act.62 金銭感覚について






「チュリネとモンメンか……そういえば古代の城が壊れる前に立ち寄った場所でデータ採取してたんだが、そういえばそれらしいポケモンが居たな」

「えっ本当!?」

「本当」



と言いながらアヤとレッドはまたも簡易的な変装をして、ワンダーブリッジ方面を目指しライモンシティを歩いていた。

只今の時刻、お昼過ぎ。

チュリネとモンメン。
まだゾロアがアヤの仲間になった時くらいだろうか。結構前だ。レッドのポケモン図鑑を手持ち無沙汰に見ていた時だった。「え、可愛いッ」と声に出してしまう程、その二匹は可愛かった。小さくフワフワなフォルム。小さくまんまるなフォルム。ウルトラプリティとは正にこの事である。チンチラ…ではなくチラーミィも可愛かったが、この二匹の方がアヤ的な可愛さと美的センスではダントツに勝った。

アヤはこの二匹、知ってしまったからにはどうしても一度は生で見て写真を撮りたかった。そして可能であれば触りたい。



「ゲットは?」

「ううん、見るだけ!写真撮りたいなー。人慣れしてれば良いんだけど…」

「話し付けてやろうか?人慣れしていれば、だが」

「本当?お願いしたいなー」

「OK」



任せろ、とレッドはそう言ってアヤを連れて街を歩く。

現在の二人の格好。昨日のままでも良かったが、今日はまた違う衣装を身にまとっている。午前中時間があった為に衣装を調達しようと二人で様々なブティックを練り歩いていたからだ。

なんたって半月近くはここに滞在する気だ。本当ならまた少し旅をしても良かったが、如何せんこのイッシュ地方の中心都市であり、しかも都市が大きすぎて周りには沢山の観光場所がある。アヤがどうせイッシュに来たなら見て回ろう、と提案してきたので図鑑データもほぼ集めきってやることが無くなった今、レッドも断る理由もなかった。


長期間ライモンシティでゆっくり滞在するなら、少しばかり生活用品が必要になる。


それにはここで過ごす為、ずっと同じ固定の姿より疎らに服装をチェンジした方が良いということも。レッドは念には念を入れて、ライモンシティを出歩く時は毎日違う見た目で居た方が良いだろう。との指摘を受けてじゃあチュリネとモンメンの前に洋服買いに行こう!ということになった。

アヤは自分の服装に対しては別にそんな拘りがない。あんまりにもダサ過ぎたら嫌だが、それなりに変じゃなくて動き易ければ何でもいいかなーくらいである。しかも今回はプライベート用の衣類ではなく変装用衣類だ。だから顔が分からなくなればそれでよかった。……のだが。


レッドは適当なブティックにアヤを連れて入った。

お店に入ってからアヤがこれなんか良いんじゃないか、と己の体に衣類を当てて姿見で確認して行く。あ、これ可愛い、でもこっちの方が着やすそう、色はでもあっちの方がいいなぁ…なんて選んでいる最中。レッドがアヤの手にした服を自然な仕草で奪い取り、そして今まで悩んでいた衣類全て、そしてレッドが目に付いた衣類全てをカウンターに持って行き精算しようとする暴挙に出ていた。そう、しかも何故か女物だけ。

それを発見した時のアヤは勿論目が点になっていたし、いやいやいや多い多い多い。何で女物ばかり。とその手を止めたくらいだ。え?何してるの?と問うも「?何が?」と疑問を疑問で返された。え、ちょっと待って。それ全部女物だよね?ボクが着るの?と聞けばレッドは首を傾げながら当たり前だろ、と。

いや待っておかしい。想定している衣類の数を超えている。そんなに絶対必要はない。

しかもレッドが見繕った服はまあハズレがない訳で。
やはり彼は案外服のセンスが良い。いや、自分の変装した姿があんな別人になってしまうくらいだからハイセンスなのは間違いがない。レッドが手にした服は全てお洒落で可愛いけれども。そんなに買ってしまっては荷物になってしまう。
アヤは何とかその内の数着をもぎ取り、残りは丁寧に棚にお返しした。(彼は納得いかなさそうな顔をしていたが)

レッドは適当に自分が着る服を何着か見立てていたが、手に取る服がまあ…文句付けようがないくらいお洒落で着回しも出来る服が多かった。それに白いジャケットや黒いベストをコーディネートに取り入れて普通にチョイスしちゃうのが凄い。しかもこれってストリートウェアの一種?凄いわこんなん着たら絶対にかっこいいわ。そしてこれはどうやって合わせるの凄い。
なんてアヤはレッドの買い物を後ろから戦慄しながら物珍しそうに眺めていた。

そしてそれらの衣類と他の小物もセットに惜しげも無くアヤが何か言う前にカードでさっさと精算するが、その時表示された金額に目玉が飛び出た。0の桁が予想以上に多かったからだ。アヤが考えていた常識範囲内の金額ではない。ふと、そこら辺の衣装棚に付いた値札を見ると桁が、明らかにおかしい。ただのYシャツなのに、桁が。0が4コもあるんですが…。ヒェッとして適当にレッドが入ったこの店の名前を見れば、そりゃあ有名なブランド店だった。自分も気にしなかったのが悪い。悪いが!



「ちょっ……ま、…まっ…レッ……」

「なんだ?もう少しで包み終わる。良い子だからそこで待ってろ」



何もないかのようにとっとと会計し終えて、レッドは店員が購入した商品をショップバッグに詰め込み終えるまで待っている。

最近思う。レッドの金銭感覚おかしくない?

え?もしかしてチャンピオンって皆こうなの?確かにダイゴさんは正真正銘のデボンコーポレーションの御曹司だから元から金銭感覚狂ってそうだし。ワタルさんやシロナさんも何だか金に糸目は付けなさそうな風格だし。チャンピオンになると皆金遣いが荒くなるというか、金銭感覚が狂ってくるのかな…。とアヤは思った。


そして全ての荷物をレッドは一人で持ち店の外へ。アヤが慌てて後を追い「ちょっと待って!!色々言いたいことはあるんだけどちょっと待って!!重いって!半分持つからお願いっ何か持たせて…!」とさすがに何もしない訳にはいかなくて、レッドは少し考えた後じゃあ、とアヤに渡してきたのは帽子や眼鏡などの小物が入ったショップバッグを手渡してきた。

部屋に戻って来て姿見の前にアヤを立たせる。頭上に?ばかりが浮かぶ彼女をそのままに、荷物を開封して買った衣類をアヤに一着ずつ当てては「いや…違う。これじゃなくて、全体的なシルエットがもっとスッキリした方がいいな…じゃあ合わせるならこれとこれか」なんてレッドはブツブツ言いながらアヤは着せ替え人形になった。



「(あれ?待って待って、レッドって彼氏としてのレベルも最強なの?)」



どうしよう。中々ぶっ飛んだ所は多々ありつつも、それを抜きにしてどこを見ても非の打ち所がない。

自分が唯一対抗できる良い所…長所って、どこ?
こんな完璧を絵に書いたような男の隣になんで立ってるんだろうボク…?とアヤはこの時本気でそう思ったのだった。








金銭感覚について


金銭感覚は間違いなく常人の考えるマトモなものではないとアヤは思った。





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