act.42 母
《Do you kill your friends, if you can fulfill your wish?
Can you die for someone?
They are synonymous words》
見つけたのは偶然だ。
無事にフレンドリーショップでの買い物を終えたアヤの視界にふと入ったのは本屋とCDショップが一緒になった店舗だった。
そこにはポケモン全般の雑誌や図鑑、トレーナー向けの雑誌が多く積まれており勢揃いしている。そこに見知ったレッドの顔やワタルやシロナやダイゴ。はたまたコーディネーター仲間のルビーやヒカリの姿も載っており、それは自分の姿も然り。自分の顔が本屋さんの店頭で並んで、雑誌になっているのは何だか複雑というか何というか。
みんなが言う。
『アヤさんは有名人なんだから』
『もっと自覚しろ』
などなど。確かに一般人より少しは顔は知れているかもしれないが、イマイチ自分ではそんなに自覚がない。チャンピオンやリーグトレーナー、ジムリーダーならわかる。彼らは国民的に人気があり周知度は非常に高い。
だから自分なんて彼らと比べたら月とスッポン…比べる対象がおかしいのである。とアヤは思っているのだが、それはアヤの周りが有名人だらけな事も相俟って自己価値がバグっていることに未だに気付いていない。
その店舗にフラリと入ったアヤはより目立つその空間へと足を踏み入れた。人物を写した大きなポートレートや写真集、そしてその人物達の音声データが収録されたCDが大量に収められている棚。
アヤの目の前には今やライモンシティでは知らない者はいない、いや、世界的に知られている人物が大きなポートレートに映し出されている。
《Do you kill your friends, if you can fulfill your wish?
Can you die for someone?
They are synonymous words》
「カミツレさんだ…」
流石に世間に疎そうなアヤもこの人は知っている。ライモンの歌手にして人気モデル。
ライモンシティと言ったらこの人!ライモンジムのカミツレだ。
先程から流れているこの歌は、カミツレの歌だ。その歌声は力強く滑らかな英語は耳馴染みがかなり良い。重低音に響くベースやリズムを刺すドラムは聞くだけで気分が上がるだろう。
彼女は歌手をしながら副業でジムリーダーとモデルをこなす。そしてCM出演や健康食、サプリメントなんかもプロデュースしちゃういわばスーパーマンみたいな人だった。そしてそのカミツレポートレートの横にも、負けず劣らずな人物が光り輝くように鎮座している。
「その横にはルザミーネさんかぁ……」
カミツレの大きなポートレートの隣には並べるようにルザミーネのポートレートが並べてある。光り輝いている。美しい。目が痛い。
ルザミーネ。彼女も知る人ぞ知る世界的人気を誇るスーパーモデルである。
美しい体幹と脚線美、両のしなやかな腕はもう芸術の一種。プライドが高く美意識が山のように高い。そしてこの美貌で2人の子供がいるらしい。しかも40代。最早美のカリスマ、美魔女だ。しかもモデルは副業であって本業はエーテル財団という傷ついたポケモンを保護、生態調査をしている大きな組織の代表取締役である。
この2人も有名宛ら、チャンピオン達とまた違うベクトルを向いた知名度を誇る。
「あ…」
《rakki-maria あなたにとっての幸運の女神になれたのなら
いつでもあなたを見守っていけるわ》
そしてそのまたカミツレとルザミーネ2人の光り輝くポートレートの奥にはアヤが一番見知った“姿”が映し出されていた。
《rakki-maria あなたにとっての幸運の女神になれたのなら
いつでもあなたを見守っていけるわ》
静かで、独特な声質。透明感と重みがある歌声。
色素の薄い光悦茶色の髪。
瑠璃紺のような、蒼色のような、紺碧をした瞳の色。
彼女は、歌手だった。
世界の歌姫だった。
その圧倒的な声量と声質とであっという間に世界の中心となる歌になった。
《rakki-maria あなたにとっての幸運の女神になれたのなら
いつでもあなたを見守っていけるわ》
その流れている歌はもっと、だいぶ昔に。
まだ小さな時に聞いたような気がする。記憶が朧気だ。
《rakki-maria あなたにとっての幸運の女神になれたのなら
いつでもあなたを見守っていけるわ》
「お母さん、」
ポツ、とアヤは小さく小さく、呟いたのだった。
母
彼女は世界の歌姫
《Do you kill your friends, if you can fulfill your wish?
Can you die for someone?
They are synonymous words》
《rakki-maria あなたにとっての幸運の女神になれたのなら
いつでもあなたを見守っていけるわ》
lucky Maria / Joelleさん
dead end / 飛蘭さん
歌詞参考