act.04 預け所は××
『………あ゛?』
「ヒッ…!!」
『何で、俺が、てめぇのポケモンの、おもりなんてしなきゃなんねェんだあ"あん!!?』
ドゴオオオオ!!!!
『ブゴベェェエッ!!!』
『『『ヤスゥウウウ!!!』』』
「わあああああああヤスさんんんんんッッ!!?」
ドゴオオオオ!!!…と、パソコンの向こう側から物凄い音を響かせるその暴音に、ボクは頭を、いやパソコンの電源スイッチを切りたくなった。
最初に思ったのは人選ミス。
やっぱり頼まなきゃ良かったとそう思った。小さな画面の中、そこに映し出されているのは過去何度か訪問した事がある、豪華な上にどこかレトロな特徴がある広い部屋。その背景をバックに画面いっぱいに堂々と、しかもかなり偉そうにソファーに腰かける、己の兄貴。
え、魔王なの?
『ヤ…ヤスゥウウウ!』
『引っ張り出せ!あいつの顔面、総長の裏拳モロに入っちまった!!』
『カイさん何とかしてくれぇえええ!』
『え?ああ、無理』
『ええええ!!?』
『ムリムリ、ユイのパンチなんてそう何度も喰らえる訳ないだろ?大丈夫だよヤスなら。その内生き返るって。あいつ、強いコだからさ俺知ってるヨ』
『あんた一体ヤスの何を知ってるって言うんだ!!』
「うあああああユイ兄!!埋まってる!!ヤスさん壁に埋まってるううう!!」
『うるせぇカス共ッ!!静かにしねぇかあああッ!!』
「(横 暴 だ!!)」
イッシュに行く間、残るポケモン達をそのまま家に残す訳にはいかなく、誰かに預かって貰うし事にした。しかしそんな図々しい事を頼める相手…それをシロナさんやワタルさん、ダイゴさんに頼める筈はなく、仕方無しに己の身内である兄を頼る事にした。
…が。やはり兄だ。「自分の事は自分で切り盛りしろ!」といつしか言われた言葉は今も健在である。
こんなモニター回線を使ってまで連絡して来たボクに、訝し気に兄は眉を寄せ、面倒臭そうに何かあったのかと問い掛けて来た。………して用件を言えば怒りの矛先が何故か斜め後ろに居たヤスさんに向かい、兄の裏拳がその顔面に直撃した。
その衝撃で背後の壁に頭から激突したヤスさんは頭が壁に埋まってる状態である。どうしよう、間違いなく原因はボクだ!
「ユイ兄!ちょ、ちょっとの間だけだからっ…!」
『ふざけんなよ馬鹿が。どうして俺がんな面倒なこと―――、』
『良いよ、預かってあげる』
『は…!!?』
「ユッ…ユウヤさんんんんん!!」
いつの間に居たのか。画面の端に白い白衣を纏った美人さんが壁に寄り掛かっていた。画面の中のボクと目が合うなりニコ、と笑うこの人。ユウヤさんだ…!これぞ天の助け!ユイ兄より遥かに話が通じる頼もしい人!ボクの癒し!!
「ユッ、ユウヤさん…!」
『やあアヤちゃん、久しぶり』
「お久し振りですユウヤさん!って言うか…え、預かってくれるんですか!?」
『うん、良いよーこっち送りな』
「ユウヤさんんんんん」
ニコリ、と愛想良く笑うユウヤさん。素敵過ぎる。
しかしそんな勝手にやり取りをしているユウヤさんとボクに、この暴君が黙っているはずもなく。
『おいテメェユウヤ…何勝手な事やってやがる』
『良いじゃないの預かるくらい。何も引き取ってくれなんて言ってる訳じゃないんだから』
『面倒な事には変わりはねぇだろが!一体誰が面倒見ると…!!』
『あーやだやだ、これだから単細胞低血圧は。もうちょい広い心を持ちなよそんなんじゃいつかアヤちゃんに愛想尽かされるよ』
『うるせぇよ黙ってろッ!!』
『あ、ほら口で勝てないなら暴言とか良くないと思うよ』
『女将やめてくれぇぇえ!ユイさん怒らせるとそのとばっちりは俺らに降りかかるんだ!』
『だから何さ。悪いところは悪いって言って何が悪い』
「……………」
「……おい、喧嘩始めたぞ」
「……うん」
パソコンの前に座るボクの後ろで今までの一部始終を聞いていたレッドが顔を覗かせる。
今や画面を前に向き合わないで、向きを変えて喧嘩を始める一同にボクは頭が痛くなった。…にしてもレッドはあまり兄の前に顔を出さないで欲しい。また張り詰めた空気になる事は間違いない。
『…あ、レッド君ご無沙汰!元気してるー?』
『あ゛あ!?おい小僧一度こっち来やがれ!!まだ話着いてねぇだ、うぐッ!!?』
『もう煩いよユイ!ちょっと黙っててくれない!?そこ退いて僕が話する!!』
『ふざけんな女顔!!テメェは保健室にでも行ってお寝んねしてな!!』
『黙れよ隠れシスコンがッ!!解剖されたくなければ早く退けって言ってんのバァァアカッッ!!』
『バァァアカ!お前がバァァアカッッ!!ぶっ殺すぞこの野郎ォオオオオッ!!』
「………」
「………」
『アヤちゃん、取り敢えずこっち転送しな』
「カ、カイさん…」
『あの二人、ああなったら暫く収まらないからさ。大丈夫、ユイもああ言ってるけど無責任な事はしないよ多分』
「………お願い、します」
預け所は身内
(ちょっと不安に思った)