act.10 直感ストレート




「ね、本当にボクの手持ちで良いの?ボク自分で言うのもなんだけど、何するかわかんないよ?」

「ロァー」

「…今なら逃がしてあげられるよ?」

「ロァ?」

「…………チッ…チクショォオオオオ可愛いいいァァァァ」

「アヤ、まず話聞いてくれるか」

「ういやつういやつ可愛いねぇっ…い、痛い痛い痛い痛いっ!ごめんなさい!ゴメンてぇぇぇぇ!」

「話を、聞けって、言ってるだろ?」



グリグリ、とアヤの旋毛に人差し指を押し当てて圧迫するその威力は、地味に痛いものだった。

(彼は無視される事は気に入らないらしい)



* * * * * * * * * * *



「取り敢えず良かったじゃないか」

「うん!」



改めてアヤの手持ちに加わった新しいポケモン、ゾロア。どうやら人間慣れしている…らしい。性格は無邪気で負けず嫌い。

最初はアヤも何かの間違いかと思い逃がそうと試みたが、ゾロアはイヤイヤと首を振りピタリと足にへばりくっついて離れる事を拒否した。

しかも腕試しに野生のポケモンと戦わせてみると、身軽で技の威力も強いと来た。一撃でここいらのポケモンを倒せるゾロアに、様子を見ていたレッドも珍しげに感心を寄せる。ゾロアもレッドやピカチュウに難なくなつき、ゴロゴロとじゃれているがやはり一番はアヤらしい。直ぐにアヤにへばりくっつき、頭の上に乗る事がゾロアは好きみたいだ。


どうしてこんなに気に入られたのかは未だに謎なのだが、まあなつかれて誰も悪い気分にはならないだろう。

そしてポケモンフーズをかじるゾロアを抱き上げたアヤは、レッドの言葉に素直に頷いた。レッドも数日間明らかに気分が沈んだアヤを気にしていたが、ゾロアが新しく手持ちに加わった事でそれも綺麗に晴れた。再び笑顔が戻った彼女に、レッドは安心したのか小さく息を着く。



「図鑑?」

「ああ、中途半端に数ヶ所空いてる。…ざっと10匹ちょっとだな」

「って事はそれ探せば旅終了?」

「そういう事になる」



ポケモン図鑑を開いてデータをスライドさせるレッド。取り敢えず今回の旅の理由は図鑑の穴埋めで、それを数十匹見つければ旅は終了となる…が。

その数十匹って簡単に見つからないから穴が空いてるんじゃ…とアヤは訝しげにレッドを見た。しかしその視線に気付いた張本人は「少し探せば見付かる」と一点張り。あのすいません、それが出来るのは貴方だけです。だなんて当然言えるはずもなく。



「あとそいつ、恐らく進化するぞ」

「え」

「ゾロアとチラーミィの間が無い。予想だときっと進化する」

「チ、チラ…?」



チンチラ?と再度聞き返せば何の溜めもなく「違う」とレッドに切り返される。もうちょっとノッてくれても…と意味の無い願望をレッドにかけるのは、まぁ仕方ないとして。

聞き慣れないポケモンに復唱すればこいつだ、と図鑑の画面をアヤに見せる。そして液晶に映ったポケモンを見て彼女は小さく叫んだ。白い体毛に大きい耳にクリクリした目。え、なにこれカワイイ。



「わぁ…か、可愛い…」

「………話聞いてるか?」

「え!?あ、うん!まあ進化したら進化したでめでたいよね!そっか、ゾロアは進化する可能性あるんだね…。ロコンに似てるからやっぱりキュウコンっぽくなるのかなぁ」

「ロァ?」

「ねー」

「ロゥー?」

「それは俺でも知らん」



一人と一匹、同じように首を傾げるその光景はレッドから見たら大変微笑ましく見える。

いつの間にかレッドの手からポケモン図鑑が離れ、アヤの手に図鑑が収まった。そして興味本意にカチカチと図鑑を弄っていた数分後、アヤが今までにない奇声を発したのだ。膝の上にいたゾロアは突然叫んだアヤに驚き、膝から逃げ出してピカチュウの後ろにピタリとくっつく。

ブルブルと震えるアヤ。レッドは訝し気に顔色を伺った。



「…どうした?」

「あっ…あぁぁあぁぁ…!!なっ…かかかッ…!!!」

「……………」



図鑑を見やれば、二匹のポケモンが図鑑に映し出されていた。

…………今までアヤが持つタイプでは無かったポケモンだ。まあそれは今までの手持ちがあんな巨体で少々癖のある奴らだったからだろうと思うが。

そこでそうか、とレッドは思う。ゾロアと言いチラーミィと言い、アヤは根っからの見た目(この場合中身は悪魔の化身が多いと知らず)可愛い物に憧れている人間だ。いや、“可愛い外見”には絞らないが、アヤは直感でピンと来たポケモンは全て興味を誘う対象である。

だから、この画面の二匹もアヤの直感にストレート勝ちした二匹であろう。だがまぁなんとなく、アヤが好きそうなポケモンだった。



「ああぁぁぁぁぁああぁぁ…!!」

「…ゲットするならボール、用意しておけよ」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」

「おいアヤ、聞いてるか?」



想像以上に二匹への衝撃が強いらしいことも。



直感ストレート

(本当は可愛いポケモンに憧れていました)(でも最初可愛くても進化するとみんなゴツくなるそんな現実)




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