act.104 薬の調合





アヤが幾分か落ち着いた頃。

今度は問題の根源である未だアヤの腟内をぎゅうぎゅうに圧迫する異物を取り除く為、レッドは考えていた。



「(……抜く時かなり痛いだろうな)」



横になった今現在のアヤも未だ顔色が優れない。冷や汗からかしっとりと汗をかき、顔が青い。というより本来の生理痛の怠さもあり色んな所が痛そうだ。



「(そんなに痛むのか)」



男である自分に女の痛みも苦しさも、そんなものは分からない。理解しろなんて言われても想像しかできないし。おそらく一生わからないだろうな、とも思う。出来ることなら代わってやりたいがこればっかりはどうしようもない。

とりあえず今は異物のせいで横になっても何もしなくても痛みがあるらしい。レッドの慰めにより「傷ついてもっと酷くなる前に抜こうな」という提案には今度は勿論反論もなく、素直にアヤは小さく頷いた。というかさすがにこれ以上痛みに耐えきれなかったらしい。そして汗ばんだ頬を撫でるとアヤは顔色悪くも自分からおずおずとレッドの掌にくっついた。



「(かわ………)」



んーかわいい。はー…とレッドはときめく心臓を押さえつけながら心の中で合掌した。

可愛い。やはり何をしても、何をしなくても自分の嫁(予定)は最高に可愛かった。
生きてそこに座って呼吸してるだけでいいのだ。呼吸して傍にいるだけで自分の平穏と安寧は保たれる。可愛くて最高だ。

自分の感性と母性みたいなのを激しく刺激されながらレッドはアヤの頭と頬を両手でワシワシと撫で続ける。



「(……よし、)」



ふ、と彼は息を吐いた。



「アヤ、タンポンは俺が抜き取っていいか」

「えっ……………ゃ。それは、ちょっと……」

「……自分で抜けるか?」

「……じ、自分で。もちろん。じぶんでやる……」



アヤは若干震えた。けれど少しの間考える素振りを見せて自分で、と頷く。



「じゃあ…ちょっとまたトイレに…」

「だめだ」

「え?」

「ここで抜け」

「えっ…」



アヤは言葉を失った。

なんか、何だか。

変なプレイを開始するみたいで。

アヤは唖然としてレッドを見るも、彼の顔は至極真面目であった。



「挿れた時と、今もかなり痛いんだろう?」

「あ……う、うん…」

「恐らくだが、抜く時はそれ以上に痛いぞ」

「ぅぐぅ」

「タンポンは最初挿入時はプラスチック容器だったろ。滑って何とか入ったが。今は綿の塊が中に入ってる。血を吸ってない状態は潤滑剤の代わりがないから、恐らく擦れて激痛だろう」

「ひぇ…」

「加えて無理に捩じ込んだからもしかしたら擦れて傷になってるだろうしな。その傷になったところを引き抜いてみろ。どう考えても激痛だろ」

「っ……!!!」



アヤは思った。

やっぱり自分でしなきゃ良かったと。

激しく後悔した。

そしてちょっと泣いた。



「タンポンが血を吸い切った頃に抜こう。アヤ、箱を貸せ。何時間持つタイプを買ったんだ」

「…ボクの、鞄に…」



そう言ったアヤの言葉を聞いたレッドは、ベッドから降りて机の上に置いたアヤの鞄の中をチェックし始めた。モンスターボールや傷薬、木の実の入った袋、戦いの中使用する道具。その他日常生活品が纏められた袋の他に、小さな紙袋を見つけた。これか、と見なくても直感的に分かったソレに、レッドは紙袋を開けた。



「…………」



思わず眉を寄せてしまった。

袋の中から箱を取り出し、よくよく見るとそのタンポンはサイズの中でも一番大きなサイズだった。なんで初心者なのに、しかも指一本も入らないのにこんなデカいの買って無理に捩じ込んだんだ、と…。

しかもあの痛がりよう。

まさかと思ってレッドは恐る恐る聞いた。



「アヤ、お前今何日目だ」

「せ、生理?まだ、初日……朝になったばっかり…」

「………」



レッドは内心頭を抱えた。

まだ経血量が少ない初日の朝に、指一本入らないここにこんな太い異物を捩じ込んだのかと。

あ、アホすぎる…。

思わず貶してしまったが。本当にアホだ。馬鹿野郎である。

これは、相当痛いぞ。血を吸いきるまでどれだけの時間を待たなければならないのか。しかしその時間、アヤは痛みに耐えられるのか。

いや、無理だ。

挿入してトイレから出てきて既にもう1時間は経ってるのに、更に顔色が悪くなっている。早めに抜いた方が良いに越したことはない。まだ初日の1日目でこれでは血液なんぞそう吸わない。アヤに「これは2日目とか、血液の量が一番多い時に使う物だ。初めてならもっと初心者が使い易いような小さいタイプにすること。でもお前はもう無理して使うなよ」と念には念を入れるようにアヤに注意した。
そんなレッドに「なんで生理用品についてそんなに詳しいの…?」と問われると彼は戸惑いなく「勉強した」と大真面目に即答したのである。


以前、アヤとイッシュ地方へ旅に出る前、初めてレッドの前で月経になったアヤを見た彼はおっかなびっくりであった。

女の体の仕組みは家にいる時に散々教えられてきた。まあそれが知っておいた方がいい事も含まれていたが、特にまだ小さな幼子にそんな性的知識、絶対必要ないと言った事まで。こと細く説明をされてきた。そんなレッドは自分には関係の無いことだし、全く興味がなくて流す程度に留めて聞いていたのだが。


そんなこともすっかり忘れ、アヤと一緒に布団に入って、ある朝目覚めたら布団が真っ赤に染まっていた時は死ぬ程驚いた。アヤの下半身を中心にして血で染まっていた。アヤはまだのほほんと寝ており、そんな彼女をレッドは叩き起した。どこか怪我をしているのか、もしかして悪い病気なんて持ってるんじゃないのか、だとしたらどうして言わないんだ、なんてレッドに頭ごなしに質問をぶつけられたアヤは終始頭の上に「?」がずっと飛んでいて。

そして次第に意識が覚醒して。自分の状態を見て、小さく悲鳴を上げて飛び起きた。
急いで血塗れになった布団を内側に畳み、風呂の中へ放り込む。今度は着替え一式を持ってバタバタと風呂へ駆け込んでしまった。

僅か数十秒の出来事にポツンと一人置いてかれたレッドは目を瞬きながら「あいつ…あんなに動いて大丈夫なのか」と心配したりもして。とりあえず出てきたら質問攻めしてあらいざい吐いてもらうことにして。しばらくしてシャワーの音が鳴りやみ、シャワールームから出てきたアヤは物凄い気まずそうな目でレッドを見る。



「あ、あの…おめ汚しを…」

「おめ汚しじゃなくて、平気なのかお前…」

「う…うん、全然大丈夫だよ。そういえばもうすぐ生理だってこと、忘れてた…」

「生理、」



その時、初めてレッドは「月経」について思い出したのであった。

家で教えてもらったことは全て興味もないし流して聞いていたから殆ど無知と言っていい。しかしこれから一緒に行動するとなると無知ではいけなかった。加えて自分が好きな女なら尚更。レッドは一から、全てを調べ尽くした。何故か生理用品や飲み薬の種類なども頭に叩き込んで。月経には個人差はあれど、1ヶ月に一度は経血として短期間、長くて一週間程、もっと長くて8日間以上排出される。それが痛みを伴ったり、頭痛や吐き気、人によっては身動き取れなくなるほどの痛みがあることも。情緒不安定になるようなこともあるという。

幸いにもアヤの月経はそこまで重症ではなかった。腹痛は酷いが殆ど薬で相殺できる。稀に腰が痛くなることはあるが、全く動けなくなるほど酷くはならない。しかし体の気怠さは少しあるのか、できれば大人しく座っていたいです…と言うのがアヤの本音だ。それを聞いて改めてレッドは「安静にしていなさい」と声をかけたのだった。まあ生理中の間もアヤは比較的いつも元気なのだが。

…とまあそんなこんなで。生理用品にもある程度どんな種類があるのか、その使い方などもレッドは事前に調べて知っていたから。今回行ったアヤの行動は無謀とも取れるもので。



「布団、見えないようにかけてやるからそのまま抜け」

「ううっ……ここで…!?せ、せめて後ろ向いてて欲し……」

「早く」

「……は、い」



布団をかけてやると、アヤはその下でモゾり、動いた。

自分の秘部へとソロソロと手を伸ばし、下着をずらしてそこから伸びている紐を指で摘んだ。軽く引っ張るが、ガッチリ固定されているからか少し引っ張っただけじゃうんともすんとも言わない。

来る痛みを予想して、アヤは意を決して力を込めて引っ張った。


が。



「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」



激痛だった。

どっ、と吹き出る汗。ドクドクと脈打つ心臓の音が耳の奥から聞こえてくる。

腟内に収まっていたものを引っ張った事で、少しズレて、それが痛覚として呼び起こされた。痛みから言葉を無くし唇が戦慄く。一瞬で吹き出た汗の量を見て、レッドはついに立ち上がった。ちょっと待ってろ、そう言って寝室を出ていく。

ガチャ、と今日はもう開くことはないと思っていた扉が突然開かれたのを見て、ソファで丸まっていたピカチュウが吃驚した顔で己の主人の顔を見た。



『なに、どうしたの?』

「チュリネは?」

『窓の方にいると思うけど……チュリネー?』



レッドとピカチュウ。揃って窓の方を見るとチュリネは太陽の光を浴びてうとうと眠っていた。光合成でもしているのだろうか。因みにオシャマリは珍しくボールの中に戻り休んでいるらしい。

レッドが軽く指先でつつくと飛び起きた。



『はわぁ!』

「すまん」

『えっ、あ!すみません、私ったら眠ってしまって…』

「いや、眠ってていい。好きに過ごしてくれ。」

『あ……あの、アヤちゃんは……?』



チュリネはモニモニと動き目を白黒させている。

部屋中を見渡すが、レッドの他につい先刻まで真っ赤な血に染った自身のトレーナーの姿は無かった。もしかしてまだ体調が優れないのだろうか。もしくは酷い怪我をしていて、それが治らないとしたら…。レッドが大丈夫だと、そう言っていたけれど。実は全然大丈夫じゃなかったら。

それなら……とチュリネは青い顔をしながら予め用意していたティッシュで包んだ“薬”を二つ、レッドに手渡した。



『あの、これ』

「!」

『レッドさんに頼まれてたものと、それと痛み止めです。アヤちゃん、何だか苦しそうで痛そうだったから……。時間はかかりますが傷を治したりも、できます。』



生理痛と言ってもそれが何なのかぶっちゃけわからない。話に聞いただけではポケモンであるチュリネには想像もつかなかった。というか血が出ているのだからそれはもうチュリネから見たら何かの病気としか思えない。

アヤを見て一目で体調が悪そうだった。苦しそうで痛そう。何とかできないかな。ピカチュウもオシャマリも死ぬような事じゃないと言っていたけれど、もし万が一でも死んでしまったらたまったもんじゃない。ここは安心安全の、新しい自分の寝床でもあり居場所なのだ。

だから新しく自分の主人となったアヤの為に痛み止めを即席で調合した。……痛み止めと言っても、症状も用途も分からなかったが。
外からの痛みなのか、中からの痛みなのか。チュリネが今回用意した薬は先程レッドから頼まれた飲むタイプの眠り薬と、汎用性のある痛みを分散させて血を止めて傷を塞いだりすることができる痛み止めだ。これは塗り薬と飲み薬の二種類。だって血が沢山出ていたということはどこかが傷になっているということだから。

チュリネの家族達の中でもかなり評判ある薬だった。本当なら調合した薬は葉っぱに留めておきたいがここには葉っぱはない。だからティッシュというものに軟膏を置いたらなんかベタベタになってしまった。これではあまり使えないかも知れない。解せぬ。



『……私には、これしかできないから。せいりって言うのがなんなのかも、正直に言うとよく分かりませんでした…』



アヤは今どんな状態なのか。あの出血は何なのか。そもそも、どんな風に体調が悪いのか。どんな痛みのか、それか気持ち悪かったり吐きそうなのだろうか。それが分からないとチュリネにも薬の調合はできない。



『そのせいりつーでは、アヤちゃんは死なないってみんなに聞きました。でも、絶対なんて言いきれますか』



チュリネは基本自分で見たものじゃないともう信じられなくなっていた。
自分の元住処であったあの森は比較的安全だった。異変が起きて、周りが気をつけてと言われても、心の中では大丈夫だろうとか。他の群れの強いポケモン達もいるし、いざとなったらその脅威を排除してくれるだろう。それに自分たちの所にまで来ないだろう。……なんて慢心したりもして。まあ舐め腐った結果があんな結果になって、独りになってしまったわけだが。

だから自分が安心、と思うまでチュリネは疑い続ける。

小さな手で差し出されたそれが、その小さなティッシュが何なのか。(ベタベタのティッシュはきっと軟膏なんだろうがまともに使えないな……とレッドは思った)勘で分かったレッドは「早……」と思わず口に出す。それを受け取ったレッドは多少驚きを露わにしてチュリネを撫でた。

頼んでからまだ数時間しか経っていないのに、思った以上に優秀じゃないか。



「………ありがとう。……だが、すまん。違くてな」

『え?』

「チュリネ、今即席で新しい薬を作ることはできるか?」

『新しい薬?今作ったものじゃ……』

「すまないが、用途が違う。けど…この痛み止めは今すぐ使えるな。この後アヤに飲んでもらう。ありがとうな」

『?えっと、どんな用途でしょう…?アヤちゃん、いったいどんな感じなんですか…?』



己のトレーナーが、見るからに様子と顔面の色がおかしくて、そして両手や便座が血塗れになって立っていたあの姿。

チュリネからしたら初めて見る人間の悲惨な姿であった。

あの“トイレ”と呼ばれる場所が何なのかは、チュリネでも何となく分かった。人間が排泄する為の場所だ。ポケモンでも吸収した栄養を日々排泄しながら生きているから、何ら不思議では無い。ただ、決められたところで排泄をしなければならない、ということを除いて。

排泄箇所から血液が出るのは、何か病気を患わっていることがポケモン達の一般常識だ。しかもあの血の量。アヤは、自分のトレーナーは何か重い病気を持っているのかもしれない。チュリネはそう予想して、思って、震えた。だ、だめ。死んじゃうなんて。え?アヤちゃん死んじゃうの?そんなに悪いの?

そう思って。

レッドが「大丈夫だ、心配しなくていい」と言っていたけれど。あの時のアヤを思い返してしまったらいても経ってもいられなかった。何かをしないと気がすまなかったチュリネは、薬を爆速で精製した。頭の葉っぱをピカチュウに引っこ抜いてもらって(ピカチュウは正気かコイツ、と言ったような引き攣った顔をしながらも手伝ってくれた)調合を始める。

自分の頭の葉っぱは栄養が沢山詰まっていて、どんな用途にも代用ができる。

これは、他のチュリネには持ち合わせていないものだと知ったのは随分と昔だ。
兄妹や両親に『そんなことができるチュリネはたぶんいない』と言われたのをきっかけに、沢山色んなことを試してきた。

だって自分は戦えなかったから。

自分のできることで、家族を守りたかったから。

でも、それももういない。

いくら仲間達と違う事ができても、戦うこともせずに何も出来るわけが無いのだ。
“あの時”は薬を調合なんてする暇もなく、家族みんなが命を落としたから。

自分の居場所がなくなるのは、もう嫌だ。

だから、新しい安全な居場所である“アヤ”をまた無くすのはチュリネにとって途方もない恐怖だ。薬で彼女が少しでも元気になるのなら、自分の労力、体の一部を対価に差し出すことなんて造作もないこと。

チュリネは薬の一つや二つ、いや、アヤが治るまで“自分を削って”薬を生み出すことに対して戸惑いや躊躇は一切なかった。



「麻痺させる薬だ。体の痛覚を無くす薬を作って欲しい」

『……ま、麻痺……』



痛覚を消す薬。

やっぱり、アヤちゃんどっか悪いんだ。

チュリネはそう思って。



『麻痺する薬を作ることはできます。でも、でも。それは“毒”と一緒です。私達ポケモンが生み出す薬は人間にとって強すぎます。……毒、です。全身の痛みを無くすくらいの薬をご所望なら、たぶん人間のお医者さんに薬を出してもらった方が……』

「ああ、すまん。そうじゃない」

『??』



え?違うの?どういうこと?

チュリネは全く話の内容が見えず、首を捻った。捻れる首はないから胴体ごとコテン、と傾いているのが可愛い。アヤが見たらにっこにこだろう。

レッドはしばらく考えて、ことの要点を掻い摘んでザックリと、しかし分かりやすくチュリネに説明することにした。別に、自分とそういう生々しい事をしたいがためにこんなことになっている、とは一切話さず。

それを抜きにざっくり。



_________
______
____




『に、人間って……大変なんですね……!』



レッドの話を聞き終えたチュリネは吃驚たまげていた。

人間は月一度、自分の胎盤に新たな生命を宿す準備をして、それを過ぎれば古くなった血液が剥がれて、排泄する所と同じような箇所から出血を催すという。

その期間はざっと1週間。

人間に発情期などはない。ポケモンと違って。
そしてそれは体に負担となって、痛みとなり日常生活を阻害させる。
その状態が、今のアヤだということ。



「ああ、大変なんだ」

『た…大変!じゃあ寝込むくらいそんなに痛いなら痛み止めを………、…?なんで麻痺の薬なんですか?麻痺より、さっき渡した痛み止めの薬の方が…』

「………………その、血液を排出する所に。アヤが無理くり異物を捩じ込んだから、だ」

『なんで!?』

「いろいろあるんだ。それのせいで今呻く程痛みが凄くて、それを抜きたい。ただ、激痛で簡単に抜けなくてな……」



血液を排出するところに、異物を入れる……?
え、なんで?あ、もしかしたら血だらけになるのが嫌だったから……?確かにあんなにトイレ内と両手を血みどろに出来るほど、その血を流す量が多いのだとしたら蓋くらいしておきたい。
そんなチュリネの思考を見透かして「血液が出るところをずっと個人差にもよるが長時間蓋をしていると、毒素が溜まって、最悪死ぬ」と言うとチュリネは震え上がった。

なんで、なんでアヤちゃんそんなとち狂ったことしてるんだろう……。

自分のトレーナーは案外サイコパスなのでは…。

ブルブル震えているチュリネを尻目に、ピカチュウはそれを聞いてなんでアヤがあんな血濡れの様子だったのかやっと分かった。そうか。痛みが尋常でなかったからトイレから出てきた時は放心状態だったのか。そして何でそんなことをしようと思った、その理由も。



「(なんて不器用な子なんだろう……)」



やれやれ、とピカチュウはため息を付きながら今も寝室でぐったりしているであろうアヤを想像して肩を落とした。

もう。やめてよ。アンタが変なことする度に主人の情緒がおかしくなるんだから。もっとそこんとこ自覚持ってよね。なんて思いながら。



『あの。じゃあ局所的な場所の痛みを感じさせなくさせればいいってことですよね。それなら、麻酔の役割を担う薬を作ります』

「作れそうか」

『はい。でも、どこまで痛みを無くすことができるか…塗り薬で効くかなぁ…』



人間の体のことなんてチュリネが知るはずもなく。果たしてその異物が入っている箇所はどんな風な構造をして、どれだけの大きさの異物が入っているのか。

とりあえずチュリネはわからないながらも、後に副作用を残さないように調合してみることにした。






薬の調合

『さぁ!ピカチュウさん!おもっきり引っ張ってください!』

『………引っ張るけどさ…いや、手伝うけどさ……なんでそんな興奮してんのさ……』

『アヤちゃんの薬を作るためです。こうして気合いを入れます』

『とりあえずアヤの前でこういうことすんのやめなよ。っていうか絶対にするなよ。……いくよッッ歯ァ食いしばれーー!!』

『ピッ…ピギィィィィッ』


ブチブチッ



「(…………物凄い絵面だ……)」



この時のチュリネはニャースにストッキングを被せて引っ張ったような、潰れたニャースのような顔をしていたという。

ピカチュウが思い切ってチュリネの葉っぱを引き千切るという珍場面を見ていたのはレッドの他にボールの中のサザンドラとオシャマリだけ。

レッドは密かにドン引きした。









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