりあえず、彼なら絶対に助けてくれるだろうしその内嗅ぎ付けたらここまで乗り込んで来るだろう。彼はそういう人間だ。何せ自分を昔あの場所から一人で乗り込んで連れ出した男だ。普通じゃないのは既に昔からわかっている。(あれ、今凄く失礼な事を言ったのかも知れない)

それよりアヤはどこにいるのだろうか。まだ、何もされていないと思うが。奴らが既に我が子に手を出していたら、きっと許せない自信がある。



「………………」



拘束台から入り口付近の所にいる“同胞”。ソレに意識は無いのか、何もせずぼんやりとこちらを見ている。

濁った白い目。

無性に気持ち悪くなった。



なんぞ され



意思のないものを操るのは意図も容易いこと。

フラフラと入り口から離れる同胞は、やはり無機質な入れ物だ。可哀想に。



「あれぇ、殺さないのぉ?」



……いつの間に居たのか知らないが。つくづく気持ち悪い人間だと思う。自分がそんな感情を持つのは珍しいほうだ。

読めない笑顔が毒。笑うその形は宛ら能面。どこか引っ掛かるような喋り方をするのは知っている限り一人しかいないが。



「ま、いいやぁ。

―――じゃ、始めようか」



何をするつもりか興味もないが、そう簡単に意識を支配できるとは思わない事だ。



二十五華繚乱

ちょうきょうへ

はらやむもあせど

阿吽 とけて

去れ







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