act.18 モノズくん




「ね、そういえばその中の子って?」

「ああ、お前にはまだ言ってなかったな」

「…………ヌエさん、ボールの中の子の名前言ってたっけ」

「いや。さっきボールの中から種族名聞いた」

「さいですか!」



早速、だが。

アヤの気分は上々だ。晴れてレッドに機嫌を立て直されたその表情は生き生きとしている。瞳は爛々と耀いている。眩しい。

だがしかしここで扱いやすい単純な子、と言ってはいけない。すぐに凹むからだ。けれどもレッドはそれを重々承知している為言わない。いや、言う必要が全くないのだが。(それが可愛いとか何とか)

よしよしと柔らかい毛質の栗色の髪を撫で、ゴロゴロとなつくアヤを片手にモンスターボールを反対側の手に。ハタ、とそのボールを見るアヤにレッドは「気になるか?」と問うと即答で「気になる」と返ってきた。

…さっきまではあんなに沈んでいた奴がここまで浮上するその精神力は魅力的だ。そのスッパリした返答に思わず吹き出しそうになってしまったのは彼だけの内緒である。

して丁度ピカチュウとゾロアも頃合いを見て帰って来たのを尻目に、レッドは手の内のボールを軽く転がした。

パン、と軽いボールのスナップ音が聞こえ、中から出る赤外線の赤い光が形を成していく。



「……かっ……!」



フルフルと首を振りながらふらつく足取りで地に立ったそのポケモン。青と黒のコントラストが強いポケモンである。皮膚は青、そして毛並みはお世辞と柔らかそうとは言えないが、黒い毛並みを持っていた。
目は黒い毛に覆われていて、頭にはこれは絶対にチャームポイントだろうと思われる黒いトンガリが一つ。鋭い顎と犬歯は小さいながらにご立派もので。

このポケモンは確か盲目だ。取り敢えず自分の主人が傍らに居ることを感じとり、周りの状況が分からないのにも関わらずじっと立っている。何て強い精神力。っていうか可愛い。



「こいつはモノズ。悪とドラゴンタイプのポケモンだ」

「モノ……!」

「(…………下心が見え見えだぞ、アヤ)」



可愛い。何て言うか、今にも触りたい。いや撫で回したい。否抱き締めたい。

あれ自分変態?なんて思うがまあ気にしないでおこう。わきわきと握った拳の下でウズウズする何かに自主規制をかけながら、そのモノズと言われたポケモンの前に正座する。

じっと見つめているとモノズも気配でわかったらしい。ふと見えない目で気配の先のアヤを見上げる。暫しの沈黙。それをレッドと、ピカチュウとゾロアは見ていた。何だこの奇妙な図は、と突っ込む者は残念ながら誰も居ない。



「………………」

「あ、ご丁寧にどうも」



ペコ、とモノズは首を折って軽くお辞儀をする。驚く事にかなり礼儀正しいようだ。それは流石にレッドも知らなかったらしく、彼も多少驚きを露にする。

お辞儀をしたモノズにアヤもつられるようにお辞儀をする。そしてついでに「アヤです初めまして」なんて友好の印に自己紹介と握手までも繰り広げているのは何か場違いな気もするのだが。

いや、段階的に間違ってはいない。間違ってはいないのだが何かが違う気がする。と、レッドではなくその隣で観察していたピカチュウが思う。ゾロアはソワソワしていて何だか落ち着かない感じだ。

そんな中、レッドはモノズに声をかける。



「モノズ、」

「!」

「今日から俺がお前のトレーナーになる、レッドだ」



そう黙々と軽過ぎる自己紹介をしたレッドに、モノズはまたもや気配だけで体の向きを変えてお辞儀を一つ。
………何だか他所他所しいのは気のせいではないだろう。モノズ自身礼儀正しい事もあるだろうが、そうじゃない他人行儀な姿勢がそこにあった。

…Nの言っていた事は嘘ではないらしい。中々堅物そうな奴だな、と思ったのがレッドのモノズに対する第一印象である。

取り敢えず、手持ちに加えるに当たり最終確認だけしようと思った。



「…お前はどうする?あの緑から受け取ったとは言え、あいつの言う通りにする気は更々ない」

「え゛え!!?」

「黙ってろ。………このまま野生に戻りたいなら引き止めはしない。かと言って手持ちになれと強制もしない」

「…………」

「お前が決めたらいい。…………だが、」



レッドは様子を見ている一人と二匹にちょいちょいと手を招く。それはアヤだけじゃなく、ピカチュウとゾロアも一緒に招いた。頭に飛び乗るピカチュウ。

そして頭にクエスチョンを飛ばすアヤと興味深く寄って来たゾロアを両手に、レッドは差し出すようにモノズの目の前へ。

彼は、微かに口端を吊り上げた。



「お前が感じている心配は恐らく無い。どいつもこいつも今いろんな意味で新人だからな。ゾロアなんてこの前アヤが拾ってきたばかりの奴だ。……しかもお前、アヤを見ろ。盲目なんて関係無しに飛び付こうとしているあの体制。相当友好的に見られてるらしいぞ。

―――って事で、行けお前達」

「ごめんモノズ君ちょっと抱っこさせてぇええええええッッ!!」

「ピィカアアアアア!」

「ロアアアアアアアア」

「!!!???」



突撃

(全力で友好ある事を示せ!)




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