act.33 今更後悔したこと
『(……………!!)』
ライモンシティへ向かう為、空を飛ぶポケモンに乗り滑空していたらそのルートは正しくゾロアの目的地だった。
古代の城。人間達にとってあそこは観光地なのだろうが、野生のポケモン達から見るとそんな陽気なものでは到底ない。
地下はポケモン研究所だ。捕まったら簡単には外には出られないと思った方が良いだろう。今すぐ家族を助けに駆け付けたかった。だけど、だけど…こんなに弱いのに、どうやって助け出せると言うのか。根性無しと言われても仕方がないが、現実的に考えて不可能だった。
「………ゾロア?どうしたの?」
急に黙ったゾロアをアヤは訝しげに見る。
チラと彼女を見ると、心配そうに自分を覗き込む彼女と目が合う。「酔っちゃったかな」と大事そうにゾロアを抱え直したアヤを見て、体が固くなった。
「大丈夫?もうすぐ地上に着くから」と背中の毛並みを梳くようにして撫でる手を、これ以上裏切りたくはなくて。そして同時にアヤの前方を滑空する人物からの視線を感じた。探るような、視線だった。
『(ああ、だめだ)』
嘘をつき続ける後ろめたさと、罪悪感と、本当の事を打ち明けてしまいたいのと、愛想を尽かされたくない、でも助けて欲しい。
いろんな感情がせめぎ合い、葛藤する。
アヤ達と過ごす時間が多くなるにつれて、逃げろ、と声を張り上げて必死に自分を逃がしたゾロアークの姿を何度も思い出す。
善良なトレーナーの元で過ごすのは自分が思っていた以上、幸せで楽しいのかも知れない。
でも、すぐに目の前なのだ。
結局、ゾロアが出した答えは家族を助ける為に駆け出した。自分がアヤの元から離れれば心配して必ず追ってくる事を予想して。そしてその後を彼が確実に追ってくる。確信があった。
ゾロアはたった数ヶ月一緒にいたアヤよりも家族であるゾロアークを優先した。生まれた時から共にあったのだから、それは至極当たり前の事だった。
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呼吸が苦しい。
腕も折れていて激痛がする。
視界がどんどん霞んで意識が朦朧とする。
さっきの地上のヤツの毒と地下室の毒を吸ったままだったからだ。
『(……もう取り返しのつかないことしちゃったなぁ…)』
アヤの静止を振り切って古代の城の地下室、研究所へ駆け込んだ。しかもアヤの性格上、彼女は危険でも自分の後を追って来るだろう。それは彼女を守るためにピカチュウもオマケに付いてくるということだ。
降りかかる火の粉を一網打尽にできる戦力だ。本来の作戦上、上手く行っているがとてもじゃないが喜べなかった。
ここ地下室も有象無象にボロボロにされたポケモン達が蠢いており、凶暴化している個体も多い。牢獄のようなゲージの中で息絶えているものも居る。今頃、地上では大変な事になっているだろう事は想像が容易い。
『……………おまえ、なんできたんだ…』
『…言わなくても分かるだろ……』
鎖に繋がれたゾロアークがそこにいた。
疲弊すると同時に衰弱したゾロアークは、ゾロアの姿を見ると目を見開いて驚いた。もごもごと口を動かしてはいるが言葉は小さくて聞き取り難い。
両腕の毛がごっそり剃られており、そこにはいくつかの注射痕があった。
鎖を断ち切りたいが、もうそんな体力も力もないことはとっくに気付いていた。
口の中が鉄の味でいっぱいだ。意識が朦朧として、頭が痛い。胸が苦しい。
結局、自分だけじゃここに来ても何も出来ずに、過ぎていくだけなのだ。
『……ばかやろう。しんだらそれで、おしまいだろうが』
毒に浸された身体はもう限界だろう。あとは緩やかに、死を迎えるだけだった。
せめて、とゾロアークの傍で倒れるように身を寄せる。
一人でこんな所まで来て、ゾロアーク一匹助け出せる力もないのに。
レッドに頼めば良かったのか、ピカチュウに相談でも何でもすれば良かったのか、今ではよく分からない。自分はどのように動いていたら正解だったのだろう。
挙句にアヤをこんな危ない場所に巻き込んで。…いや、元から危険な場所に誘導するのが目的だったからいいのか。
『(……もっとちがうほうほうで、であえていたら、よかったのにな)』
苦しい。苦しい。
真っ黒になる視界の最後に見た顔は、ゾロアークの見たことも無い涙に滲んだ顔だった。
今更後悔したこと
(どこの時間の自分の行動を省見たらよかったのだろう)