act.05 同じ条件下




「手元ち0とか…0とか…」

「(思った以上にヘコんでるな…)」



只今レッドのリザードンの背に乗り、空の旅真っ最中である。バッグの中には今まで通り旅に必要な物一式が入っているが、その中に唯一入っていないのはモンスターボールだった。トレーナーやコーディネーターなら必ず持っているポケモン。それが今、アヤには0の状態だ。新人トレーナー以前の問題である。

あの後結局、兄ユイの家にサンダース達を送ったのは昨日の夜。

皆が皆「元気でやれよ!」と言った感じで手や尻尾を振る仕草に、心にぽっかりと穴が空いた気分だった。グサ、と体の棘を躊躇なく押し付けて来たサンダースには若干殺意が沸いたが。

只何となく、「何かあった時は呼べ」とか何とか言っている気がした。

にしても、ボールが無ければかなり落ち着かない。禁断症状かこれ。え、知らぬ間に依存症?と余計な事が頭の中をループしているがそうでもしないとやっていけそうにない。



「ピィカ、ピカピカー」

「ピカチュウゥゥゥ君はお利口さんだねやっぱり主人には何が何でも付いて行くよね!」

「ピカ!」



サンダースめピカチュウを見習えと言ってやりたい。見ろこの純粋な瞳、サンダースさんあんたは真似出きるか!と言ってやりたい。

誰も居ないアヤの気持ちを察してか、ピカチュウがポンポンと小さな手で腰辺りを叩いて来た。慰めてくれるピカチュウは宛ら天使のように見える。否、天使だ。衝動に任せてピカチュウにすがり付き、いっぱいに抱き締めると僅かにビィカ、と呻き声を上げていたがまあ大丈夫だろう。

そして何だか無性に悲しくなって低く唸るアヤに、またもピカチュウは元気出せよと尻尾を振って背に乗せてくれているリザードンまでもが小さく鳴いた。レッドのところのポケモン達って皆素直で良い子ばかりだよね、と改めて思った瞬間である。

口から出るのは溜め息ばかり。これで何度目かはわからない。そんなアヤを見兼ねたのか、やれやれと小さく溜め息を着いたレッドは頭に手を置いた。



「そんなに寂しいなら、向こうで一匹捕まえたらどうだ?」

「………………」



そ の 手 が あ っ た!

確かに、と一気に笑顔になったアヤ。何故そんな考えが思い浮かばなかったのか疑問だが、レッドは小さく笑う。

…どうやらあれからずっと沈んでいた様子に彼なりに心配していたらしい。



「降りるぞ」



見えてきたもう一つの陸地。

新たに足を踏み入れるイッシュ地方に、リザードンはゆっくり急降下した。



* * * * * * * * * * *



「……………え?」

「じゃあなリザードン。……オーキド博士に宜しく頼む」

「ガォウッ!」

「………え、……え!!?」



イッシュ地方に足をつけた。それは数分前じゃなく今現在の話。そう。イッシュに足を踏み入れたのは良いが。リザードンは直ぐに翼を広げて浮上する。

……レッドのモンスターボール5個入った袋を持って。



「え、ちょ、え!?レッド何して…」

「?こいつらをマサラに送るつもりだが」

「は…は!?な、何でっ!?どうして!?」

「オーキド博士に預ける」

「…………!!?」



今イッシュに来たばかりなのに、しかもまた距離が倍あるカントー地方のマサラに飛ぶと言うのかリザードン。どんだけ化け物並みの体力持ってるんだリザードン、と言いたくなる…が。

預ける、とは?



「…お前は今0からスタートだろ?それじゃあつまらん」

「(つ…つまらんて、あんた)」

「ピカチュウは都合上外せないが、お前の手持ちの数に合わせる」

「え」

「言っただろ、」



彼はふと笑う。



君とならどんな事柄も受け入れよう

(瞬間、土下座した)(けど止められる)





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