act.35 本心





「っーー違う!!!そんな事してないッッ!!」

「何が違うんだ。俺がいなければ、ピカチュウがいなければ…何かが欠けた状態なら、タイミングが悪ければアヤは古代の城のどこかで死んでいた」

「そんなことっ…」

「ないって言い切れるのか?」

「 そ、れは」

「現に落石で死んだ人間とポケモンが何人いると思ってるんだ」

「ーーー、」

「あの怪物、ピカチュウがいなければ人を死ぬまで襲い続けただろう。人目掛けて攻撃していたらしいしな。凶暴化していたポケモン達も人間やポケモンの血肉を喰らったそうじゃないか。地上に出てきたのと地下にいた奴ら、それぞれ俺とピカチュウとジヘッドが居たから捕食された犠牲が出なかっただけだ」

「っ…ぁ」

「一歩間違えれば…アヤはあの場で死んでた」



ゾロアがレッドから辛烈な言葉を突き付けられ、反射的にイリュージョンで姿を変え、小学生くらいの少年の姿を弾き出した。どことなくレッドの姿と似ているのは、初めてイリュージョンして姿を真似た人間はレッドが始めてだったからだろうか。

殺そうだなんて、そんな思ってもいなかった事を決めつけるように言われ、カッと頭に血が昇ったのだ。勢い良く姿を変えたゾロアはレッドを睨みつけるように違うと反論するが、レッドは少しの反論も許さなかった。



「危険だと知りながらアヤを城まで誘導しただろう」

「き、危険、だって事はわかって、た……騙してたことも、悪い…って、思ってた…でも、ほんとうに、こっ殺、す…気なんて、全然…思ってなくて」

「だが結果は何人か死んでいる。そこにアヤがたまたま入ってないだけだ」

「っ…!」

「楽しかったか」

「な、何が」

「自身が懐かれてると思ってる騙したトレーナーの一喜一憂した顔を見るのは」

「………っ……!!!!」



そんな事、一度だって思った事なんてない。



「ち、ちが、ぅ」



本当は正直に助けて欲しいって、頼みたかった。

騙すようなことなんてしたくはなかった。

でも、それを今更話したら。



「き、きらわれたく、なくて」



本当は元々人間は嫌いだった。

だから初めは手持ちになって騙して、利用するつもりで近づいた。

でも一緒に過ごしていく内に、二人の傍にいることが、皆と一緒にいることが…アヤの傍にいることが楽しくなって。



「あんたに、いまさら、助けて、って言っても、たすけてくれない、っておもった」

「なぜ」

「だました、って。けいべつ、されるってっ」



皆からの不愉快そうな、軽蔑を含んだ視線を向けられるのは耐え難かった。



「おれをたすけても、何も、返せな ぃ。あんたたちに、とって、いいことなんて ひとつもないしっ」

「…………」

「アンタは、アヤがだいじ、だから。りようしようと、だましてた俺なんて、すぐおいだされるかと、おもって」

「(鬼か)」

「アヤに、いちばん、イヤな目で みられるのが、こわくて」

「……」

「理由をはなしたら、でていけって、アヤに、きらわれたくなかっ……」



嗚咽を混じえながら少年になったゾロアはついに堰を切ったように泣き出した。涙をボロボロ零しながらごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す。
ゾロアークは事の発端は自分が捕まったからこそこんな事になっているのだし、申し訳なさそうに俯いたままだ。アヤは最初人間に化けたゾロアに驚きはしたものの大人しくレッドとゾロアの話を聞いていた。次第にボロボロ涙を流すゾロアを見ていられなくなったのか、アヤは小さな頭をワシワシと撫でている。
「そんなことするはずないじゃん……っ…」と強くワシャワシャ頭をかき混ぜながらアヤまで泣き始めてしまう事になった。
ゾロアークも膝を折って謝罪し始めて、いよいよカオスになってきた。

泣き声と鼻を啜る音と苦し気に嗚咽を引く音を聞いて、レッドは深く溜息を着いたのだった。





本心

(嫌われたくなくて今更言い出しにくかった)






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