act.02 一年経った今
そして。
「ただいまー!」
「おかえり」
扉を乱暴に開けて飛んできたアヤを、赤い人は慣れてるかのように抱きとめるのが日課と化していた。
* * * * * * * * * *
「と言う訳で暫く遊んで暮らせるよ!」
「…プロ行きは本格的に決まったのか」
「うんうん」
ジョウトのウバメの森最奥。そこにひっそりと建てられた家の中は人工的な光で照らされていた。そう、今そこに、二人の拠点があった。(貼り付いたキャタピーは退治された)
血のように赤い瞳を持つ青年はピカチュウを肩に乗せ、蒼い瞳の少女(もう少女と呼べる歳じゃないかも知れない)を見やる。宛ら少女の言っている事は世間一般で言うところのニートなのだが、やはりこの男はそんな事気にはしていなかった。
彼は、レッドは今現在19歳になる。アヤもついさっき18歳に昇格したばかりだ。そう、あれから一年が経ち二人の容姿は多少なりとも成人へと近付き、大人の顔付きへと変化した。(が、やはりその元々ある貼り付いた表情は変わらない)
そしてレッドは恐いくらいに美形へと成長していた。アヤは悩む。こんなのが自分の隣に居て良いのか、と。とにかく彼はもうそれ以上成長しなくていい容姿に、アヤは悩んでいた。自分は顔も胸も何も変わらないのに!と言うのが本音だが。
そんなアヤが猛烈に地団駄を踏むのところをレッドは何回か目撃しているのだが。
それが、一年経った今現在の状況である。
アヤのプロ行き。
それは一番にレッドが知っていた事。業界のエスカレーターを説明したアヤに、彼は「アヤがやりたいならやれば良い」と開放的な答えを前からくれてやっていたりも。そして18歳が規定条件なプロ行きに晴れて決まり、レッドも心無しか穏やかに笑った。
「漸く肩の荷が取れたって感じだよ…。今までと違って、お金は演技して勝たないと貰えないけど、もう固定される事はないし!自由だよ自由!」
「それなら心配いらない。お前、俺の通帳見ただろ?」
「あ…うん、0が沢山あったね。いや、あのごめんコーディネーター職とトレーナー職じゃあ大分貰える金額違うからね。しかもバトルマスターとバトルタワーの最高闘技士じゃやっぱり稼ぐ金額も違って来るからね」
「バトルしたら欲しくも無いのに金が腐る程入って来るんだ。…ぶっちゃけ金は要らん。バトルだけ出来ればそれで良いし、有りすぎても紙屑と同じだろう。だから好きに使え」
「それを言えるレッドが凄いと思う」
「……いいか、 アヤ。金は使ってなんぼだ 」
「いやね深刻そうな顔して言っても」
やはりどう転んでもレッドはレッドらしい。考え方は変わらない。
彼はセキエイリーグの裏チャンピオンとして席もあるし、それにまた新しくバトルタワーの最高闘技士として活躍中だ。
日頃バトルを続けて勝ち続けている彼には金なんぞ毎日毎日腐るくらいに入ってくる。金銭感覚が無くなってもおかしくないが、彼には最初から金銭感覚は無いと見た。
「まあ、プロ昇格おめでとう」
ポンポン、と頭を撫でるレッド。
しかし頭に乗せる手はそのままに、彼はじっとアヤを見る。
「……レッド?」
「そこで、だ」
「?」
「リーグの方から他地方に、新しい図鑑の埋め合わせに行ってくれと頼まれた」
「………は!?そそそそれって出張みたいな!?」
「まあ、そうだな」
「ど…何処に、何日…!?」
「無期限イッシュ地方」
「え…えぇぇ、ええええええっ!!!??」
「落ち着けアヤ」
まさかのイッシュ地方に無期限の出張冒険。
黙々と言い放つレッドにアヤは目を見開く。良い話を持ち帰ったらまさかこんな、悪い話だとは。また離れ離れになってしまうのかと思っていた。………のだが。
俯き難しい顔をするアヤを見て、レッドは小さく笑う。
「一緒に行くか?」
「………え、」
「…お前とは、一緒に旅したこと無かったな。確かルビーだったか?聞けばあいつとはあるらしいじゃないか。……しかも俺より先に」
「うぇええッ!?え、や、たたた確かにそうだけどっ…!……ボク、一緒に良いの?」
「…知らない場所を、一度はお前と歩んでみたい。…………行くのか行かないのか?」
行くに決まってるじゃない!
(レッドと長旅)