act.71 抵抗
「チャームボイス!」
まずは、チャームボイスを一発。
ペンドラーは音の衝撃波を破りそのまま突進してきた。
まだ、効かない。軽く仰け反ることもしない。
既にスペシャルアップで特攻を上げているのになんて個体だ。
「もう一発!チャームボイス!」
「!!"ッ」
「(仰け反った…!)」
ペンドラーが大きく仰け反った。
喉スプレーの効果である。音技を使った時に特攻の数値が上昇する。
これを、限界まで積みたい。
「足元にバブル光線!」
ペンドラーの足元に泡を巻き散らかす。
滑る地面に脚を取られ、転倒したペンドラーにもう一度チャームボイスで軽く吹っ飛ばす。そして頭からバブル光線を被せて泡まみれにする。のたうち、泡に藻掻くペンドラーは暴れて毒を周囲に巻き散らかしているが動けないのであればそれでいい。
今の内に、出来るところまでフィールドメイクしろ。
「バルーンをペンドラーの周囲にできるだけ作って!それと大きなバルーンも一つ地面に設置」
「マリっ…」
アシマリが、苦しそうだ。
毒が完全に抜けきってないのだろう。
なるべく早く、早くどうにかしないと。
毒が抜けきっていないのにも関わらず、アシマリは意地でバルーンを大量に敷き詰めていく。当たり前だ。自分達の生死が関わっているのだから。ここをアシマリがどうにか出来なければ3点セットで喰い殺される。
中心に大きなバルーンを作り上げ始めるアシマリに「集中して。バルーンの密度を上げて、凝縮」と指示を入れるとその通りアシマリは設置型のバルーンを作り始める。
そのバルーンは徐々に半透明から、赤色に色付き始めた。
「(……赤く、なった)」
どうやらバルーンの密度を上げて気泡を凝縮すると色が変わるらしい。けれど普通のバルーンより作る時間は格段にかかるし、どう見ても実践向きの汎用性のある技ではない。丁寧にバルーンを作っている間は隙ががら空きで、どうぞ攻撃してくださいと言っているようなもの。
ポケモンバトルやシングルバトルにはまず向かない、思うとコンテスト専用の組み合わせ技みたいなもの。それが今出来ているのはこのペンドラーが猪突猛進気味の単純な動きをしているからだ。食欲しか頭にないのだろうか。
仕上げに凍える風で周囲のバルーンを凍らせた。
ピキキ、と凍った大気中のバルーンは重力に従って地面に落下を始め、中央に作った赤い氷の球体が音の振動で僅かにビリビリと揺れ続けている。
「ッ"!!ォ"、ォ、ッ"!!ォ"ッ"!!」
不快な咆哮。耳鳴りがする。
ペンドラーが泡の拘束から抜け出した。周りの大量のバルーンの壁をものともせずに突進し、毒を撒き散らしながら物凄いスピードで転がってくる。
「アシマリ、ーーー♪、この音。思いっきり叫んで」
「ーーー、…♪ーーーーー…♪、ーー…ー♪」
「いや、もっと低く。低く」
「ーーーー♪、ーー…♪」
アシマリが発生練習するように小さく旋律を紡ぎ始める。
その音は高音ではなく、とても重低音。何度か口に出して音程の定着を確認してから、赤い球体に向かって指さした。
「ハイパーボイス!!」
『<♪♪!!♪♪!!!♪!!♪♪!!!>』
ギィイイイイィィッッッ、
「(……っえ!?)」
アシマリからのハイパーボイス。
ハイパーボイス、だったが。
普通の、特攻がただ上がったハイパーボイスじゃない。
それよりももっと強力な“音”そのものを詰め込んで上から殴り掛かるような。そんな暴力的な音波。なんだソレは。自分が知っているハイパーボイスではない。
ビリビリと耳の中が、痛い。
その“音”をアシマリは赤い球体に向かってぶつけると、中に閉じ込めた凝縮された気泡が外への逃げ場をなくし暴走し始める。ビリビリと震え、大気中を震わせるようになった赤い球体はスピーカーとなり音を拡大させる音源と化した。
ギィイイイイッッッン、と地面を抉るような。心臓を、体を押し上げるような深い重低音。
体を押し開くような圧力。
どくり、
「ーーーっ!!? ェ、 ァ 、」
ぐるぐるぐるぐる。
咄嗟に両手を、口に添えて蓋をした。
なに、なに、なに。
なにか、“這い上がってくる”―――!
アヤは急に胸からせり上がってくる熱を持ったナニカを“喉”を通して、勢いのまま吐き出した。
「“ あ 、ぁ ァッーーーー、♪♪♪ッ♪!!!”」
『<♪♪!!!♪!!!>』
ボボボボボッッッ
バアァッッッン!!
わけも分からず喉を通り、目に目えない何かを生み出して勢いよく口から吐き出たのは、自分が聞いた事も無い“音”だった。
それは絶叫となってアシマリのハイパーボイスと混じり、新たなエネルギーと変わって。
赤い球体へ一直線に叩き込まれた。
そしてそのエネルギー波は赤い球体の内側をゴリゴリ暴れて、勢い良く弾けることにより周囲の氷の球体を道連れにして。
弾けた。
「ギャッ」
抵抗
体を這い上がるような何か得体の知れない感覚。
体から胸を通し、喉を通る得体の知れない感覚。
しかしそれを懐かしいと感じたのは、どうして。