act.06 有名人




「レッド?あの、どこに…」

「この一個手前のカノコタウンに行ってくる」

「ええ!?じゃあボクも一緒に…!」

「お前は、あっちだ」



そう言って、レッドはポケモンセンターを指差した。



「ワタルからカノコタウンに居るアララギ博士に例のポケモン図鑑を貰うよう言われてる」

「え、あの」

「センターで宿取って、これで必要な物揃えとけ」

「あ、え、ちょ、」

「あとこれ、一緒に宜しく頼む。…大人しく待ってろよ」



レッドは自分のトレーナーカードと万札をボクの手に押し付ける。

行くぞ、と彼は言った。

ボクの返答や反論を聞かない。抱き上げていたピカチュウの名前を呼べば直ぐにピカチュウは腕から抜け出し、レッドに着いて行った。



「……まさかの放置プレイ」



自由過ぎるだろ、と言うのが本音。



* * * * * * * * * * * *



「…取り敢えず、これだけあれば大丈夫でしょ」



レッドに言われて早速ショップで買い物をするボク。

フレンドリィショップで買ったものは傷薬や何でも治しばかり 。と言っても今それを使う人と言えばレッドのピカチュウくらいだし。いや、ピカチュウでも使わないかも知れない。
だってピカチュウが戦ってダメージを負わせたところは見たことあるけどダメージを負ったところは見たことがない。…あれ、じゃあ何のためにこんなの買ったんだ?

そんな疑問を持つが、まあ有っても困る物じゃないし別にいいか。他にマップカードや携帯食料、フーズ…とモンスターボールを数個手にする。…ボールなんて買うの何年振りだろうか、なんて思いながらレッドから受け取った万札を店員さんに渡した。

って言うか万札を普通に財布から出すレッドって一体…。



「すいません、部屋空いてますか?」

「こんばんは、ポケモンセンターです!空いてますよ、一名様ですか?」

「あ、いえ、二人です。部屋は……一緒で良いです」

「畏まりました。ではトレーナーカードを…」



ジョーイさんにレッドのトレーナーカードと自分のトレーナーカードをポケットからひっぱりだす。

イッシュのポケモンセンター。

ジョウトやシンオウと比べ、センターの大きな違いは、建物がポケモンセンターとショップ一緒になっているところだろうか。いちいち建物を移動しなくても手間が省ける。便利だ。

しかしジョーイさんは相変わらず顔も変わらなく、どうなっているのか未だに謎である。何人同じ顔の人がこの世に居るのか是非教えてもらいたい。宿を借りる為にトレーナーカードをジョーイさんに渡した、…が。


トレーナーカードに目を通した途端、笑顔だった顔は急に崩れ、目を見開き彼女は固まった。



「(……!?な、何かした…!?)」



不安と恐れが過る。それからジョーイさんはボクの顔と、ボクのトレーナーカードを交互に見始め……笑った。

トレーナーカード。

あ、そうか。



「………ようこそ!イッシュ地方へ。トップコーディネーターのアヤさん」



恐れ多くも、ボクの事を知ってくれているらしかった。

周りには人も居て気を使ってくれているのか、小さな声でボクを呼ぶジョーイさんはニッコリと笑う。そんなジョーイさんに苦笑いしか出来ない。



「あ…ははは…どうも…」

「イッシュに来るのは初めて…?」

「あ、はい。訳あって観光気分で…」

「そうなんですか、楽しんで行ってくださいね。まさか“彼”も一緒な事には流石に驚きましたが…。そう、貴女達はそういう…幸せが一番ですよ。羨ましいわ」

「アハハハハ…」



来たこういう話し!

大体一緒にポケモンセンターや買い物に行くとジョウトでは50%、シンオウではほぼ100%の確率でそう言われる。

だがしかし、やっぱりイッシュにはあまりコーディネーター業はお盛んではないみたいだ。現にセンターに入っても何も言われないし目立たない。良かった、トレーナーカードを見せない限りバレなさそうだ。…けれどレッドはそういう訳にはいかないかも知れない。裏チャンピオンだからどこまで知ってる人が居るか分からないが、彼はリーグ関係者だから名の知れたコーディネーターより有名な筈だ。



「じゃあ、ジョーイさん。お部屋お借りします!」

「あ!待ってアヤさん!」

「はい?」

「サイン、良いですか?」



彼らは有名人

(レッド、大丈夫かな)



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