act.12 将来糖尿病
「レッド遅いなぁ…」
ポケモンセンターにあるレストランにて、そこでボクはゾロアと共にポツリと席に着いていた。
「アララギ博士にコールを取るから、先にレストランに行ってろ」とレッドに言われたのは一時間くらい前の事だ。しかし待ち人の彼は中々帰っては来なく、先にご飯を注文して頂くにも気を引ける。なのでドリンクバーのみを頼んで4杯目のカルピスをズビッー、と啜っている最中である。
「遅いねーレッド達」
「ロア?」
「あ、ゾロア先にご飯食べる?」
「ロゥア」
「ん、ピカチュウと一緒が良いんだね」
フルフルとゾロアが首を振った。どうやらピカチュウとご飯を食べる事が好きらしい。待ってる、と言いたげにパタ、と尻尾が揺れた。
机の上によじ上り、興味深くカルピスを見つめるゾロアは数回匂いを嗅いだ後、チロチロとコップの中身に舌を這わせた。赤い瞳が輝いたところを見るとどうやらカルピスはお気に召したらしい。そしてゴクゴクとカルピスを飲み干したゾロアはおかわりを催促。…コップを奪われてしまった。
「ゾロアーそんな一気に飲み干すとお腹痛くなるよ」
「ロア?」
直ぐ隣にあるドリンク台からカルピスを注ぎ、ゾロアの前に置く。そしてまた勢いよく無くなる液体にボクはガックシと項垂れた。どうやらこのゾロア、遠慮と言うものを知らないらしい。
ボチャンッ。
仕方なしに普通のコップに水を入れたボクは、角砂糖を一つ中に突っ込んだ。通常砂糖水と言うやつだ。甘くて美味しい、とボクは思う。
「ロ?」
「砂糖水だよー甘くて美味しいんだよ」
「……ぺっぺ!」
「お、ゾロアお子ちゃまだね」
「…ロア!」
砂糖水を口に含んだゾロアは何故か吐いた。どうやら甘すぎたみたいで、ゾロアの口に合わなかったらしい。ちょっと優越感。(自分はこの時点で大人だと思っている)
実は毎日毎日甘いものを食べている内、ボクはいつの間にか普通の甘さよりもっと濃い味覚に慣れてしまっていた。だからちょっとやそっとのものを食べても全然大丈夫だし、胸焼けもしない。それどころかもっと甘くても大丈夫で、ホットケーキや何か手の込んだものを作る時は砂糖を大量に投入するのだが。
そんなボクにワタルさんやシロナさん、ダイゴさんは特にストップを掛けて来た。「病気になったらどうするの!」とさながらシロナさんはお母さんみたいな事を言っていたけれど。
そして勢いを止める事なく大量の糖分を摂取していたら今度はユイ兄まで出てくる始末。いきなり家に押し掛けて生クリームを盛った皿を顔面に叩き付けられたその時は、流石のボクも目の前のにっくき兄の顔面に向かって手元のシュークリーム(×6)を叩き付けた。(死にそうになった)
「糖尿病予備群かもね」
そう笑顔で告げたユウヤさんの顔が忘れられません。
あの後強制的にユウヤさんの手元に送り込まれ、勝手に診断された結果がまさかの糖尿病予備群(かもね)。ちょっと糖分抑える事から努力してみようか、とやんわりと笑顔で勧めるユウヤさんはやはりユイ兄とは天地の差があると改めて思う。
そして不本意な事に今まで愚妹やらまな板など、あだ名で呼び続けていた兄の新たな呼び名は「糖尿女」「糖尿病予備群」に早変わりした。どう考えても妹とは言え失礼過ぎるよね早くハゲればいいのに!(でも言えない)
そうしてその診断結果が出てから、レッドまで目を光らせる事にはほとほと困っていた。確か「早死にしたくなければ糖分制限しろ」とか何とか言われ、好きなように甘いものを食べれなくなってしまった。
…皆はボクの味覚がおかしいとか何とか言っているが、決して、断じてそんな事はない。ただ甘いものが好きなだけである。皆の舌が打たれ弱いだけだよウン。
「お腹空いたねぇ」
「ロアロアー」
「え?おかわり?君今何杯目よダメだよもうちょっと後でにしなさい」
「ロアァアア!」
「ダメったらダメェェエエエエエ!太っちゃったらどうすんの君だって女の子………え、女の子?ゾロア女の子だよね?」
「ブッー!」
「…え!?男の子なの!?」
「ブッー!」
「(どっちだ!)」
完全にからかわれている。もしくは遊ばれている。ジュースを貰えなくていじけたのか、黒い小さな毛玉は机の上でゴロンとそっぽを向いた。
そういえばボクはゾロアの性別を知らない。ポケモンには若干模様や姿形で性別が異なると言うが、ゾロアはなんだ。模様?それとも姿が違うのだろうか。
砂糖水を放り出し、ツンと明後日の方向に目を向けるゾロアに何としても教えて貰うべく、背中をユサユサと揺らした。
「ねぇちょっとゾロア聞いてる?え、シカト?シカトなの?それはよくないんじゃないかなゾロアちょっとぉおおお」
「―――彼ね、男の子だよ」
何か突然、第三者が混じっていた。
糖尿病予備群
(糖尿病には気を付けろ)