act.55 全く手を出すなとは言われていない





今日は酷く頭が痛い。

レッドは眉間を揉みほぐしながらアヤが居る部屋へと足を進める。



「………研究所を潰す前に性行為は絶対にするな、か」



ユイは通信を切る前にレッドと一つ、約束をした。

それは研究所を潰すまで、アヤの“健康診断”が終わるまで身体を重ねる行為…つまり性行為は絶対に行うなという。それは何故なのか。アヤの健康診断と研究所を潰すまでという名目に、一体なんの繋がりがあるというのだ。

今後も一緒に生きてくれと結婚の約束をした今、もう今夜にでももう一段階上に進み新しい触れ合いをしようと思い至っていたのに。

本当ならこの旅が終わってから籍を入れて、そういうコトに及ぼうと思ったがもう殆どレッドは我慢というセーブが効かないでいた。だって好きすぎて死にそうだったからだ。少し唾を付けるくらいいいだろうと、そんな邪な気持ちを抱いていたがユイ曰くそれは駄目らしい。



『俺達の母親は普通じゃない。元々体が弱かったのもあるが、急激に病に侵され始めたのが、俺を産んでからだ』



それは自分の体に違う生を宿したからか、それとも性行為そのものが駄目なのか、それともただ単純に生き過ぎただけなのか分からないからだった。

ユイを産んで、既に内側がボロボロだったのにも関わらずアヤを産んで更に壊れて行った。



『だから絶対に、余計な刺激を体に与えるなよ』



“健康診断”の結果を見て考えた、二人へのユイなりの配慮。

母と同じ兆候が見え始めたら警戒もする。

念の為、アヤの体内に精を注ぐような事をするな、とユイはそうレッドに言った。



「(母親が普通じゃない、とは。研究所で作られた、と。…もしかしたら海魅家壊滅と何か関連性があるのか?)」



レッドは恐ろしく頭がキレる。もうこの時点で大体の的を得た考えをしている時点でユイから拍手喝采ものだろう。

それにしても、今日はもう遅い。
約半年後、大晦日にユイ宅に出張する話は明日アヤにするとして、そこからしばらくアヤと会えなくなるのは正直かなりダメージが大きい。
そういえば出張期間はどれくらいだろうか。シンオウ地方への滞在期間は?レッドとしてはそんな長く向こうに居るつもりもないし、早くアヤの所に戻りたい所存である。

しかしあの兄が研究所潰しを手伝って欲しいとレッドに頼むということは、危険度が高く調査共に難航しているという事。
特に研究所絡みの差押えなんかは凶暴なポケモンが多く飼い慣らされている為、対抗できるリーグの方に依頼が数多く来ている。
けれど手が回らないのも事実で。そんな中、ポケモンの強さにも実績があるユイ達の暴走族に依頼として案件を流しているのも、レッドは知っていた。そんなユイが難航している今回の研究所潰し。簡単に潰すのは難しそうだ。

因みにレッドが今まで違法な研究所を襲撃して潰すまでの最高タイムは15分である。理由は階層や階段などがなく、ただ横に広い建物だったからだ。建物の壁を破壊しながら直線で進むだけで制圧は可能だった。

ユイが難航しているのを考慮し、研究所の規模や種類にもよるだろうが、潰すのに早くて3日…長くて1週間くらいと言ったところだろうか。

いや、何にしても早く帰りたいし、それに潰してしまえさえすれば。



「(思う存分抱ける)」



その為なら最初から全力で取り掛かるつもりである。

アヤの健康診断がどんな風に関わってくるかはわからないが。とりあえず研究所を最短で潰す。レッドは俄然ヤル気が出てきた。

そして出張までに新しく買ったポケフォンにアヤの大量の写真を撮って収めようと考えるレッドは抜け目なかった。この男、最早欲望の為動いているようなもんである。

宿泊する部屋の前へと着き、カードキーを使って中へ入るとアヤはまだ起きていた。



「あっ、レッド。お帰りなさい」

「…ただいま」



レッドが戻ってきた事を知ったアヤはパッと笑顔で出迎える。それを受けたレッドは口元を緩め、眩しそうに目を細めた。

お帰りなさい。

その言葉はレッドにとって新鮮なものだ。

実家では皆がこぞってまるでそれが義務のような挨拶に嫌悪感すら覚えていて。

ポケモン達はもう眠っている。ソファに一緒に丸まって眠るピカチュウやアシマリはもう夢の中だ。腰に付いたボールへと手を伸ばし、確認するとジヘッドも既にボールの中で眠っていた。レッドは静かにジヘッドのボールをソファへと一緒に置くと今日変装していた衣装全てを椅子に引っかけた。

そんなレッドを見たアヤがしみじみと、ほっと一息着きながら呟く。



「……やっぱりレッドはいつもの方がいいやぁ…」

「変装した俺は嫌か?」

「嫌じゃないよ。でもいつもと全然違うから、目のやり場に困って直視出来ないっていうか……」

「アヤ」



レッドがちょいちょいと指先で手繰り寄せるジェスチャーをすると、アヤは釣られた魚のようにレッドへと寄っていく。疑問も何も無く近寄る無防備すぎる姿はレッドに対して警戒心の欠片も持ち合わせていない。
それはレッドだから安全で、安心だという絶対的な信頼をアヤは寄せているからだ。

それに気を良くしたレッドは寄ってきたアヤを簡単に捕まえて懐へ取り込んだ。ぎゅっと抱き締めれば優しい体温と風呂上がりの匂いにアヤの頭に鼻を埋め、その匂いを堪能する。はー、落ち着く。そう思いながら腰に手を回せばアヤも首に腕を回して抱きついて来るものだから、そのまま寝室へと移動しながら二人で一緒にベッドに座り込んだ。

アヤは首を傾げながらレッドの頭を撫でる。



「え?レッド、もしかして頭痛い?」

「………よく分かったな」

「やっぱり」



先程よりかは随分とマシにはなったが、鈍い痛みが未だに続いている。

アヤが労わるように「んー…何が原因なのかな、気圧かな。それか本当にストレスなのかな…」なんて言っているがストレスが原因では絶対にない。

レッドは今現在、アヤと居る限り殆ど満たされている状態だからだ。こうして一緒に話して、抱きしめているだけで濃いマイナスイオンの中にいるようだった。ここ最近気付いたのだが不思議なもので、アヤと話していたりくっついていたり、撫でられたりすると痛みが和らぎ無くなるのも事実だった。

頭痛はきっとストレスではないと思うが精神的なもので間違いないだろう。なぜなら好きな女と一緒にいて触れているだけで痛みが消し飛ぶからだ。なんて現金な身体になったのだろう。

頬擦りをして唇が触れれば戸惑いなくレッドはアヤの口に吸い付いた。軽く啄み、舐める。勿論それだけでは足りなくて口内を割って自分の舌で彼女の舌を探り当て戸惑いなく絡めた。ぐち、と粘着質な音が立つ。
アヤはどうやらこの音が少々苦手らしい。少し前にグイッとアヤの口内から自分の舌を抜かれて「そのおとっ…なんか…だ、ダメ…えっちぃ…!」なんて顔を真っ赤にして必死に訴えて来た時は思わず笑ってしまった。アヤはあの頃とだいぶ成長したらしい。

今ではこんな長く深くキスしていても、無理に舌を引き抜いて逃げなくなった。毎日のようにしてきた経験の大きな進歩だろう。
舌の根っこを嬲り倒し舌先でぐちぐちと絡めるだけ絡めて吸えるだけ吸い、口内を好き放題に蹂躙していると「ん、にぅ、んむっ!?ふ、ぅ、っ〜〜〜!?」とアヤから変な悲鳴が口端から漏れた。ガクンっ、と膝が折れて脱力仕切った所をレッドに抱え直された。



「っ〜〜?っ?」

「………お前、まさか」

「ふっ……うぅっ…!」

「……キスだけでイッんじゃないだろうな」

「いってないもん!!断じて!!いってないもん"っ!!」

「デカい声で言うもんじゃないぞアヤ……」



今何時だと思ってるんだ、とムギュっと鼻を摘むと「ごめんな"さぃ"…」と濁音を付けて謝られた。

それに涙目で顔真っ赤にさせて怒って吠えても全く説得力がないことは本人分かっているのかいないのか。だがそうか。キスだけでこんな有様だと先が楽しみである。

まだ顔が赤く少し息切れしているらしく、髪も少し乱れているがそれが良いのだ。アヤの頬と後頭部に手を添え、首が痛くならない程度に引き寄せた。口に付いた残った唾液を舐めて、グロスを付けたかのように艶めかしく唇が潤い光っている。それはそれはとても美味そうに見えて。


ーー舌なめずりをしてしまう程には。


「……ひェっ……」という情けない小さな悲鳴は加虐心を煽る言葉にしかならない。

再度唇を合わせ、そりゃあ深く吸った。深く。
唇の隙間も出せない程、声も出せない程深く吸いに吸いまくった。
至る所を舐め回し唾液を奪い取り舌を嬲りやりたい放題。「〜〜〜〜〜〜っっ!!??」とそりゃまた声にならない悲鳴を上げながら脱力を繰り返すものだから、3回目の脱力辺りでベッドに倒して蹂躙の限りを尽くした。

何より気付いたことが、膝立ちで迎え合わせになるよりも上から覆い被さった方が深く絡めやすいということ。これ好機と言わんばかりに好き放題舐めて吸ってるとアヤの体が痙攣を始めるものだから流石のレッドも可哀想だと思ったのか、途中で貪るのを中断した。それは非常に残念そうに。



「ふっ……あ、…ふっ……」

「アヤ、アヤ。しっかりしろ」



口周りを唾液でベタベタにしてベッドに沈んでいるアヤはもう顔面が砕けてヘロヘロになっている。頬と唇が薄く色付いて丁度よく火照っている。
キスに夢中になっている間、ビクビクと大きな区間で痙攣をしていたから、まあそういうことなのだろう。だがしかし、まだ未経験なはずなのにこれはいかがなものか。



「感度が良すぎるのも身体に良くないと聞くが……」



ふむ、とレッドは一人呟き未だ沈んでいるアヤの頭を撫でる。これ以上すると流石にレッドでもそのまま自制が効かず最後までコトに及んでしまう。
朝はやる気満々だったが、ユイとの約束もある。非常に残念だがこの辺で終わりにしておこう…と思った所でなんと事件が起きたのだ。そう、これは事件だ。

ぎゅっ、とアヤがレッドの指を握って来たのだ。



「?どうした」

「つ、つづき…しないの…?」



レッドは天を仰いだ。

これはお誘いだ。あのアヤから。

普段自分から来ることがそんなにないアヤからの。正しくレッドへのご褒美である。きっと今この瞬間がレッドの人生で一番最高の時であった。断言できる。
はーーーっ、とレッドは片手で顔を覆い項垂れる。したい。出来ることならそりゃあ最後までしたいに決まっている。グチャグチャに及んでしまいたい。

けれどもユイとの約束もある。アヤとセックスするには不安要素を全て取り除いて行いたいが、それでもこの光景を見ろ。据え膳食わぬは男の何たるとか言うだろ。



「(…………、いや)」



…いや待て。最後までしなければいいのだ。

何も全く手を出すなとは言われていない。

言うなれば、挿れなければいいのだ。



「ふぉ!?」



小ぶりの胸をスルスル撫で上げた。

緩く撫でて下から押して、胸の形を確かめるように円を描いて撫でる。
服で隠れて見えないが、胸の突起を親指で弾くと「あぇっ!?」と素っ頓狂な声を上げた。構わず撫で回し、揉みあげる。「え、ちょ、まっ…」と急に狼狽え出したアヤの口に舌を差し込んで黙らせた。

何を今更狼狽える必要があるのだろう。

続きを強請ってきたのはお前だろう、とレッドは思いながら胸を弄り倒し口内を嬲った。また声にならない悲鳴が漏れていたが気にしない。口内から舌を抜き首筋に唇を這わせるとぢゅっ、と音を立ててキツく肌を吸って歯を立てた。



「いっ…たぁ…!なに、してるの…!」



…結構鬱血が酷くなるかも知れないがまあ良しとしよう。肌が白いから良く映える。

出来上がった鬱血痕に満足そうにしたレッドはまたやわやわと胸に手を這わせ、アヤの唇を再び啄み始めた。



「んっ…んんっ…ふ…れ、レッドって、…っ…キス好き、だね…そんなに好きだったっけ…?だって、今までこんなっ」

「?別に普通だが」

「え!?こんなチュッチュしてんのに!?」

「キスが好きとかじゃなくお前が好きなだけだが」

「ファーーッ!甘い!甘すぎて口から砂糖出ちゃうっ」

「…………余裕そうだなアヤ」

「えっ…いや、そんなこと、っあ、ぁ、にゃ、んっんんーーッッ〜〜〜〜〜!!」






レッドは気が済むまで胸を好きに揉み倒し口内を舐り続けたという。






全く手を出すなとは言われていない

レッドは今一度ユイとの約束事を念を入れて思い返す。

自分の間違った行動で台無しになったら元も子もない。

思い返して、そして思った。

要は体内に、精を注ぎさえしなければ良いのだと。

彼はうっそりと笑った。




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