九華




「ほうら、一本」

「………!!(ピキッ)」

「そら、また一本。まだまだだなァユイ」

「………ッ!!!(ビキビキッ)

――だぁあああッッ!!頭を!わざわざ!撫でるなクソジジィイイイッ!!!」

「ハッハッハッハ!当たらねぇなぁー?」



午前の昼刻。

何やら森…というか特定して家の前が騒がしいのは気のせいではないらしい。どうやら、この親子はほとほとじゃれ合いが好きみたい、と窓から覗いていたワカナは思った。

そこには父親のサクヤと息子のユイが些か穏やかではない運動をしているのが見えた。運動?否、運動ではないかもしれない。立派な喧嘩、ユイの一方的な攻撃が繰り広げられている。…まあいつもの事なのだが。

とりあえず今までの彼らの行動を思い返すとしよう。ボールを勢い良く父親に投げるユイ。余裕でかわされる。

跳び蹴りを父親に放つユイ。余裕でかわされる。

拳を父親に撃ち込むユイ。余裕でかわされる。

(どこから取り出したのかは不明である)竹刀を父親に振りかざすユイ。余裕で受け止められる。



「くたばれ禿げろ骨粗鬆症になれ毛根から死滅しろ!!」

「ハッハッハッハ、聞こえねー」

「あ゛あ゛ああああチクショオオオオ死ねぇえええ!!!」



完全におちょくられている。

窓越しから見ているワカナにも、ユイがくっきり遊ばれているのがわかる。しかし怒りが強い為に完璧に父親の思う波に乗らされて遊ばれている。

因みにこの遊び(遊びと言われるのか少々問題がある)は基本的にサクヤがユイを挑発して始まる遊びだ。最初は戯れ程度のつもりがサクヤに付き合わされマジでガチンコになってしまうのだが。

ビュッ!と風を切る音が響き、ユイの拳と蹴りがサクヤを捕らえる。けれど、また易々避けられその上拳を止められてしまう。



「爪が甘ェよユイ」

「チッ!!」

「随分容赦ない舌打ちだなユイ」

「あんたのせいだよ」

「しかしまあ、スジは悪くねェ。おめぇには素質があんだな。

―――って事で、」


ビュッ!!


「うぉおお!!?」



突然竹刀がユイ目掛けて飛んでくる。それを防衛本能で避け、慌てて父親を見れば竹刀を片手にニヤリと笑う男。クルン、と竹刀を持ち直し、肩に刀身を当てて不適に笑っている。

黒い髪の下、真っ赤な瞳が鋭く光った。



「ユイィ、構えな。父ちゃんが剣術からシバキ込んでやる」

「いや、ちょ、待っ」

「安心しな、後でボクシングから空手まで俺が知ってる事は教えてやるよ」

「そんなん誰も聞いてね…う、おおおお!!?」



九華繚乱

鳥も猫も蛇も

みな対等に力を持つべき事だと

わかれ事はあれど

やはり浮き世は平ではありやせん




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