act.09 手持ち一匹目




「(………所々、中途半端に埋まってないな)」



レッドはカノコタウンのアララギ博士から受け取ったポケモン図鑑を弄っていた。

「新しい図鑑の埋め合わせ」

そう、今回のレッドの旅の目的はこれだ。どうにもフルに完成させた図鑑が必要らしい。

因みにこの依頼はワタル直々から頼まれた事であり、まあ暇だし新しい土地だし、と言う何とも軽い理由だけれども容易く返事を受けた。まあそれに関しては自分が楽しむ事を前提に、ポケモン図鑑はおまけ程度にしかレッドは思っていないのだが。

だがしかし。こんな中途半端に未完成な図鑑、ちょっと根気良く探せば直ぐに見付かるレベルだ、とレッドは訝しげに首を傾げる。(※勘違いしてはならない。悪魔でもそれはレッド感覚である)

何故基本的な新人に任せないのか、そして何故こんな中途半端なままなのか疑問が浮かんだが生憎、図鑑を持たせた新人が途中放棄でもしたんだろう。

ピピピピ、と早くも操作を覚えたレッドはNo.00〜152までのポケモン達を上から一気に記憶していく。


それから数分経ち、漸くポケモン図鑑から目を離したレッドはアヤに視線を向けた。

…のだけど。



「………………」

「………………」

「…ロァ!」

「………………」

「……ロァ?」



レッドの視線の先、正座のまま固まっているアヤは黒い物体、ゾロアもといイッシュに来てからの“初めてのポケモン”をじっと見つめていた。

いや、見つめると言うより正面から向かい合い観察していると言った方が正しいのかも知れない。

そして自分からモンスターボールの中に収まり、意味が分かっているのかいないのか知らないが、アヤの手持ちになったゾロアは主人の周りを飽きることなくウロウロと歩き回っていた。

小さな黒い毛玉が周りをちょこちょこと動き、時にアヤの服を引っ張ったりチョイチョイと前足でつついたりとちょっかいをかけ続けている。どうやら構って貰いたいらしい。

しかし何をしても反応を示さないアヤに、ゾロアはついに不安そうに首を傾げた。けれど漸くフンフンと匂いを嗅ぐゾロアの頭を撫でたアヤに、ゾロアはゴロゴロと喉を鳴らして体を横たえる。

また、固まるアヤ。



「……………ハァ、」



……大方、レッドにはアヤの考えている事が手に取るように分かる。

手先が僅かに震えていて今にも抱き締めようとせんと踏みとどまっている事がまる分かりだ。かなり心撃たれたらしい。

…何を我慢しているんだか。好意を示しているならそれに答えてやれば良いのに。とレッドは思う。もう一度深く溜め息を付き、背中を押してやる事にした。



「…別に見た感じ好かれてるし抱き付いても大丈夫だろ」



ズシャアアアアアアッ!!!



瞬間、ヘッドスライディングするようにアヤはゾロアに飛び付いた。



かわいい子よ!

(なんか言わなきゃ良かったと後悔した)


 




- ナノ -