七華




「りんりんー」

「…ブイ?」

「いっしょに!おひるねしよー!」



なんてアヤが枕を抱えてブラッキーの元へと来たのは30分前くらいだ。

りんりん。

父親であるサクヤのポケモン…だが。あくまでもそれはアヤが名付けたあだ名だ。本当の名前は臨月と言う。(しかし臨月と呂律が回らなかったのかりんりんになってしまった)

因みに立派な雄である。

そして30分前に臨月の元へと訪れたアヤは床に着くこと僅か数分で夢の世界へと落ちてしまった。子供って気楽で良いな、と臨月は本気で思ってしまう。カチカチとリビングに針の音だけが鳴る中、それ以外の音は一切聞こえない。何しろ今はアヤと臨月、家にはこの一人と一匹だけだからだ。

他の同族の連中は散歩に行っているし、アヤの兄であるユイは今トレーナースクールで不在。そして当の主人であるサクヤは妻であるワカナを連れて病院。薬が切れたらしい。(それにはレントラーが付き添っていたな)



「………………」



じっとアヤの寝顔を見る。
全く、相変わらず幸せそうにかつ気の抜けた顔でよく眠る幼子だ。見ているこっちが気が弛みそうだ、と彼は思う。

ぷに。

そんな音。臨月は何を思ったのか、前肢でアヤの頬をつつく。水分たっぷりのそれはプニプニしていて触り心地が良い。人間の子供って不思議だ。

この時、己の身体にフワリと暖かい空気が伝うのを感じた。ふと腕を見ると黒い毛並みに映えた黄色の輪模様が、蒼色に変わっている。どうやら自分は、この雰囲気が心地好いと感じているらしい。

 彼は少しばかり特異体質である。気分の高まりや感情の波により身体に変化をもたらしてしまう変異を持っていた。人はそれを色違いだと呼ぶらしいが。しかし今、別に苛々も激情も憤怒の感情は無い。という事は、酷く今の生活が心地好いと感じているからだ。

ぷに、ともう一度臨月は頬をつっつく。つつかれる感触にアヤは何か居心地悪そうに寝返りを打ってしまった。それにまたふと笑みを溢して。その時ガチャ、と扉が開いた。鞄を面倒臭気に片手に下げた人物はユイだ。帰ってきたらしい。



「ただいま、っと。…って臨月お前何やってんだ」

「…ブラッキ!」

「……?ま、俺課題やるからアヤ起きても部屋に入れないようにしといてくれよ?」

「ブイ」



あわよくば、この平凡な幸せが続けば、と臨月は心の内に思った。



七華繚乱

この平凡な日常こそ

とても美しく耀くものだと

海は見ている

知っている



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