act.11 伝説の指導




とりあえず、レベルを上げていく事にしました。



「ゾロア、ジャンプして引っかく!」

「ロァ!」

「あ、いや、そうじゃなく!」

「ロァァァァ!」

「違うぅぅぅぅう」


「(………まずはもっとゾロアにスキルを叩き込む事から初めて行く方が良いと思うんだがな)」



* * * * * * * * * * *



「コンテスト用に育てるのか?」

「んー、まだ悩んでるんだよね」



昼頃にサンヨウシティに着き、街の観光とポケモンを探しがてら、この街から少し外れに有る“夢の跡地”という所に訪れていた。

そこは何とも不思議な場所で、森に囲まれた廃屋?いや廃墟された建物?…まあそんな感じの場所。ただそんな跡地に不思議な感じがするのは、気のせいではないだろう。ボクより先にレッドとピカチュウが不思議そうに辺りを見渡していたし、ゾロアもソワソワと頭の上で耳を立てていた。宛らパワースポットと言うところだろうか。

そしてそこでは主にレッドが図鑑のポケモンを探し周り、僕はそこいらの草原でゾロアを野生のポケモンと戦わせていた。とりあえずこの先に進むあたり、強いポケモンが沢山出てくるだろう。

だとしたら観光とは言え少しでもレベルは上げていくべきだ。

一人と一匹で黙々と血の気が多い猫と犬と鳩(後からレッドがチョロネコ、ヨーテリー、マメパトだと名前を教えてくれた)を相手にしていたら、いきなりどこからか悲鳴が聞こえて吃驚したボク。え、変質者?森に変質者?

…と思ったがどうやら違うらしい。ゾロアと一緒に何だ何だと悲鳴の先を見やれば、スリープやスリーパーを抱えた研究員達が一目散にポケモンセンターの方向へと駆けていく。

…ポケモン達は焼け焦げていた。

そしてゆっくり建物の地下から姿を表した、レッド。

図鑑を弄る彼の後ろを、満足そうに電気袋を放電するピカチュウに無意識に腰が引けていたボク。どうやら犯人はこの赤い人らしい。運良く図鑑に登録されていなかった“ムシャーナ”がこの地下に居たらしく、新しく図鑑にデータを加えようとしたのだが研究員達が邪魔をして来たらしく返り討ちに…という経過だ。

「大して相手にもならなかった」、と短く感想を述べたレッドが恐ろしい。

そんなレッドが戦うゾロアを見て、そう言葉を漏らした。



「まだ分からないや」

「折角だ。新しく育成すれば良い戦力になるんじゃないか?」

「んー…そうなんだけど、ゾロアはコンテスト見た事ないだろうし。普通のバトルが好きならそんなコンテストの技術なんて必要ないじゃん?強要はあまりさせたくないんだよ」

「…そうか、」

「うん。…あ、ゾロア!後ろから来るよ!」



チョロネコを倒した途端、我こそは!と野生のピンク色のポケモンがピョンピョンと飛び出して来た。新しく見るポケモンは可愛い姿をしているが体格は結構ズッシリしている。やる気満々でフックの動作をするこのポケモンは何か、プクリンに似ている気がした。



「わ、あの子何て言うの?」

「…確か、タブンネだ。勝てば経験値が倍に貰えるぞ」

「マジか!」

「マジだ。…前見ろ、始まってる」



なんてやり取りをしている内にゾロアの体当たりがタブンネに直撃する。

しかし重量がズッシリしているせいか、タブンネは身動ぎもせずにゾロアを弾き飛ばしてしまった。極めつけ強力なビンタ…“はたく”がゾロアの横っ面に炸裂。そなまま吹っ飛ばされてしまう。

そしてゾロアはコロコロとボクの足元まで転がり、困ったようにボクに視線を投げ掛けた。

あんなチャーミングな姿をしているのになかなか凶悪なポケモンだ、とかなんとか失礼な事を思ってしまった事はボクだけの秘密にしておこう。



「ゾロア、そのまま前方にジャンプ!引っ掻く!」

「ロッ…」

「ちょっ、ま…!後方に避けっ…」

「ァぶッ!」

「ぎゃああああゾロアアアアア」


「……………、」



引っ掻く、引っ掻く、引っ掻く、避けられる、避けられる、避けられる、ビンタ炸裂、ビンタ炸裂、ビンタ炸裂。

……何故だ。全部空振りでタイミングが合わない!え、あれ?もしかしてもしかしなくても、これボクの指示が悪いんだよね。え、何で?サンダース達は難なく動いてくれるのに…?

ブルブルと体を振りながら起き上がるゾロアに、とても困り果てた。タブンネは更にフックしながらゾロアに突進して突っ込んで行き、またタイミングが合わなくてゾロアにビンタが炸裂する。

そんな不発なボクに、レッドは小さく溜め息を着きながら呼び止める。



「馬鹿、レベルを考えろ」

「レベ…」

「あいつはトレーナー経験0だぞ?初めからそんな細かい指示で動ける訳ないだろ。あいつらと一緒にするな。…お前とはまだレベルが違う」

「…あ、」

「初心ならもっと大雑把で良い。後は自分で何とかする筈だ」

「お、大雑把…?」

「…………はぁ。代われ、」



レッドから溜め息が漏れる。あれ、何だか最近レッドが溜め息着く回数が多くなっているのは気のせいだろうか?

彼は肩を二、三回叩くとボクをやんわりと下がらせる。どうやら見本を見せてくれるらしい。…何か不甲斐ない。



「ゾロア、少し代わるぞ」

「ロアっ?」

「ほら、前見ろ。またぶっ叩かれるぞ。しゃがめ」



まさかのトレーナー交代に、ゾロアが不安そうにレッドの後ろに居るボクを見た。よそ見したせいか、タブンネの強烈なビンタが横切って来るがレッドの言葉に反応してすぐにしゃがむ。頭上をブオッ、と空気を切る音がした。



「体当たりして間合いを取れ」

「ロァッ!」

「たぶっ!」

「追い討ち」



ドカッ、と体当たりして倒れたタブンネに追い討ちがかけられる。…野生相手にも容赦ないようだ。
そして怒ったタブンネに、ゾロアは盛大に嘘泣きして騙し討ちして乱れ引っ掻きとポンポンとレッドは指示を放つ。何だか悪タイプ故に凄い姑息な気がするのは決して気のせいではない気がする。

レッドはチラ、とボクを見て言った。



「大雑把で大丈夫だ。そんな力む事じゃない」

「………なるほど」



超人伝説の指導は、凄く分かりやすいものだった。



伝説の指導

(理解できない事は数多あるが、人に教える立場だと凄く分かりやすい指導ができる人だった)





- ナノ -