act.49 頼み
『……で?愚妹じゃなくお前が俺に用があるなんざ、珍しいこともあるもんだな』
「夜分にすまない」
『いやいい。…さて、聞こうか』
23時を少し過ぎた頃、レッドは休憩用の個室を借りてポケモンセンターから拝借したパソコンを起動した。そしてセンターのエントランスに設置された自販機で事前に購入した缶コーヒーを片手にプルタブを開ける。
一口飲めば苦味が口内に広がり、頭が冴えた。
さて、とレッドは首を曲げてポキ、と音を鳴らしながら軽く構える。交渉は、上手く行くといいんだが。
目当ての人物へのチャットを繋げ、数分待っていれば【YUIが入室しました】とロゴが表示される。黒い画面はレッドが一度訪問したことのある、あの日の室内を映し出しそこにはつい最近見たアヤの兄…ユイが気怠そうに映っていた。
開口一番に、ユイは『愚妹じゃなくお前が俺に用があるなんざ珍しい』と静かな口調で言う。そしてしばらくユイはじっとレッドを見て、話を聞く体勢になった。
『天下のバトルマスターが、一体全体俺に何の用だよ』
画面の向こう側で足を組み、ソファへとふんぞり返る。
こんな所でも態度が一々でかいヤツだな、とレッドは思った。
「頼みがある」
レッドは画面の向こう側の、アヤの瞳と同じ色を持つ男を見てそう言った。
頼み
(お互い表情が読めないから、腹の探り合いをしているようなものだ)