act.56 進んでいるのか、進んでいないのか






結局、昨日はお楽しみでしたね、と言われればそうかも知れないが最後まではしていないのでレッドとしては不完全燃焼で終わってしまった。

アヤが疲れて寝てしまうまでキス…とは言えない全く可愛くもなんともない口内をずっと嬲られるような凶悪なディープキスを小一時間かまされ、尻を撫で回され続け耳をグチャグチャに舐められては首や胸をキツく吸われ、両胸を揉み倒し敏感な突起を良いように引っ掻きねぶり回された訳だが。

これだけ長時間上半身を捏ね繰り回されるとアヤだって体が熱くなるわけで。熱を逃がす為に太ももを擦り、腰を捻らせる様は何とも艶かしい限りだった。「……エッロ…」と言わなくてもいい本音が出てしまうくらいレッドが見なきゃ良かったと後悔した程である。

ある程度の所でなんとか中断したレッドは部屋から消えた。
何をしていたかなどそんな野暮なことは聞かないで欲しい。

置き去りにされた可哀想なアヤ……は幸いにも居らず、初めてレッドからここまで故意に与えられ続けた性的な快感に耐えきれず気絶……いや、寝落ちしてしまった。



そしてそんなこんなで朝であるが。



「おい」

「オハヨウゴザイマス」

「アヤ」

「キノウハスミマセンデシタ」

「離れるな、視線を逸らすな、片言になるな」



こっちに来なさい、とレッドは自分の隣を叩いた。

アヤはとっくのとうに寝室から既に抜け出ており、未だ寝室で眠っているのはレッドだけであった。レッドが起きた気配がして、なるべく音を立てないようにドアを開けると寝起きのレッドと目が合った。
凄まじい色気だった。よく分からないイケナイ光がアヤの両の目玉を刺し貫いていく。ううっ、目に毒っ…と両手の平を顔の前で交差させて後退る。目が覚めて隣にいなかったのが癪に触ったのだろうか。少し不機嫌な表情で手招きをされた。

おずおずとレッドに近寄ると手を取られやんわりと引っ張られた。不機嫌な見た目の割には優しかった。ガッチリと体をホールドされてベッドへ引きずり込まれてしまう。更にシーツを手繰り寄せて二人して潜り込む。

完全に2度寝をする気だ。

ちょっと待って、起きて、とアヤが小言を言う間にもレッドはアヤの首や頭、耳、額に口付けを次々落としていく。あれ?この一夜で手癖というか口癖が酷くなったんじゃ…とアヤが思う程だった。



「レッド…もう起きなきゃ」

「まだ時間もそんな遅くないだろ。それともどこか行きたい所でも?」

「………ううん、今日は特にないよ」

「なら問題ないな」



レッドはそうして、アヤを抱えたまま二度寝を決め込んでしまった。

静かな寝息が聞こえてきた所でアヤは少し表情を曇らせる。




「………なんで」



なんで、最後までしてくれなかったのだろう。

アヤとてもう、何も分からない子供ではないのに。




アヤの小さな声は朝の少し冷たい空気に溶けて消えていった。







進んでいるのか、進んでいないのか


そんな、アヤの小さな不満。









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