act.91 7月7日






「あ、朝から……これは……!」



指輪を渡されたあと、アヤが寝室からリビングに抜け出せばそこはもうあらゆる料理が並べられていた。しかもアヤの好物ばかり。きっと一日では食べきれないだろう。自分の誕生日をここまで豪勢に祝われるのは多分初めてだ。

しかも今は朝8時過ぎ。些か寝起きでこの食事量はだいぶ…身体にも悪いし目にも悪い。なので少しずつ平らげることにしたのだが。



「因みに料理の注文はピカチュウが」

「ピッカ!」

「えええええ……?ピカチュウさん相変わらず規格外過ぎてもう何から突っ込んだ方がいいのか……」



ピカチュウははーい!自分が注文しましたー!とアピールして手を振っている。本当にレッドのピカチュウは規格外すぎる。料理の注文できるの?ピカチュウ?いったい全体どうやってやるの?とアヤは最早満腹に近い状態の胃に喝を入れてミートパイを死ぬ気で咀嚼している。「おい、吐くくらい食うな。無理しなくてもいい」なんて気を遣われている。

因みにピカチュウはアヤの疑問の眼差しに気付いたのか、レッドのポケフォンを引っ張り出し配達メニューのアプリを勝手に操作してアヤに開いて見せた。なるほど。レッドが時々注文するやり方を覚えてたのか…なんて思いながらまあピカチュウだから何でも出来るか…だってピカチュウさんだもんね……と間違った解釈をしている。

サザンドラとチュリネは「いや、違う。それは普通じゃない」と心の中で突っ込んでいるが口には出さなかった。だってこのピカチュウは普通のピカチュウではないことはとっくに分かりきっていたし、何で?って聞いても当然のように「だって俺ピカチュウだもん」というテンプレが返ってくる始末。ぶっちゃけ考えるのが面倒だったから。



「マリリー」

「チュリ…」

「?2匹とも……なぁに?」



アップルパイを切り分けたアヤがモゴモゴ口に詰め込んでいると唐突にオシャマリとチュリネがいそいそとやってきた。

チュリネの体の脇っちょに硝子の小瓶が挟まれており、それをアヤの足元まで持って差し出した。



「チュ、チュリリ、チュリ」

「………?」

「この前助けてくれたお礼、と。誕生日だからと」

「そんな、気にしなくていいのに……って、…え?ボクにくれるの?」

「チュリ」



コク、と頷くのを確認してアヤは小瓶を手に取った。



「?」



中に入っているのは……乾燥した葉っぱ。



「(いや、これって)」



小瓶の蓋を外したアヤは鼻を近付け匂いを嗅ぎとる。
仄かな甘い香りに、ピンと来た。



「ハーブ?」

「チュリ!」

「え?チュリネが用意したの?」

「チュリ!」



そういえば頭の葉っぱ一枚がいつの間にか行方不明になっている。



「ど、どうやって……え、ちょっと待って。まさか」

「チュリ〜」

「自分の身体の一部を乾燥させたんだと」

「ふぶっッ」



そんなことしちゃダメでしょ!!何を好き好んで自分のポケモンの身体の一部を食事にしなきゃならないと思って……とアヤの口端がヒクヒクと引きつっている。いや、心遣いはとても嬉しい。この前入ってきてくれた子が自分の為に、何かをしてくれるなんて。

とても嬉しい。今すぐにでもチュリネを抱きしめて感謝の限りを伝えたかったがそれは素直に喜べない。だってこの小瓶に入ってる乾燥した葉っぱってチュリネの頭の葉っぱを引っこ抜いたか千切って乾燥させたものでしょ?

え……?なにそれ情緒が……。



「チュリチュリ、チュリリネ」

「…ハーブだから、料理にも出来るし細かく刻んでハーブティーにも出来ると。希望があればアロマセラピーで効能を変えることができる……?お前、まさか自分の身体の一部を薬に出来たりするのか?」

「チュリチュリ!」

「ほお」



このチュリネ、実は超有能なのでは?

レッドは思った。

どうやらチュリネは自分の頭の葉っぱを使って薬やアロマを作ったり出来るらしい。家族や仲間の間では結構評判が良かったと。元々草タイプなだけあり、身体の再生速度も早く、光合成を使えば更に用途は容易い。

レッドは今し方聞いたチュリネの“薬の複製方法”をアヤに伝え、そしてそれをアヤは聞いて倒れそうになった。



「えっ…痛く…痛く無いの…!?」

「チュリ…?」



痛み?無理やり引っこ抜かれるとそりゃ痛いが……まあ許容範囲である。

いや、全然?そんな平然とチュリネはフルフルと身体を振り、否を示した。とりあえずハーブティーにして飲んでみて欲しい。ヒトに振る舞ったことはないが人間にも、アヤにも美味しいと思って貰えたなら嬉しい。

半放心状態のアヤを尻目に、レッドはチュリネの意を汲んでやることにした。残ったポットのお湯を使ってチュリネのハーブティーを作る。薄く色づくお湯に、期待と不安が入り交じる目でチュリネからじっと見つめられれば飲まない訳にはいかない。レッドは横目でそれを眺めながら出来上がったお茶をカップに注ぐ。

カチャ、コト、と食器が擦れる音のみ静かに響くこと数秒。そしてその注がれたカップをアヤの前に置いた。

アヤは涙を啜りながら一口。



「美味しいですっ………」



チュリネ(頭部の葉っぱ)のハーブティー。

確かに、美味しい。

砂糖も入っていないはずなのにほんのり甘くて美味しいです。

チュリネの出汁がきいているというか。

ご馳走様です。でもね、でもね。こう…自分の中の何かがすり減って行く感じがしてアヤは自身の良心と罪悪感が削られていくのがわかった。こんないい子に何度もこんなことさせちゃいけない。

美味しいです、と涙を飲みながら呟かれたアヤの言葉に、チュリネはホッと一安心したらしい。今では「アヤちゃんのお口に合って良かった」、と喜んでいる。そしてそのアヤが飲んだカップを今度はレッドが吟味している。流石にどんな味(チュリネの出汁)なのか気になるらしい。そしてレッドが飲むと自分も、とピカチュウやオシャマリも味見し始めた。うん、確かに美味しい。チュリネブレンド(チュリネの出汁)のハーブティー。恐らく健康にも良いだろう。

アヤの良心が今にもはち切れそうだが、それに反して飲み続けるとチュリネは嬉しそうに笑うものだからアヤはもう深く考えないことにした。この子はそういう技を持っている子なんだ、みたいに思う事にして。



「あっ」

「?」



唐突に思い出した。

今日は自分の誕生日だと言うことは、19歳になったということ。レッドと同い年になったという事だ。彼は自分の誕生日を知っていたけれど、自分は知らない。本人もここにいるし、本当なら直接聞けばいいのだけれど出来ればこっそり調べてお祝いしてあげたかった節もある。だからこの前、そういえば自分はレッドのことを何も知らない―――と思ったところでアヤなりにレッドのことを調べたりもした。

しかし。

調べようとするにもそういう情報が一切出てこないのだ。

ポケフォンで調べても使用するポケモン、経歴、リーグ在籍年数、バトルタワーの連戦数、バトルタワーの最高闘技師、バトルマスター。

それしか出てこない。言わば、彼の個人的な情報は何も出てきやしなかった。非公開にされているのか、レッドが余計なことはメディアに載せるなと頼んだのかはわからない。

だからアヤはレッドのことを実は何も知らない。

色々聞いてみたいことはあったが、まずは両親のことは突っぱねられてしまったのであれ以上詮索はできなくて。だが生まれた日くらいは聞いても、彼の神経を逆撫ですることはないだろう。アヤは今日まで彼の誕生日すら知らなかったのだから。



「あの…」

「?なんだそんな畏まって」

「これって聞いてもいいのかわかんないんだけど」

「ああ」

「レッドって誕生日いつなの?」

「誕生日?1月1日だ」

「ええ!!??」



1月1日!?

め……めでたいじゃん!!お正月!!元旦!?

いや、待て……去年…確か19歳だったから……今年……え?



「レッド、今幾つ…」

「……そういえばもう20歳になってたな」

「はははは20歳!?なんで言ってくれないの!?」

「別に言うほどの事でもないだろう」

「言うほどのことです!そういうもんです!大切な人の生まれた日だよ!お祝いしたいじゃん…!?レッドが今回こうしてボクの誕生日お祝いしたいって気持ちと一緒!」

「………そういう、ものか」



ぶっちゃけ今回のアヤの誕生日を首を長くして待っていたレッドの本当の理由は、自分の私利私欲に塗れた呪いを込めた指輪を“アヤの産まれた日”に贈ること。

態々産まれた日に約束と呪いをかける事で、それはより強固なものとなりアヤの“中”にも刻み込まれる。離れたくない、逃がしたくない、死ぬまで添い遂げたい、更にその先も共に在りたい。アヤ本人が聞いたら恐らく白目剥いて卒倒しそうなものだが、まあ本人に伝えても良いが今はアヤに言うつもりはない。

今だけは自分だけが知っていればいい。



「そういうものです!ってことで今からレッドの誕生日も祝いつつご飯食べよう」

「はぁ……」

「はぁじゃなく」

「……」



自分の生まれた日を、誕生日をここまで拘るとは思ってもみなかった。

祝われたことはある。

けれど特別だと思ったことは一度もない。

あの家の奴らに祝われても、何も嬉しくもなかった。まるで人のことを人外だと言わんばかりに勝手に崇めて神格化して、欲しくもないものを勝手に貢がれて、勝手に祝っているだけなのに恩恵をくれなどと言われても困る。

自分が生まれた日はあまり好きではなかった。

どいつもこいつも、うるさ過ぎる。



「………レッドは、自分の生まれた日が好きじゃないの?」

「……あまり、いい思い出がない」

「………そっかぁ」



アヤはしょんぼりした様子で、少し落胆した。

本当にレッドが嫌なことはしない方がいいかな……とアヤが考えながら呟く。けれど、アヤにとって大切なことだ。大切な人が産まれた日だから。生まれて来なければ会うこともなかった。その日を大切にしたい。今は7月7日だけど。もう半年以上経ってるけど。

だからレッドは嫌でも、どうにかして気持ちだけは伝えたい。

それを考えながら。でもね、とアヤは続けた。



「レッドの家がどんな風にお祝いしてたのか知らないけど…」

「………」

「ボクはレッドが好きだよ。大切な人。そんな人が産まれた日を“おめでとう”って言って。好きなことして美味しい物沢山食べて、その日一日楽しかったなって。ずっと記憶に残るようにお祝いしたいなぁ」

「…………楽しい、こと」

「生まれてこなきゃレッドとも会えなかったし。一つ歳を重ねて、大人になったレッドを間近で見れて…嬉しい。だからボクにとってレッドの誕生日は大切」

「  、」



少しずつ語られるアヤの言葉にレッドは言葉をなくした。

だって今まで、そんなことを言ってくれる人間はいなかった。

そんな、自分にとって嬉しいと思える事をしてくれる人間なんていなかった。

実家の奴らにそんな事を言われたことは一度だってないし、純粋に自分の事を思って祝ってくれた人間なんていなかったからだ。アヤの言葉を理解し、ゆっくりと言葉が染みて、溶け込んでいく。じんわり心臓の辺りが暖かく熱を持ち、広がっていくのが感覚で分かった。

嬉しかった。



「……そう、か」

「うん」



と、アヤは笑って。

今まで自分の誕生日そのものに興味がなかった。けれどアヤが大切になってから、何となく生まれた日が気になった。だからアヤの誕生日自体も把握はしていたが、元々邪な気持ちがあってそういう経路でアヤの誕生日を覚えた。他人の生まれた日などどうでもいいが、アヤは別。

彼女が生まれた日なのだから、自分にとってその日付は特別な日だ。そして同じようにアヤもそう思ってくれている。



「(お前も、そう思ってくれるのか)」



少し俯いて、薄く目を閉じる。

嬉しい。じんわり心臓が暖かい。心地良い。

アヤと居ると、楽だ。

実家に居る時のように精神が毒されない。それよりも自分の中でプラスに作用している部分もある。今まで何も感じなかったものが急に楽しいと感じたり、食事の味を楽しむ事を覚えたり、入浴の心地良さがわかったり、新たな街並みを楽しむことが出来たり。人肌が暖かいと、抱き締められることがこんなにも暖かいと教えてくれて。

昔より遥かに感性が大幅に広がっている。

それだけじゃない。昔から感覚が鈍かった。雪の中、平気で半袖で動き回っても何も感じなかった頃がある。実家で折檻されていた時も殆どの痛みを、痛覚を全く感じなかった。

それに眠気が全くなかったこともあった。昔は熟睡する程眠れたことがなかった。

それが今はどうだろう。

アヤと一緒にいるようになってから、ほぼ正常に戻りつつある。否、正常だったことなんてないから、これが普通の感覚なんだろうと考えて一人納得して。



「本当ならレッドの誕生日に言いたかったけど……でも今言うね。誕生日おめでとう。もう、20歳になったんだねぇ。一緒にお祝いしようよ」

「(は―――〜……)」



もうだめ好き。

レッドは両目を覆って項垂れた。今日はアヤの産まれた日であるはずなのに、彼女の誕生日であるはずなのに何故こんなにも自分が嬉しいのか。

これも全てアヤのせいである。

自分を喜ばせるせいである。

はい、レッドも沢山食べるんだよ。そう言ったアヤはテーブルに乗った些か多すぎる大量の料理を皿に取り分けレッドに手渡してくる。だがしかし量が多すぎる。もう少し加減をして欲しい。「そういえば20歳になったんならお酒とか飲めるんだよね?飲まないの?買ってこようか?」なんて言いながらアヤは空いたグラスにお茶を注ぐ。
そして何やらピカチュウはニヤニヤしながらレッドとアヤを交互に見ている。アシマリとチュリネも何ともまあ微笑ましそうにトレーナー2人組を生温く見守っており、ボールの中に入っているサザンドラは「良かったね主人。あっ二人ともおめでとう」なんて言っている。

何だこの空間。マイナスイオンか。最高か。

そして思い出したようにアヤは言った。



「あっ」

「今度は何だ」

「何か欲しいものある?」

「欲しいもの?」



これまた、今まで聞かれたことの無い質問をされてしまった。



「なぜ?」

「何でって…誕生日くらい欲しいもの強請って良いんだよ」

「欲しいもの……」

「レッドの欲しがるものってハイレベルな気がするけど……ううん。ほら、さっきボクの誕生日に指輪くれたでしょ。それと同じような感じで!ボクも何かあげたいな」



いやちょっと待て。誕生日に婚約指輪はぶっちゃけハイレベルどころじゃない。オシャマリは思った。重すぎる。それが普通だと決して思わないで欲しい。

そしてアヤは言ってはいけない事を口にした。



「ボクがあげられるものなら何でもあげるけど…」

「…なんでも?」

「え、あ、うん」

「「「ヒェッ……」」」



ポケモン達はアヤの「なんでも」という言葉にレッドが即座に反応したことがわかった。

目付きが変わったのだ。

アヤ……それはレッド相手に言っちゃダメだって……。ピカチュウは目を逸らした。



「ボクが用意できるものなら…」

「処女」

「え?」

「お前の処女が欲しい」

「…………………」



アヤの頭にビッパの大群が飛来した。

頭の中は一瞬でカオス状態になった。暫く沈黙の時間が続き、部屋の中の人物達は静止状態に突入する。皆、ピクリとも動かない。

アヤが何でもいいというから、レッドは考える間もなく即答した。だって何でもいいと言ったから。元々欲しいものは少ないし、今喉から手が出るほど欲しているものはアヤに関わるもの全てだ。その中でも、今どうしても手に入れたいものがある。

それが処女だ。

暫く時間が経過しても何も言わないアヤに(理解が追いつかないだけ)彼は不機嫌そうに首を傾げた。



「なんだ、駄目なのか」

「あ……いや……しょ、しょじょ、ですか」



まるで物のように言うこの男。
レッドの不機嫌そうな顔と声を聞いてやっと現実の入口ら辺に戻ってきたアヤは間抜けな顔をしながら目をウロウロとさ迷わせる。処女。処女?処女って、アレだよね。腟内の、ようはそういう事をする時の……初めてエッチする時に破る薄い幕……え?処女って自分が思ってるもので合ってる?レッドとボクが思い描いてるものでちゃんと合ってる?しょじょって……実はもっと違う言い回しの…それこそ違うものってことはない?なんてアヤはもう既に頭の中がバグっていた。



「え…あ、あの、しょじょって、あの…初めて、え、えっちなことしたりする時の…」

「それ以外何があるんだ」

「そ、それが、欲しいん……ですか…」

「欲しい」



いつの間にやら自分の右手はレッドにがっちり掴まれていた。ちょっと待って怖い。しかも穴が開くくらいガン見されていて視線を逸らせないよう圧をかけられているから逃げようがない。

いや、でもちょっと待ってください。自分の処女が欲しい、って。

レッドなに言ってるの。

違う。違うよ。



「あ、の。それ、貰われるのを。ずっと、待ってるん、ですが……」

「……」

「前からちょっとそういう雰囲気というか、最近レッドが先に進み始めたから。いつだろういつだろう、って。待ってる、……んですが」

「………」



そうだ。

ほしい、じゃなくて。自分からしたら早く貰って欲しいのだけれど。

だっていつでもあげる準備はできてる。

結構際どいトコロまでしている自覚はある。もうそれ、アウトじゃない?ってところまでされているような自覚はある。だからそろそろ、最後までするんじゃないかと思って。夜な夜なそういう事をする日が来れば今日、もしかして、と心構えというか、期待というか。そんなものを持ちながらレッドと夜を過ごすのだけれど。

けれどあれだけ色々な事をしていても最後まではしたことがない。

いや、寧ろ腟内に何かをされたことがない。

指すら入ったことがない。

それが何でなのか分からなくて、アヤは疑問だらけだった。だってあんだけガツガツ貪っておきながらソコだけノータッチってどういうことよ。何か理由があるんだろうな、とは思ったけれど、今まで疑問を持ちつつ何も聞いてはいなかった。



「レッド以外に、あげる人もいないし」

「当たり前だろ阿呆」

「痛イッ」



ゴスっとチョップされた。意外と痛かった。



「と、とにかく、いつか貰ってくれるなら…嬉しい…です」



レッドにチョップを施された頭を抑えつつ、右手を掴まれたままアヤはしどろもどろに話す。

彼はその話を聞きながら、これまた大きく空気を肺に取り込みながらゆっくり吐き出した。



「(なんだ、待ってたのか)」



てっきり自分だけかと思ったのだ。

早く最後までしてしまいたいけれど、それができない理由。恐らく下半身を愛撫してしまえば…腟内を解してしまえば、止まらなくなる可能性がある。最後まで勢いに乗ってしてしまう可能性がある。だから迂闊に手を出せなかったが。



「(とっととアヤの兄貴からの依頼を片付けて、アヤの健康診断とやらをさっさと終わらせなければ)」



自分が持たない。

今は7月7日。約束の大晦日までまだまだ日数はある。その間、アヤと共に過ごす日は多い。最後までしてはいけない。拷問だ。自分にとってこれはもう拷問である。実家で受けたどんな折檻よりも死ぬほど辛い。

それならば、自分の鋼の理性を信じてもう少しだけ螺を緩めて、進めてみるのもいいのかも知れない。



「………処女を貰うのは、まだいい。」

「え」

「お前の兄貴からの仕事を終わらせて。そしたら、貰う」

「う……うん…」

「だが……そうだな」

「?」

「夜。試してみるか。他にも」

「え?」



ポカン、としたアヤの表情にクツリ、笑いながらレッドは舐めるようにその顔を射抜いた。







7月7日

ピカチュウは思った。朝っぱらからなんつー会話してんだと。






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