十七華
「ママー?」
「はい?」
「おかお、わるいよー?」
それは、日に日に悪化していった。
「………あら、まぁ。アヤにはそう見えますか?」
「ママ、おかおしろいー」
「まあアヤ。私は元々体質が白いんですよ」
「たいしつ?」
「元々白いって意味です」
「……………?」
ここは病院ではない。いつもの、自宅。寝室だ。本来ならば病院に縛り付けるくらいに彼女の病状は悪化していたが、もう、それすらも手遅れだった。
医師には持って一年。短くて半年。そう告げられた。それに関してはあまりにも突然でアヤの頭は当然ながら着いていかなかった。それは今もそう。長年付き添っていた身内が、母親が自分の傍から居なくなる。もう顔を見ることも話をする事も、叶わなくなる。死んでしまう。
それならば、と。死ぬまで病院に縛り付けて置くくらいなら、サクヤはワカナをせめて短い間だけでも自由にさせる事を選んだ。手の施しようがないなら、近い内に死ぬのなら今を好きな事をさせようと。そうサクヤは手早く決め、医師に自宅療養として連れ帰ったのは昨日の事。
「………………」
母と妹の会話を扉を挟んだ外で聞いていたユイが顔をしかめる。
不思議と、悲しいとは思わなかった。それが悲しいと思うばかりか、何故かユイには怒りに近い感情が沸き上がっていた。
母に対して、だろうか。
無性に、彼自信も行方の知らない怒りを母に感じていた。理由はわからない。ただ、何かを突いてしまえば、今にも母にそれを八つ当たりと近い形で吐き出してしまいそうだった。そんな気持ち。
いや、それよりも、だ。
「(……ッ……あいつは、何であんなに平然としてんだよ…)」
ユイは父親に底知れぬ怒りを感じていた。
サクヤは、ワカナの余命が残り少ないと聞いても平然として「そうかい」とだけ答えたのだ。有り得ない。だって今まで、ワカナをあんなにもウザイくらいに溺愛しまくり、気持ち悪いくらい独占欲丸出しだったのに、だ。その独占欲の嫉妬の先がユイやアヤに向いてしまうくらいに、ワカナに依存して執着していた。異様なくらいに。
それがなんだ。
狼狽えもしない。動揺もしない。気落ちさえしない。サクヤは、全くと言っていいくらいに反応を示さなかった。いつも通りにワカナに接するその態度。平然とした態度。それどころかサクヤが家に居る時間が短くなった。今も外に出ていて、昨日から帰って来ない。有り得ない。
結局、口先だけだったのかと、一時の気持ちだったのかと。死ぬ女にはもう心入れすら無いのかと。ユイは落胆と同時に怒りを覚えていた。
「クソジジイが……」
彼は父親が、嫌いだった。
十七華繚乱
例えそれが
短な灯火だとしても
妾は世界を綺麗だと、