act.121 みなさん集合








レッドがオーキド博士との通信を切り自分のポケモン達を受け取った後、丁度タイミングを見計らったかのようにユイから連絡を受けた。


《時間だ。妹のポケモン達を送る。準備が出来たら通信を繋げ》


簡潔にそう書かれていたメールの内容にレッドはパソコンを切り替え、通信ボックスをユイのアドレスに合わせて通信を待つ。するとすぐに受信中、と表示され目の前の転送装置からボールが6つ、送られてくる。先程と同じく軽い電磁波を放ちながらランプが点灯する。

「転送完了」の文字がモニターに浮かび上がると、台座の上の6つのボールから賑やかすぎる会話が聞こえて。



『アヤ〜〜〜!!!ルルが帰って来てやったですよォォ〜〜〜!!!!嬉しいですよね!?ね!?嬉しいってハグしながら頭を地面に擦り付けてひれ伏せやがれです〜〜〜!!!あれ!?アヤ!?あいつどこ行きやがったです!?』『マスター!?酷い!!もう1年ですよ!!?1年どこほっつき歩いていたんですか!!せいぜい半年くらいで帰ってきてくださいよォ!?なんの連絡もなしに!!……あれ!?いない!?』『酷いよアヤ〜〜!!アヤの兄ちゃん酷いんだよ!ポケモン使いが荒いの〜〜!!ずっとお台所の雑巾がけさせられてたんだよぉ!ねぇねぇお土産は〜〜!!??』『アヤ〜〜聞いてほしいでありんす〜〜超ド級の呪術を編み出したんでありんすよぉ〜これで気に入らない奴らの息の根なんてひと捻りでやんす〜ひひッ、ひひヒヒヒッッ』『……おや、旦那一人だけか!元気か久しいなハッハー!!!』『お前ら本当に超煩い』



上から。シャワーズ→ウインディ→カイリュー→ムウマージ→ルカリオ→サンダースの順で叫び倒している。途中誰が誰だか分からなくなったが。………たぶん合っているはず。間違いは無い。ボールに入ってるのにその爆音で喋り倒すってどういうことだ。

思わず固まったレッドに習い、レッドのポケモンである仲間達も白目を向いて関わらんとしているがまあそういう訳にはいかない。未だ台座に置かれたボールは好き勝手に煩く喋り倒しているがレッドが「お前達、久し振りだな」と声を掛けると。まあ〜〜〜煩い。個々が何を言ってるのか分からないくらい煩かったが唯一サンダースだけが『長い間アヤの面倒を見てくれてありがとう』だなんてキッパリとした言葉でお礼を言うもんだから「いや、面倒なんかじゃない。それに楽しかったしな」と真面目に返してしまった。
…なるほど。以前アヤが「どっちかって言うとみんなを世話していると言うより、結果的にボクが世話されてるようなもんだったしなぁ…」なんて苦い顔で言っていたのを思い出した。世話されてるってどういうことだ…と思ったが今までアヤと過ごしてきたのを思い返すと想像に容易い。
サンダースへ返答したのをきっかけにアヤのポケモン達はぎゃーぎゃーとレッドに詰め寄った。こいつらみんなボールの中なのに。何故かかなり圧迫感を感じる。圧が凄い。煩さすぎて何を言っているのか全く分からなかった。

そしてレッドのポケモン達は己のボールの中で耳を畳んだ。

あまり関わってはいけない、と思って。

アヤのポケモン達は基本賑やかだ。よく喋るしよく喧嘩もする。対するレッドのポケモン達はみな大人しい。主人に似たのかなんなのか分からないが、基本静かである。それを比較すると。



「『『『『(めっちゃ煩ぇなコイツら……)』』』』」



レッドとそのポケモン達が同時にそう思ってしまうのは致し方ないのである。

そしてそのアヤのポケモン達が入ったボールを全て無言で回収したレッドはアヤにメールを打った。“ポケモンセンターのトレーニングルームに来てくれ。貸し切りだが一応顔は隠せよ”そうメールして。




_________
______
___




そして。

軽くパーカーを羽織り、マスクをしてトレーニングルームに合流したアヤがピカチュウを頭に乗せてやってきた。ウィーン、と開く自動ドアからアヤがひょっこり顔を出してレッドの姿を確認するとパーカーとマスクを外した。「今日はトレーニングルーム貸し切りにしたんだね」なんて言う前にレッドが持ったボールが勢いよく開閉して中から出てきたポケモンが弾丸のようにアヤに飛び付く。

そして、こうなっている。



「ルーー!!!」

「フッーーー!!!」

「ガウガウガウ」

「痛い痛い痛い痛いっ!!めっちゃ痛い!!ちょっ……久し振りなのは分かるけどっ…ちょっ助ケテッッーーー!!!」

「アヤ、パンツ見えてるぞ」

「なに見てんのさ!?ダメッッ!!……メッ!!?」



シャワーズとカイリュー、それにウインディに押し潰されているアヤを見てレッドは尽く思った。自分のポケモン達があんな熱烈でなくて良かった……と。ひっくり返ったアヤはパンツ丸見えである。パンチラどころではない。もろ見えで可哀想だった。あまりにも可哀想だからと近くに居たピカチュウが盛大に捲れ上がったスカートをそそくさと直してあげている。
ウインディやシャワーズにベロベロに顔中舐め回されたアヤはぎゅうぎゅう抱き締めてくるカイリューの触覚を引っ張りながらその中からぜぇぜぇ言いながらもがいて脱出した。

グリグリと頭をアヤに擦り付けるシャワーズとウインディをどうどう、と制しながら両手で二匹を撫で回す。「元気そうだね二匹とも」とベタベタになった顔を服の袖で拭いながらアヤは笑うとシャワーズとウインディ二匹揃ってデレデレしながらもっと撫でろと言わんばかりにアヤに詰め寄った。尻尾をブンブン振り回しながらグイグイ覆い被さろうとするのに対し、背後からはカイリューに拘束されているため逃げ場がない。前から後ろからの圧でおしくらまんじゅうみたいになってしまっている。めちゃめちゃ苦しい。

すると突然体が軽くなって巨体が居なくなった。



「わっ…あ、ルカリオ。久しぶり…」

『ああ、久しぶりだなアヤ。元気そうで何よりだぞ』

「ブイ、」

「ゲゲゲゲゲ」


いつの間にやらアヤの周りはポケモンで囲まれていた。
図体のデカいカイリューとウインディを『邪魔だお前達』と背負い投げて蹴り飛ばしたルカリオはその空いたスペースにサンダースと一緒に滑り込んだ。(シャワーズもムウマージに念力で放り投げられていた)ムウマージもアヤの頭の上に乗り、まるで帽子を被ったようになっている。



『約一年ぶりか。かなり長い長期休暇だったな』

「お、思ったよりも長くイッシュ地方を旅したというか、滞在することになっちゃって…」

『そうか。俺たちも息抜きが出来てちょうど良かったよ』

「それなら良かった。サンダースもムウマージも、元気だった?」

「ブイ、ブイ」

「ゲゲゲ」



問題ない、と頷くサンダースの頭を撫でると1年前は滑らかで柔らかかった体毛が少し固くなっていた。後でオイルか何かつけてブラッシングしなきゃ、と考える当たりやはり自分はコーディネーターだなーなんて思って。
頭の上に乗ったムウマージのヒラヒラを掴みながら「ムウマージは相変わらず何考えてんのかわかんないね」と頭の上に声を掛けると「ゲゲゲ」とずっと笑っている。とりあえずみんな元気そうで良かった。あの兄の所にずっと預けていてきちんと面倒見てくれるか多少の不安はあったが、その心配は杞憂に終わったらしい。兄妹と言えども育て方もメンテナンスの仕方も全く違うが、痩せこけていたり窶れていたりなんてそんなのは全くなく。必要最低限のお世話をしてくれていたらしい。



「(………あとで何頼まれるんだろ…)」



あの兄が無償で助けてなんかくれないのはアヤとて分かってるつもりだ。
後々何を対価に求めてくるのか分からなくてアヤは肩を落とした。

そして吹っ飛ばされた3匹がルカリオに物申すようにギャンギャン吠えており吹っ飛ばした本人は首を傾げる。『なんだ煩いぞお前たち』と。シャワーズが目から光線が出るんじゃないかと思うくらいに禍々しく睨んでいるがアヤは何も見ていないことにした。
少し間を置いた後、ルカリオは頷いた。『そうか!……いいゾ!その気迫!ちょっと見苦しいが!己のトレーナーに久々に会って気分が良いのはわかるけどな!しかし俺もそうだ!積もる話もある!お前達もそうだろうだったら先に俺が聞こう!……そうだ!もっとだ!もっともっとお前達の思いを俺にぶつけるんダッッ!!!』「「ギャインッ!ヒッ…ヒィッ」」なんてよく分からないことを言いながらルカリオが追いかけ始めた。3匹はビビりながら逃げていく。

アヤは思った。



「(昔より……めちゃめちゃ喧しくなってる…)」



どうやらこの一年でルカリオの性格がめちゃくちゃ暑苦しく騒がしい性格になってしまったらしい。元々賑やかではあるが更に煩くなってしまった。

すると「アヤ、アヤ」と声を掛けてきたレッドが紹介しなくてもいいのか?と目で訴えている。あっそうだった。そういえば新しく仲間になった二匹を紹介せねば。部屋から二匹ともボールに入れずに出して歩いてきたから、近くに居るはず……とアヤはオシャマリとチュリネを探していると目当ての二匹は入口の所に揃ってアヤ達の様子を見ていた。



「みんなに紹介したいんだけど、新しい子達が仲間になったから」



アヤのその一声に、特に先程までデレデレしていたシャワーズとウインディが「ああん?新入りだぁ?」と特別嫌そうな顔をした。アヤでも何を言ってるのかわかるくらいだった。顔に感情がよく出ていること。その凄まじい嫉妬がよく現れている顔をレッドとピカチュウは見ていて「情緒の激しい奴らだな……」と白い目で見ていたという。「オシャマリー、チュリネ〜!こっちおいで〜」と声を掛けると二匹ともアヤの元までちょこちょこやって来た。



『皆さんごきげんよう、初めまして。宜しくね』

『あ…あの…宜しく、お願いします…』



わたし、戦えないんですけど…なんて言うチュリネの言葉をレッドは聞いて、そして紹介されたアヤのポケモン達の声もレッドはしっかり聞いた。



『『『『『お、女の子だッッ……!!!!』』』』』



こんなイカつい男所帯に、こんな可愛い雌二匹が新顔。

しかも二匹とも慎ましく穏やかそうな、淑女である。佇まいが既に品がある。というより一番問題なのが自分達よりも小さい姿をしているのにオシャマリのあの存在感。ラスボスではないかというオーラがある。

しかも、しかもだ。

シャワーズはオシャマリを見て呆然とした。

コイツ、水タイプじゃね?



「オシャマリとチュリネだよ。みんな仲良くしてあげてね」

「フ、フッ……」

「因みにオシャマリはめっちゃ器用でね。たぶんサンダースやシャワーズと同じか…それ以上のコントロール技術があるよ。シャワーズの動きも動画見ただけで真似してたし」

「フギャァァァァ」

「ええええええええええええ」



雷に打たれたような衝撃があって、シャワーズは何もしてないのに突如吹っ飛んだ。
ビビったアヤは悲鳴を上げて、レッドとピカチュウと他のポケモン達は謎の力で吹っ飛んだシャワーズを視線で追いかけて見ていた。そして何となく、何となくだが。シャワーズの気持ちを察したレッドはアヤの肩を叩き耳打つ。え?なに?と聞いていたアヤだがレッドと話している内にギョッとして「は!?」なんて言っている。

シャワーズは床に転がり泣いた。

そんな、水タイプ?何でよアヤ。よりによってなんで水タイプを仲間にしたの。自分がいるからいいじゃないか。と。しかも自分とオシャマリを比べるような、そんなこと言わなくてもいいじゃないか。いくらアヤでも酷すぎる。自分が嫉妬深いことを知っているはずなのにこの所業。どうしてくれよう。パンツビシャビシャにしようかな、とか考えている内に転がったシャワーズの目の前に膝を着いたアヤがオシャマリと一緒に「大丈夫?」と声をかけている。よいしょ、とシャワーズの両脇に手を入れて座らせるとアヤは言った。



「えっと…ごめんね、そういう意味で言ったんじゃなくて…」

『動画であなたの演技を拝見したの。凄く凄く綺麗だったから、私も水タイプだから真似したくて』

「シャワーズはみんなの中でも一際コントロールが上手くて、体の柔軟も一番なの。それにたくさん練習して努力したでしょう。それをただ見てオシャマリが真似できたのが凄いって言ったの」

『そう、あなた凄いのよ』

『(め、女神…………)』



シャワーズは得体の知れない後光に刺されて浄化された。

一匹再起不能になったのをアヤのポケモン達は無視して、オシャマリとチュリネを囲みながらワイワイ喋っている。皆一致で考えるのは草タイプが仲間になるのは都合が良い、という事。しかし色んな事情で自分は戦闘ができない、戦えない、ということをチュリネから聞いてどうしたものか……と考えたりして。

とりあえず二匹が上手くメンバーと仲良くやって行けそうでアヤは一安心である。アヤはレッドとベンチに座ってその様子を見ていたが、シャワーズが顔色悪くノロノロとやって来て「おや、」とレッドは瞬いた。

アヤではなく、自分に用があるみたいだったからだ。



『だ、旦那……』

「どうした」



何故かアヤのポケモン達は自分のことを早い段階から旦那と呼んでいる。まあ、悪い気はしないが。

背の低いシャワーズにレッドは視線を合わせるように屈むとシャワーズはモゴモゴと喋りだした。



『る……ルルは……アヤのポケモンです…』

「?ああ、そうだな?」

『ルル…水タイプです…アイツも水タイプですから、ルル…もしかしていらな、』

「馬鹿。そんな筈ないだろう」



呆れたように溜め息を着くレッドにシャワーズは不安でいっぱいな顔をしていた。



「アヤがそんなこと言う人間だと思ってるのか」

『お、思ってない…思ってない、ですけど…』

『キミ、嫉妬深い割には打たれ弱そうだね』

『ルルは今まで他人をなじって遊んで生きてきたんです…Sは打たれ弱いのです…』

「『最低かよ』」



レッドとピカチュウは苦いものを噛む顔をしてシャワーズを見た。

シャワーズはお願いあるです、とレッドに一言。



『あの小さいのは、これからも進化するですか?』

「オシャマリから…か。確かあと一回進化する筈だが」

『図鑑があったら見せて欲しいのです。もしかしたら進化したらちんちくりんの可能性があるですよね。ルル、知ってるのです。どっかの地方かはわかんないですけど猫が最終進化したら二足歩行になってゴリマッチョになっちまった悲劇です。それを期待するのです。ルルは見た目も可愛くて美しいから。見た目だけでも勝利するのです』

「…………」

『…………うわぁ…』



レッドとピカチュウは同時に黙った。

こいつ、性格めっちゃ歪んでる…と。

しかし、レッドは思った。オシャマリの進化先は確か…一度目を通した筈だがシャワーズが期待しているようなちんちくりんでは決してなかったような。まあシャワーズが見せて欲しいと頼むなら、断る理由はない。彼は図鑑を取り出し、オシャマリのページを開く。その進化先のページを開いて、レッドはシャワーズに画面を向けた。

そしてシャワーズは絶望したように固まって。



『アヤの馬鹿ーーー!!!!!』

「わっ、」



アクアジェットでアヤの脚の間に滑るように突撃したシャワーズは、彼女の履いていたパンツを盗んだ。

今日も紐だ。

滑らかな動きでアヤの腰周りを一周すると、そのままスルリと引き抜いた。



「―――ぅ、あッ!!??……ワァァァァァァ!!!??ちょっ!!シャワーズ何してんの!!?ソレ返しなさい!!シャワーズッ!!ふざけないで待っ……てめぇぇぇ待てルルッッーーー!!!」







みなさん集合


「…………平和だな」

『いやとりあえずノーパンのまま走り回るのはよくないってアヤに伝えてあげなよ主人。あれ絶対屈辱的でしょ』





_______
_____
___




その後、シャワーズを追いかけるアヤはピタリと止まった。大きな声でシャワーズを諌める声はなりを潜めて、静かに俯いた。
シャワーズは嫉妬もちょっとあったけど、まあ構ってもらいたかったのだ。だって久々に会ったから。進化もしたし大人にはなったけど心の内はまだまだ子供のまま。ちょっかいかけて構ってもらいたかっただけである。昔からシャワーズはよくアヤに悪戯をする子だった。何をしても最終的には「しょうがないなぁ…」で済まされていたし。だから今回もそれを期待して少しは遊んでくれるだろうと軽く思っていた。

けれどアヤは。

昔と比べて少し性格が変わっている。

主に羞恥心。

ここに居るのは自分達身内のポケモンだけじゃない。自分のポケモンにここまでおちょくられているのをレッドやそのポケモン達の前で盛大に大恥をかいているのを自覚したアヤは本格的に泣きべそをかき始めて。



「!!!?」



泣いた。

シャワーズはギョッとしてビビった。それはシャワーズだけじゃなくサンダース達もだったが。オロオロとアヤに近寄って挙動不審になるシャワーズが無言になって圧があるルカリオに首根っこを持たれて宙ぶらりんにされている。シャワーズは借りてきた猫のように大人しくなった。「………フニャ………」と萎縮する姿はまるで猫である。

『あーあ。泣かしたー』とピカチュウが何とも言えない顔をしているのを聞いて、それまで静観していたレッドはやれやれと。いよいよ重い腰を上げたのであった。

(レッドのポケモン達は自分のトレーナーをいじり倒して泣かせるなど。そんなこと信じられないので終始呆れたような感情で見ていた)








- ナノ -