十華
それを見つけたのは偶然、だった。
スクールが早く終わった事もあり、ついこの前進化を迎えたばかりのルクシオを連れてユイは早めに帰宅した。家には当然と言えば当然だが、母のワカナが寝室で静かに眠っている。アヤもその隣で丸まって寝ていて、それを確認すると静かに扉を閉めた。
欠伸をするルクシオを尻目にリビングに向かい、鞄をソファーに放り投げる。足に擦り寄って来るルクシオは腹が減っているらしい。キュルルル、と腹が鳴るルクシオに苦笑いしてポケモンフーズを入れてやった。ガツガツとがっつくルクシオにどんだけ腹減ってんだと言ってやりたいが、そういえば昼食ってねぇな、と思い出す。
ルクシオの食欲に感化されたらしい。見ていたら腹が空いてきた気がする。ユイも何か口にしようかと冷蔵庫に向かい、ドアに手をかけたその時。ふと視界に入った物があった。
「……?何だこれ、」
椅子に立て掛けてある細長い黒い布の包み。
普段家で見たことが無い為に興味本意でそれを手に取った。ズシリ、と案外重いそれにユイは眉を潜める。しかもガシャ、と変な音も聞こえる。怪しい。怪しすぎる。どうせあの親父が持ってきたもんだろうと何となく考えを巡らせ、その布の中身に興味を示したユイは戸惑いなくそれを取り払う。
………取り払った、が。
「………おいおい、何でこんなモンが家にあんだよ」
ズシ、と重いそれ。ヒヤリと硬いそれはガシャ、と軽い音を立たせてユイの手元に現れた。
刀、だった。
柄は白く鞘も白い。鞘には模様も彫ってあり柄の先には赤い紐がぶら下がっている。一目見ただけでそれはとても高価な代物だろうと見当がつく…けれども。何故こんな危なっかしい物が家にあるのか考えても予想すらつかない。あの親父は何を考えているのか未だに謎だが、こんな物騒な物をこんな所に置くなよ、と内心文句の一つや二つ出てしまう。
そしてチャキ、と柄を鞘から少しばかり引き抜くと銀色に輝く刀身がご対面。見事なまでに綺麗な銀色だった。白にも近いその刀身。それにも模様が彫ってあり、やはりかなり高価なものなんだろう、とじっとそれを観察していたユイに突然ゴツッ、と拳が降ってきた。
「〜〜〜〜ッてぇー!!」
「おうユイ。おめぇ何やってんだい?」
「ジジイてめぇ…!」
「勝手に触んなよ。切ったら危ねぇだろーが」
「こんな所に置いてるあんたの方がずっと危ねぇよ」
「ハハ、違いねェ」
ぬっ、とユイの背後から出てきたサクヤ。拳骨を落とした本人はやはり父親らしい。思ったより強烈だったのか、ユイは少しばかり涙目になりムカつく父親を睨み付けた。(この時ユイの睨み付ける威力は50%くらい半減していた)
睨むユイを無視するサクヤ。しかも何が楽しいのかクツクツと笑っている事もあり、ますますユイの苛々が5倍増した。そんな事を知ってか知らずか、ヒョイとユイの手から刀を取り上げた彼は、刀身を戻して再び布を巻き付かせる。
父親の一連の動作を見ながらユイは不貞腐れ気味に口を開く。
「……それ、何だよ」
「ああ?そりゃあおめぇ、刀だろ」
「違ぇ!んな事誰でもわかるっての!何でそんなモンが家にあるんだよ。っていうかあんた何平然とそんな物騒なモン持ってんだ」
「おーおー、注文が多いねェユイちゃん」
「頭剃り上げるぞ」
「ククッ、冗談」
どこから取り出したのか知らないがユイの手に剃刀とバリカンが握られていた。(息子の目は本気だったと言う)
それをサクヤはどーどーと押さえながら、刀をちらつかせる。
「こいつァ、珀憐ってんだ」
「…珀憐?」
「ああ。おめぇ、俺の実家が昔武家だって事は知ってんだろ」
「…まあ。詳しくは知らないけどな」
「知らなくて良いんだよ。結構きったねー事してんから。そこの家宝みてぇなもんよ」
「家宝?」
「おう、なんでもこいつァ昔ルギアの牙を刀身に混ぜて造ったとか言われててよ。まァ嘘か本当かどうかは知らねーが。売ったらバトルタワー何個か買えちまうぞ」
「よし、質屋に入れるべきだ」
「オイくら待ちやがれドラ息子」
刀を掴むユイの手をガシ、と掴むサクヤ。両者とも不敵に笑っている。
…にしても、そんな大層な物があるとは驚きだ。しかもそれを目の前でお目にかかるなんてもっと驚きだが。この親父の実家がどうなっているのか是非見てみたいものだ。因みにサクヤの実家は武家一家であり、そこの頭が現在サクヤである。…しかし当の本人は実家は好きではないらしいが。
「今日はこいつを盗…頂きに家に戻ってたのよ。実質上もう俺のモンだしな」
「…………(盗んで来たのかよこいつ)」
「そうさなあ、俺がくたばったらおめぇにやるよ」
「よし、さっさとくたばれ」
「おいコラてめぇドラ息子」
後々、この刀が彼にとって形見になるなんて思いもしなかった。
十華繚乱
銀に耀くそれを
天に照らし
太陽に当て
夜を差して
雨を浴び
土に沈む
呼応、それは美しい